71.ボス戦 イレギュラー発生
「いや! やっぱり増えてる!」
「多分、稲光の閃光の瞬間に増えてる」
自動生成ダンジョンの中にたまにボスが現れるVRMMO。クローズドベータ版。
ボスエリアに偵察に来たが、未知の攻撃に戦々恐々である。
何せ即死攻撃のある敵が大量にエリアにばら撒かれ始めたのだ。
鬱蒼とした森の中、雨がぱらぱらと降っている。
スキルが目立つケイは先行していた。皆との間が開きすぎないように、かつ落雷攻撃があった時に巻き込まないと推定される距離を開けて緑火鳥居に先導している。
「うひゃ!」
先行していたケイが木の陰に居た骸骨型八十禍に気付かず接近してしまった。
案の定掴み上げられる。数秒後に即死させられる攻撃動作である。
しかし八十禍の首に攻撃エフェクトが閃いた。その一撃で八十禍は消え去り、ケイは解放された。
「よし、忍者の確殺は効くな。検証御苦労」
ジオの忍者のジョブスキル。必殺攻撃であった。
ケイはシキに跨り直しながら文句を言う。ジオはケイを放って、ケイのスキルに表示されている鳥居の位置を眺めた。
「ここを右に行った黄色火鳥居の方が近い。そっちに行こう」
閃光とともに雷が轟き。また森を徘徊する黒い影が増えた。
こうなったら一刻も早くボスエリアから抜けたいところである。皆異論は無かった。
ケイが行き先を黄色火鳥居に変えて進み始めたときである。
ケイの背後で落雷が響き、閃光が走る。背中をやわらかいもので叩かれたような感触がして、ダメージを受けた事に気付いた。
見ればHPが五分の一ほど減っている。MPも同じぐらい減っているが、恐らくシキに入った雷のダメージである。
「うわ」
「やっぱり範囲攻撃かー」
落雷は近くの木に当たったらしく、周囲に居たケイ、影助、鉄人、ジオに当たっていた。
「範囲回復投げるよー。寄って寄って」
サラがダメージを受けたメンバーの近くにHP回復薬を投げた。薬師の範囲回復なので、五分の一ほどのダメージなら大体すぐに全回復である。
「あんなん何度も喰らってられないから、急ごう」
五回食らったら死ぬ。黄色火鳥居に向けて急いだ。
途中、何度も雷が鳴る。
どの方向を見ても骸骨型八十禍がうろついている。ケイは確かめる様に独り言を言った。
「……何かさっきと比べて明確にこっちに向いてない……?」
その時、急に少し離れた前方の木に閃光が走り、雷鳴が轟く。
「ひえっ!」
と、何かが落ちて来た。
「……ジオ!? 何でそんなとこに居んの!?」
サラがすかさず蘇生させたが、ジオが不機嫌そうにケイを睨んだ。
「何でとは何だ。さっきお前が先行して掴まれたから木の上から偵察してたんだよ」
ジオとサラはシキに同乗、ケイはシキに咥えられながら先行している。サラの自動回復量増強のスキルは近い方が効果が高いからである。
周囲は足を進めつつ考察している。
「ジオ、さっきはそんなダメージ喰ってなかったよな?」
「やはり攻撃の種類が違うんでしょうか?」
「崩彦さん居ないとこういう時に困るな」
とりあえず忍者は比較的打たれ弱いとはいえ、このボスには前衛が即死するレベルの大ダメージ攻撃がある。
そうして黄色火鳥居を抜けると、そこは三階層の別エリア。
やはり鬱蒼と茂る森の中であるが、一行はようやく一息ついた。
「はぁ、びっくりした」
「かなり攻撃の種類がありそうだな。即死攻撃持ちの八十禍召喚と範囲攻撃と大ダメージ攻撃」
「あんな大きいのどうやって倒そう……」
「やっぱスキルでドカンってのが推奨か」
誰かがそう言った時、辺りに低音が響いた。大太鼓に似た、しかし聞き覚えのある音である。
全員が顔を見合わせる。
遠くの青空に真っ黒い入道雲がわき出していた。
その雲の隙間に見えるのは例の巨人型の大禍である。
「え!? ボスってエリア跨いで追ってくるの!?」
「いや聞いた事ない!」
「緑火鳥居はあっちの岩山二つの間ぐらいだな……ケイ、鉄人。俺らはおおよその方向に移動してるから、ちょっと頼まれてくれるか?」
「おうよ?」
「どうした?」
不思議そうな顔をする二人に、ジオがケイの頭上を指した。
「誰か巻き込んだっぽい。ボス擦り付けした形になるのはちょっと気まずい」
緑火鳥居に向かうルートから少し外れた所、恐らく1パーティー四人が居る。
「別にいいけど、何で俺も?」
ケイを送るのは分かる、プレイヤーの位置が分かるからだ。鉄人もついて行かせる理由に数人が首をかしげる。
「騎獣持ちだから人を運べるってのと、どっちかが途中で捕まってもフォローできるように」
「ああ、即死攻撃だもんな……」
ケイ一人で行かせて途中でやられてしまうと連絡が途絶してしまう。
全員で行くと騎獣持ちでないメンバーの足に合わせる事になる。
ケイと鉄人は八十禍が大増殖しない内に駆けだした。