70.ボス発見
自動生成ダンジョンにたまにボスが現れるVRMMO。クローズドベータ版。
ボスがお化け系っぽいので、無理している縁をどうにか帰らせるところである。
苦手なものを無理にする事は無い、ましてやゲームである。
ケイはシキに縁を乗せて、緑火鳥居まで来ていた。
「素材は縁さん持って帰ってよ、俺ら死ぬかもしれないし」
「いえ、せめて葡萄と竹は皆さんが持っていた方がいいです」
縁はそう言ってケイの素材入れに葡萄と竹を詰め込んだ。本当は桃も渡したそうだったが、貴重品なのでケイの方から断った。縁は困り眉をさらに困らせ、後ろ髪引かれる様に緑火鳥居をくぐって町に戻っていった。
縁を送って探索を再開する。
「そっちはどういう集まりなんだ?」
ジオが鉄人達四人に問いかけると、それぞれから返事があった。
「ボス偵察して、とりあえず安全確保しながら撤退できればいいって感じだな」
「俺はスキル連携要員ですね。この人数を道敷大神で運ぶのは無理なんで」
「僕は防御担当です」
「俺は例によって全滅時の保険」
騎士の鉄人、式神使いのソライロ、防御スキルのある術師の秀吾、全滅時のペナルティ無効スキルの徒士の影助であった。
そして、ケイ達は見つけた八十禍の情報を共有する。
「範囲が分かりづらい即死技かぁ……面倒だな」
「あ、噂をすれば」
遠くに見えるのはケイの軽いトラウマ、黄泉軍と思われる骸骨型八十禍である。
皆で頷き合う。検証開始である。
秀吾が術で撃つ。ダメージを食らった風ではあるが、一撃では倒せない様子である。変わりなくふらふらと歩いている。
「攻撃受けたらこっちにダッシュで向かってこないだけよしとするか」
動かない敵に攻撃を仕掛けたら凶暴化、たまにある仕様である。
続いて同一個体に試したのは、薬師のサラによる爆弾である。
「うっそ、爆弾でも一撃じゃ無理なの!?」
薬師の爆弾は中距離で高攻撃力を誇り、術特性もあるだけに、この結果は脅威である。
「物理攻撃が効くかが分かんないのが怖い」
「大薙行ってみるか」
鉄人がジョブスキルの中距離強攻撃を加えた所、倒した。物理攻撃は効くようである。
人魂の様な直毘神が、赤い石を置いて行った。
「物理が効くなら、掴まれさえしなければ忍者のジョブスキルで必殺できると思う」
「まぁ八十禍対策は追々だな、ボスの姿も見ずに誰か落ちても困るし」
骸骨型八十禍は動きが遅いので、障害物として注意だけ払って進む方針である。
ケイとサラの連携スキルがあるので、ほぼボスまで一直線に進む事ができる。鳥居をくぐるたび、スキルに表示される黒い炎は濃くなっていった。
「暗っ!」
エリアに着いた最初の感想がこれである。
「月読のスキル持ちさんですかね?」
「月読のスキルならもうちょっと真っ暗いと思うけど……」
他ならぬ影助の申告である。
三階層。鬱蒼と茂る森と曇天で、周囲は暗い。
「ボスエリアここだよな?」
「多分、スキル消しちゃってて分かんないけど」
ボスに不意打ちを掛けられても困るので、ケイ達の目立ちすぎる連携スキルは鳥居をくぐる前に消している。
「ボスはどこだ?」
「ちょっと上から見てみる」
ジオが飛ぶように木に登って行った。
「え!? あれボス!?」
そしてジオが叫んだのが聞こえ、飛び降りてきた。
「見つけたか?」
「どっちです?」
ジオは尋ねる仲間たちに軽く手を振る。
「ここからでも見えると思う。あれ」
指したのは斜め上である。
ボスの姿を認めて動揺が走る。
暗雲の中に霞むように、巨大な白い彫像が立っていた。
古代の衣装を着た女神像である。
恐らくこれが巨人型ボスなのだ。
雷光で森の中が一瞬照らされた。
同時に、森の木立に紛れて、赤く光る目を持つ黒い人影がゆっくりと立ち上がった。
道中見かけた厄介な骸骨型の敵、今回のボスの眷族、八十禍と思われる。
再び閃光が光り、雷鳴が轟く。
「よし緑火鳥居を探そう。そこを拠点に攻撃パターンを見る」
緑火鳥居、いつでも町まで退却できる場所である。
ジオが指示した。
「ケイ、ちょっと離れてスキルで先導してくれ。多分雷攻撃あると思うから」
「まじかー」
ケイのスキルは目立つ。最初にボスに攻撃されるとしたらケイである。
秀吾が軽く手を上げた。
「僕がケイさんの防御担当しましょうか?」
「いや、敵のスキルの予備動作が分からないと秀吾さんのMPが無駄打ちになるので」
いざというとき味方全員守れるスキルである。温存しておきたい気持ちが先に出る。
ケイはジオにブーイングしてはいたが、状況はよく分かっている。
言っている間にも稲光が光り、雷鳴がとどろいている。ケイが拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【猿田彦神 支加】
ケイは先導すべくシキを進めたが、ふと皆に声をかけた。
「……こんなに八十禍居たっけ?」