7.はじめてのダンジョン探索
はじまったばかりの純和風VRMMOベータテスト。
能力の検証も兼ねて早速ダンジョンの一層に行ってみる事にした四人組が居た。
純和風……とは? という疑問は置いておいて、サラリーマンとスケボー少年とエルフと大正袴の一団である。
「富士山だ~」
エルフ少女の縁が声をあげる。
ところどころ丈の高い草で覆われた広い平原。遠くに森。その向こうには裾の広い富士山っぽい山。
「では当方と縁さんは周囲を見張ります」
「あ、見張り、がんばります!」
要が剣を構え、縁が弓を構えて反対の位置に立った。
その間に居るジオがケイに声をかける。
「それじゃあ早速、ケイ」
「お、おう、どーすんだっけ?」
「俺も使うから後に続けてくれ」
拍手を打ったジオにケイが続ける。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【思兼神 思兼神に思はしめ】
【猿田彦神 道標】
ケイの頭上高くに浮かぶ、赤いまん丸の火の玉。
そしてケイの周囲、頭のすぐ上の辺りの高さにも同じくまん丸い火の玉が現れた。色はそれぞれ赤、緑、黄の明るく淡い色。これらの色つきの火の玉は等間隔でなく、距離はまちまちで浮いている。
先ほどの訓練場では出なかったものである。
「何か増えた……」
ケイが自分のスキルに気をとられている間、ジオは少し周囲をうかがうと、指示を出した。
「誘引はしてるが、まだ遠いっぽいな。
よし、ケイ、ちょっとその場をぐるっと歩いてみ」
「?」
ケイは言われるままにその場で数歩、ぐるりと歩く。
その様子を観察して、ジオは口を開いた。
「ケイの位置や向きにほとんど関係なく、赤、緑、黄の火の玉の位置がぶれない。
何かの方向を示している可能性が高い。
多分、出口を示している」
「おお!?」
「今ので分かったんですか?」
声を上げるケイと驚く縁。ジオが答える。
「ケイの神様の性質を考えるに、可能性が高いかと。
猿田彦神。道に関わる神様なので」
「そうだったんですねー……
あ、禍津日神来ました。兎です」
縁の指す方に、草をかき分け近づいてくる、青く燃える仔牛ほどの黒兎が居た。
それを見たジオが指示を出す。
「あと二方向から来てますが、まだ遠い。兎禍に集中攻撃してください。
ケイは近くに居る八十禍全員にタゲられてるから、近づかれたら式神で走り回って攪乱してくれ」
「了解」
しかし撹乱するまでもなく、兎型の禍は縁の術を数発受け、こちらに近づくことなく沈んだ。
反対方向から来たイタチのような姿の禍は走り寄った要が一刀で屠り、そこから少し離れた所で待ち構えていたジオは、近づいてきたヘビ型の禍を三連撃で倒していた。
一階層は難易度が低いというのは本当らしい。
「俺、やることなくない?」
手持ち無沙汰のケイがきょろきょろしていると、縁が直毘神に囲まれていた。
「え、くれるんですか? ありがとうございます。
え、こっちも? え? あ、ありがとうございます」
真っ白いウサギ、ツチノコ、イタチに囲まれている。何だか縁が直毘神にやたらと人気である。
「もしかしてあれが大国主命のパッシブスキルか?」
ジオと要が戻ってきていた。
「どういうこと?」
「普通はあんなに直毘神はアイテム渡してきたりしないんだよ。精々十回に一回ぐらい?」
「そうなの? 大国主命って、因幡の白兎だから? 兎に懐かれるとか?」
「いや、大国主命は元祖、不遇スタート型チーレム主人公だ」
「……もっかい?」
「元祖、不遇スタート他力本願型チーレム主人公だ」
「何か伸びなかった?」
「兄達に荷物運びとかでこき使われる不遇スタート。小さい子や小動物に優しい。女の子にもてる。とんでもなく強くなる。他の神様の助けを借りて色々解決する。チーレム主人公だな」
「おい絶対何か嘘ついてるだろ」
要は軽く目をそらしている。
直毘神にプレゼント爆撃をされた縁が戻ってきて苦笑していた。聞こえていたらしい。両手いっぱいに果物やら石を抱えている。
その様子からジオが仮説を立てた。
「ゲーム性能で言えばアイテムドロップ率大幅アップとかだと思います」
「そうみたいですね」