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67.四階層

 このゲームは自動生成されるダンジョンに敵と次のエリアに向かう出口が配置される、オーソドックスなダンジョン攻略ものである。


「……スキルの火の玉に尻尾付いた……」


 ケイのスキルはいわゆるマップ表示。このダンジョン内で別のエリアに向かう出口の位置が、頭の周りに浮かぶ色とりどりの火の玉で表示される。

 ジオがケイのスキルを見ながら呟いた。


「……この尻尾は……騎獣持ちでも鳥居まで登れるようにルートを自動生成してるっぽいって聞いたから、それかな?

 しかし話には聞いてたけど……四階の高低差えぐいなぁ」


「山って言うか崖って言うか……」


 ケイ達が居るのは霧深い山の中腹といった雰囲気の場所である。

 目の前が崖、背後は谷、左右に細かったり広かったりする道らしきものが伸びている。

 ケイのスキルだけ見ても鳥居の位置を示す火の玉の高さがばらばら、つまり高低差が大きいのである。

 シキは垂直移動が苦手なせいか、心なしか元気がなさそうに尻尾を揺らしている。


 VRMMOクローズドベータ版。

 現在四階層に下見中である。


 最近は能力上昇効果のある装備、チビ勾玉のせいか、アイテム採取のために薬師くすしえにしが引っ張りだこである。なかなかフリーのパーティーメンバーが見つからない。


 一方のケイ達はチビ勾玉の素材である透明勾玉すら必要数揃っていない。

 透明勾玉は現在、練習用ダンジョンのボスしかドロップしない。

 ひるがえって、練習用ダンジョンを周回するなら強い必要なくね? というわけで、これを機に万一全滅してもいい深層に挑戦してみることにしたのだ。当たって砕けろの精神である。



「ちょっと歩いてみようか、って危ね!」


 先を数歩進んだジオが消えた。と、切り立った崖にしがみ付いていた。忍者のジョブのため、滑落は無い。急に足元が無くなって慌てただけである。


「ケイ、すっげー気をつけろよ」

「どうすりゃいいんだよ……」


 一方、騎獣持ちの式神使いは垂直面に弱い。足を踏み外したらかなりの距離を滑落する。下がどこまで続いているのか分からない。


 ふと、ケイが背後に気配を感じる。

 音もなく滑空してきた鳥型まがつである。


「うおっ!」


 とっさにシキごと伏せて躱した結果、鳥の鉤爪は空を切った。声に気付いたジオが絶壁を駆け上がる。


「やっぱり居るのかこういうの!」


 ジオが鳥型まがつを空中で連撃し、切り落とした。


「とりあえずケイのスキルは消して進もう」


 ジオが方針を決めた。ケイのスキルは特にその辺に居る敵、八十禍やそまがつの敵愾心を煽るのである。

 そして霧のかかった上空を見上げた。


「上と下同時に注意しないといけないのか。こりゃ嫌だわ」

「早くも帰りたい……」

「まぁ死ぬにしても帰るにしても出来るだけ調べてからかな」


 二人はとりあえず一番近い火の玉の示していた方向に向かってみる事にした。



「ケイ」


 しばらく歩いた後、ジオが何かに気付いたらしく声をかけてきた。

 道を外れたやや下り坂の様になっている先。岩の隙間の様な場所がある。

 縦1メートルと少し、横2メートルほど、騎獣も頑張れば入れそうな空洞。奥は暗く、かなり深そうである。


「洞窟?」

「っぽい」


 二、三階層では洞窟と言っても精々大きな岩の隙間とか張り出した岩の下といった形であった。洞窟の地形と遭遇するのは初めてである。


「あー……灯り、八岐大蛇やまたのおろちの時に要るって思ったのになー。貫名かんなのおっちゃんに聞くの忘れてた」


「そうだな。……試しに入ってすぐ道標みちしるべ使って、やばそうなの居たらスキル消してすぐ逃げるってのは?」


 ジオに言われて、ケイは後ろを振り返る。霧に紛れれば逃げられそうではある。

 ケイのスキルの火の玉が一応の明かりになる事は過去の経験で分かっている。



 洞窟内、シキを待たせてしゃがんで入ると、中は立ち上がれる程度に広い様だ。

 外も霧で薄暗いが、洞窟の中はもう真っ暗である。

 静かである。しかし油断はできない。ケイが拍手かしわでを打つ。


けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす』


猿田彦さるたひこのかみ   道標みちしるべ


 途端に無数の羽音が起こり、明るくなった洞窟内を飛び交うおびただしい数の黒い影が見える。


「なになになに?!」

「退却!」

「キャンセルキャンセル痛ってぇ!」


 VRなので痛くないが、慌ててスキルを消し、頭を天井にぶつけながら明かりを目指しての撤退である。


葡萄ぶどう!」


 ジオが洞窟の入り口に足止めアイテムを使う。

 後を追って来たらしい八十禍やそまがつが伸びてきた蔓に大量に引っかかった。


「……蝙蝠こうもり?」

「そうみたいだ」


 と、一匹が端の隙間を通り抜けてケイに襲い掛かって来た。


「うわっ」


 ケイは慌てて距離をとるが、その隙にコウモリは空中に向かった。

 そして空中からヒット&アウェイ戦法をかけてくる。


「何こいつ!? 霧の中なのに的確にこっち狙ってくるんだけど!」

「エコーロケーションだろ?」

「あ、そうか」


 とりあえず、相手の大雑把な位置が分かるのは躱しているケイも同じである。

 しばらく攻防を繰り広げた後、ケイの器物型式神が当たって、コウモリは倒れた。

 蝙蝠こうもりは白っぽいふわふわ蝙蝠の直毘神なおひのかみに変わると、石を置いて去って行った。


 洞窟の入り口に戻ると、ジオも葡萄ぶどうの蔓で捕まえた八十禍やそまがつを倒していたらしい。


「浅層よりドロップ率いい気がする」

「俺も」


 言って拾った石を見せる。


「ちょっと冒険してみるか」

「鳥居くぐらないと帰れないしな」


 とりあえず脱出のためには進むしかない初見四階層である。


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