65.対八岐大蛇戦 奥の手封じ
VRMMOクローズドベータ版。ボス、八岐大蛇戦である。
赤裸裸が前衛で槍を振るうと、二つの首が警戒するように距離をとった。
【二神連携 布都御霊剣】
そこに白刃一閃。ダメージを負っていたとはいえ、一度に切り伏せられて八岐大蛇の首二つが力尽きる。
「すいませんMPが尽きました。後は瞬に任せます」
鷹のMPが尽き、行動制限で動けなくなっていた。騎獣のロクを瞬に任せてその場に座り込む。
「もう一回!」
一方のアンを含めた後衛チームの術師が同じ標的に向けて術を撃つ。
頑丈な八岐大蛇には微々たるダメージだが、瀕死となれば話は別である。
「HP0! 右端沈黙!」
起き上がりを倒せたことを確認し、要はスキルを解除した。
起きたばかりで低位置に居る首を狙うには術師全員が敵の位置が見えるアンのパッシブスキルを共有しなくてはいけないのだが、この要の共有化スキルは消耗が大きいのである。節約しなければいけない。
「あとは真ん中が落ちれば……」
言う間に、真ん中の頭が前衛組の集中攻撃を受けて、HPが尽きた。
全員が構える。先ほどと同じ、残り四頭である。
以前宇迦之御霊神戦では尻尾の数に応じて行動パターンが変化した可能性が指摘されていた。頭の残りの数に応じて特殊攻撃をしてくる可能性がある。
先程の八岐大蛇の一撃ではエリアが半壊した。出来るなら防ぎたい。
やはりというか、先程と同じように一斉に鎌首をもたげて体全体を持ち上げようとしている。
縁と翡翠がほぼ同時に拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』
二神連携!」
【二神連携 国造】
八岐大蛇の胴の真下から、岩山が生えてぶつかり、押しとどめる。
【天津甕星 天津甕星】
鎌首をもたげていた一つの首が、地面に叩き付けられた。凪枯がスキルで妨害したらしい。
凪枯に押さえつけられた首が集中攻撃され、HPが0になった。
【建御雷神 建御雷】
この一撃で一頭が力尽きた。
残り二つの首はしばらくもがいていたが、どうやら八岐大蛇の大技は不発に終わった様だ。
「瞬さんのMPも尽きたみたいです」
「小春の回復薬も尽きたっぽいな……」
他の人の回復薬も尽きている。八岐大蛇を追い詰めつつあるが、こちらも満身創痍である。早く倒さないとまずい。
【二神連携 瑞穂の祖神】
これ以上余計な事をさせるまいと、前衛に居る鉄人とソライロが連携スキルを使ったらしい。残りの首二つのHPが削れて行く。片方が力尽きた。残り一頭。
その時、残り一頭に電撃が走った。
建御雷のスキルかと思ったが、明らかに違う。
前衛チームも困惑していた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』!」
異変を感じたジオがスキルを使う。
【思兼神 八意思兼】
ジオは敵の攻撃範囲に目を疑う。
「……広範囲攻撃!? どんだけ広いんだ?! 少なくても前衛後衛は全員巻き込まれる!!」
それを聞くなり紫苑が飛び出して拍手を打つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』!」
【天照大神 天照】
紫苑がMP切れで倒れるのと同時に、八岐大蛇の最後の首が力尽きた。しかし八岐大蛇を走る電撃が止まらない。
「胴体のHP!?」
丁度、国造のスキルで持ち上げられてしまっている場所である。騎士は届かない。
いち早く駆けあがっていた影助、凪枯が胴を切りつける。
凪枯が斬撃を繰り返すが、忍者の連撃でも減りが悪い。
「っ! スキルの方がよかったか!? でも間に合うとも思えないし……!」
凪枯が連撃を加えながら呟いた。
攻撃力随一の瞬と鷹はMP切れで立つことも覚束ない状態である。
通常攻撃だけで削りきれるか。
「赤裸裸さん!」
前方に居たレイが八岐大蛇に背を向け、バレーボールの様に護符型式神を構えた。
「大丈夫! 私の式神、シューティングスターも持ち上げられるから!」
やりたいことを察した赤裸裸が、レイに向かって突進する。
レイの護符型式神をジャンプ台に見立て、大跳躍を狙う。
「飛んでけー!!」
レイの天手力男スキルのパワーで大山羊と当世具足が空を舞う。
それで何かに気づいた要が叫ぶ。異変を感じて後衛から走ってきていたのであった。
「レイさん! スキルお借りします!」
「? いーよー」
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【高御産巣日神 神集】
レイの剛力のスキルを赤裸裸達に付与。
丁度、アン達術師が放った術が飛んできた。
「大薙!」
術の雨、そして天手力男のスキルで強化された全員の打撃。
それが赤裸裸とほぼ同時に着弾し、八岐大蛇のHPを削り切った。