62.対八岐大蛇戦 イレギュラー
VRMMOクローズドベータ版。
現在ボス、八岐大蛇攻略中である。
とにかく巨大でHP、攻撃力、防御力ともに高く、際限がないので一カ所にまとめて最大火力で叩き潰す方針である。
禍寄せの壺型アイテム。八塩折の酒の前に陣取るのは瞬達であった。
【建御雷神 速日】
【経津主神 折】
近づいて来た首三つに三人が牽制に一太刀浴びせる。
レイは器物型式神による攻撃である。
ダメージを受けた先頭の三つ首は警戒するようにやや距離を取り、後方にある首は入道雲の様に立ち上がり、胴を引きずるようにゆっくりと進んできている。
「俺らが一番乗りかな?」
「いや、そうでもないようです」
三人の居る地点の後方、八塩折の酒のさらに後方、ただしボスの首にスキルが届く位置に、鹿毛色の馬と白い大狼、暗い赤茶の大猫が雪崩れ込んできた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』
二神連携!」
【二神連携 瑞穂の祖神】
【二神連携 国造】
八岐大蛇の先頭の首四頭ほどが水竜巻に巻き込まれ、伸びてきた草木と噴き上がる大岩に打ちのめされる。
他の首は巻き込まれまいと力を入れている様子だ。
何せ巨体な上に小回りが利かない。避けようと蠢いているが直撃してスキルに引きずり込まれている。
「やっぱスキル使ったら上に吹き飛ばされちゃったな」
「うまくいきますかねぇ」
「食われないといいけど……」
水竜巻に呑まれて上空で翻弄され、たまに抜け出した所を国造の岩を受けて押し戻される八岐大蛇の首四つ。
その八岐大蛇の頭上に人影が現れた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【天津甕星 天津甕星】
途端に八岐大蛇の頭四つが高速で落下し、地面に叩き付けられた。
折り重なった八岐大蛇の頭の上に立っているのは凪枯である。
忍者の身軽さで首を駆けあがり、頭上でスキルを使ったのであった。
こうした戦場の後方、翡翠や鉄人達が陣取る位置にケイ達も居た。
「詳細が分かんないからって重力系とは」
「まぁ強キャラっぽいよな」
凪枯のスキル、天津甕星。効果範囲は自分の周囲数メートルも無いという極端な性能だが、当たれば強いタイプ。
押さえつけられる八岐大蛇の四つの頭に水流、草木、大岩に加えて、地上組の斬撃が炸裂する。
残り四頭の首の前方二つが近距離組に攻撃を仕掛け、弾かれて水流に巻き込まれ、慌てて抜け出した。
連携スキルが強力過ぎてほぼ単純作業になっている。
「鉄人さん、MP回復」
「お、サンキュ」
翡翠が鉄人にMP回復薬を渡す。
連携スキルで同時に同じ量のMPを消費していくと、最大MPが少なめの鉄人が真っ先に消耗するのである。
その時、脇に居た首の内の一頭が設置しておいた八塩折の酒、禍寄せの壺を割った。
「げ! 敵の攻撃でも割れるのか!? それ!」
「いつの間に届くところまで!?」
攻撃を加えられている頭の位置が動かず、回転する形で端の頭がじりじり前進していたせいで気付かなかったのである。何せ本体の動きがゆっくりしている上に木々に隠れて目視が難しいほどに遠いのだ。
自由な四つの頭の内、前進していた二つが後衛のケイ達に向いた。
騎士の鉄人はともかく、式神使いのソライロ、術師の縁と薬師の翡翠が居る。攻撃範囲に居るのはまずい。
「もう少し下がるべきだが……」
ジオが呟くが鉄人と同じ懸念を共有して頷きあう。
「俺らが移動すると連携スキルが切れる! 前衛チーム!」
鉄人ソライロの連携瑞穂の祖神。
スキル発動地点の約直径1メートルの範囲内から出るとスキルが消えてしまう。
「まぁ何とかなるでしょう、下がってください」
応じたのは鷹である。
連携スキルを発動していた鉄人達が移動する事によってスキルが解ける。
凪枯が押さえ込んでいる下から、逃れようともがきだし、数頭が抜けた。
「厄介な……」
一気に相手の手数が増えた。
「凪枯も一旦離脱! そこでやられたらフォローできない!」
「ジオ! どうする?!」
「仕切り直す。前衛チームも少し下がってもらって、首が届かない所にもう一度八塩折を置き直す。ケイ、特にダメージ受けてる首四つ、ばらけさせないように時間稼げるか?」
「引き付けられなくても文句言うなよ」
ケイはひょうたんを使った。攻撃と素早さを一時増強させる。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【猿田彦神 支加】
ケイの周りに火が灯る。
数頭の八岐大蛇の注意がケイに向いた。