61.対八岐大蛇戦 メンバー割り振り
VRMMOクローズドベータ版。
ボス攻略に目鼻がついたのでチーム分けの会議中である。ダンジョン内をふらふら移動するボスエリアに行くのがまず大変なのである。
「結局ソライロの所は紫苑?」
「縁さん翡翠さんペアの方がいいんじゃないか? 影助紫苑のペアなら時間はかかるけど、ほぼ無傷で1パーティー運べるし」
「確かに天照は強力だけど、後回しで良い。敵が高所にいると目測外れやすいし」
紫苑の自己申告である。
ジオが各人のパラメーターを確認しながら唸る。
「MP三分の一だと、国造りコンビだと一人送った時点で相当厳しいな。二人目はかなり足が出る」
そこに翡翠が口を挟んだ。
「こっちにオーバーフローした分は現地で回復できると思うけど、そもそも術師1薬師1でボスエリアはちょっと厳しいかも……」
「八岐大蛇、そこまで狙って攻撃してこないから大丈夫そうな気はするんだけどな」
「森に入ればすぐこっち見失うし」
「でもエリア内に蛇めっちゃいるぞ。木の上にも居る」
サラが短く息をのんだ。蛇が嫌いだが恐々作戦会議に参加中である。
「確かにボスエリアに居るのは四階層以降の強化蛇だ。術師薬師で囲まれたら厳しいかも」
「今およそのチーム分けどうなってんだ?」
現在、鷹と瞬が五階層を突破してボス直通鳥居を使うルートぐらいしか決まっていない。
紫苑影助のスキルで敵を鎮静化しながら進む方法と、ソライロのスキルのリスク込みでボスエリアまでショートカットする方法が検討されているぐらいである。
「じゃあ僕、ソライロさんのチームで送ってもらっていいですか?」
凪枯である。忍者なので基本HPMPは突出していない。能力上昇系パッシブスキルも無いようである。
隠形のジョブスキルで生存はできるだろう。
「えーと、じゃあソライロには絶対薬師がついてないといけないから……他のチームにも薬師別れてもらって……」
そんな感じでチームが決まっていく。
巨大蛇がエリアの一部を占領しているボスエリア。八岐大蛇である。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【猿田彦神 支加】
いつもの火の玉がケイの頭上高くに浮かんだ。
「誰か来てる! あっちの岩山の方!」
「よし! ケイ、反対側に走ったらスキル消してボスを撒いてくれ」
「了解!」
シキに乗って森の中を走る間、高空に蛇の頭が伸びてくる。ケイのスキルの火の玉に気付いて追って来た八岐大蛇の首の一つであった。
そこでスキルを消すと、首は見失ったように止まった。
そしてとりあえず、といった調子でケイを見失った辺りを大きく薙ぎ払い始める。
「うおお、相変わらず攻撃範囲広いな」
ダメージ判定のある吹き飛ばされてきた木を避けながらケイが呟いた。
辺りを一掃した頭が、ずるずると森を這いながら戻っていく。
猛威が一段落したところで、皆と合流しようとシキに森を進ませた時、ケイの足に軽い衝撃が走った。罠を踏んだようである。シキが済まなそうに鳴く。
見たらケイの左足に矢が刺さっていた。
「……これまた器用に刺さったな。それとも騎獣には刺さらない設計なのか?」
VRゲームの矢である。役目を果たしたら徐々に薄くなって消えていく。
よく見ようと足を動かそうとしたところで異常に気付いた。
「……っていうか毒矢かこれ!?」
ケイが岩場で合流したのはソライロ達であった。
「足動かなくなったから治して」
開口一番頼んだのは解毒である。
「噛まれたの?」
ジオに聞かれてケイが否定する。
「これは罠」
「そりゃ珍しい」
「へー、マヒ? この前のとは違うのか?」
鉄人が興味深そうに様子を見に来た。
「そういえばダメージ受けたとこだけが動かなくなってるな」
ケイももはや慣れっこ状態である。ベータ版とは、別名人柱版である。
「前は全身噛まれてたからじゃないかな? 虚脱もあったし」
冷静に分析しているのは凪枯である。このゲームの状態異常が珍しかったため、よく研究したようだ。
「んー……言われてみれば前回も完全に動かなかったのは足だけだったかも……」
ケイが首を傾げているその横から翡翠が覗いた。
「状態異常を見る限り、マヒだねぇ。とりあえず治療しとこっか。
『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【少名毘古那神 薬湯】
翡翠のスキルで状態異常も治せると分かったのは、ここ最近の偵察中、誰かしらがヘビに噛まれたからであった。
「ボスエリア、事前に罠解除にまわった方がいいんでしょうか?」
縁がジオを見る。
「小春さんが来てくれれば問題ないから必要ないと思うんですが、あまり凶悪な罠が出るようだと検討した方がいいですね」
今回は蛇多めという事で全員状態異常回復薬は持っている。行動不能になる様な毒だったらケイも自分で解毒薬を使った。
回復をかけてもらって一息ついたケイがソライロに確認する。
「サラは大丈夫だった?」
「緑火鳥居に入るの見送ったから大丈夫ですよ」
今回のケイのチームはケイ、ジオ、縁、翡翠。
一方、ソライロ、鉄人、凪枯はソライロのスキルで送る事になったのだが、途中で帰っていいなら、という条件で参加してくれたのがサラである。
向こうで全回復してもらえばソライロがスキルで負う分のダメージは自分に回復薬を使えば治せる範囲。
サラの自動回復増強のスキルと相まって、安定して移動スキルを使えたのであった。
確認するように鉄人が言う。
「赤裸裸さんと影助のチームはいつ来るか分かんないから、後は鷹さんたちのチームが来たら―……」
その時、八岐大蛇が動き出した。首が一斉に一所に向かっている。
「鷹さんの所がアイテム使ったか。行こう」
ジオが促すと、鉄人が偵察時の所見を述べた。
「八塩折の酒があっても、絶対安全ってわけじゃないから。首の動きには気をつけてな皆」
今回のボスAIは誘導にも反応するが、単純な敵愾心パラメータだけでなく、途中の障害物に気をとられるなどかなり不規則に反応するのが確認済みである。