60.対八岐大蛇戦 検証中
「竜型大禍津日神!
八岐大蛇!」
「荒魂無し!?」
「まぁ多頭竜は河川氾濫の神格化って説もあるしな」
小春の崩彦神の結果に、逆に動揺が走った。
「で、どうやって倒そう……」
崖と見紛う首が森の中を這っている。
VRMMOクローズドベータ版。
今回のボスは八岐大蛇。ただでかいだけの相手である。
しかし、攻略は難航していた。
シアタールームで寝っ転がるプレイヤー達がぼやいている。
「だめだ。シンプルに強い。頭多すぎ、防御硬すぎ、HP多すぎ。
他の頭に取り掛かってる間に自動回復で戻って来る」
「首の根元殴る作戦でもダメだったの?
最短距離で殴れそうな気がするけど」
参加できないサラが恐々話に加わっている。
「それが思いがけない障害ができまして。物理で」
「鷹さん。貫名さんの親父ギャグ、うつってきてない?」
言われて鷹が頭を掻いた。「お世話になっていますから」と付け足す。
勾玉強化と回復薬、一時強化薬の発注で、薬師の調合室、連日の賑わいである。
そもそも、八岐大蛇は少し大きいダメージを与えると首がプレイヤーを避けるようになり、追撃が難しくなる。そのために首の根元に陣取って攻撃を加える事にした。
しかし何度か攻略を試みたところ、八岐大蛇の首が暴れた末に横たわってしまうと、完全に壁になってしまうのである。
「八岐大蛇が首を伸ばした状態で倒されると、それがそのまま障害物になって大回りしないと次の首にかかれなくなる。主力の騎士が崖登りできないから。
よしんば首を越えられるジョブやスキルでも障害物に違いは無いから、時間かかる」
「わぁ……」
サラとしてはあまり想像したくない光景だった様である。
気を取り直して検討を続ける。
「普通に端っこから倒していけばいいんじゃない?」
「そうすると100秒後に端から順に復活されるんだ。
倒してる間にどんどん回復されちゃう。
そっちを追撃するチームを分けたら攻撃が分散されちゃうし。
術師の集中攻撃でリスキル試みたんだけど、討ち漏らしが出るとどんどん回復速度が上がって復活される。硬いからちょっと回復されたら前衛が出ないと削り切れなくなる」
「えーと……じゃあ騎士が最初から胴体に上って攻撃するのは?」
「動くし登ってる途中で攻撃されるしでまず登るのが困難」
ゲームの仕様上、騎士と式神使い達、騎獣持ちのジョブは垂直移動に相当な困難を伴う。よじ登るなら普通の崖ですら苦戦する。
首が妨害してくる八岐大蛇戦には現実的ではない。
「多分上って攻撃したら八方向から攻撃が来る」
「色々試した結果、胴体は後回しにしようという話になってまして、首を効率的に撃破する方法を探してるんです」
「でかすぎて『瑞穂の祖神』でも全体巻き込めなくてさ。近づかれたら別方向からやられて死ぬ」
「一番ベストなのが首をおびきよせて出来るだけ先頭の鼻づらの位置をキープして倒す事だ。神話の素戔嗚とほとんど同じだな」
それを聞いてサラがケイを見た。挑発スキル持ちである。
「ところが、でかすぎるせいでケイのスキルが見えてない首がいる。ケイに気付く頭が三頭ぐらいで、残りのやつが寄ってこない」
「……各個撃破狙うなら都合がいいんじゃない?」
「ケイが行ったり来たりしている間に後から後から復活されるんだ。100秒で自動復活しちゃうから。
ケイのスキルに反応する首もこちらでは選べないから変な順になって、倒せたとしても障害物になるとか。
できれば前衛も近くに居るまとまった位置で、かつ囲まれないように戦いたい」
「じゃあケイが前方をわーっと横切って全部連れて来ればいいんじゃない?」
サラのコメントに、ケイが苦そうに返した。
「それやったんだけど、回転する」
「回転……?」
「八岐大蛇が回転する」
左側三頭が気付いて追いかけてきている状態で右側の三頭が気付いていないと、動かない右側を中心にして八岐大蛇が回転する。
「八岐大蛇が反対側向いちゃったからな」
「その時は慌ててジオの指示通りに回転に合わせて進路変更したら、『つ』の字に曲がって伸びてた首の所に追い詰められてやられた」
「言い訳になっちゃうけど、八岐大蛇がでかすぎるせいで木の上からも全体が把握できなかったんだ……こういう事もあってケイに誘導頼るのはちょっと難しい」
ケイとジオが遠い目をする。
「実は胴体とか尻尾が弱点とかない?」
「尻尾というか胴体にもHPはあるし、試しに先に倒してみた事もある。けど、動きには関係ないみたいなんだ。倒す時には首と合わせてHP0にしないといけないだろうけど」
なかなか難しいようである。
少し考えたサラが提案した。
「八塩折の酒は?」
「何だっけそれ?」
ケイが素で聞き返すと、ジオが補足した。
「素戔嗚が八岐大蛇倒す時におびき寄せるために使った酒」
「へー、あったら助かるかも」
「あったじゃん。貫名さんの倉庫」
サラの言った通りであった。
八塩折の酒。封のされた巨大な壺といったビジュアル。禍寄せアイテムである。
なお、持ち運びの時は手のひらサイズの壺を胸や腰のアイテム装備枠にキーホルダー感覚で着けられる。特に邪魔になる事は無い。ゲームの不思議収納である。
検証班が帰って来た。
「間違いなく八岐大蛇相手でも禍寄せ効果、期待できる。
効果時間は多分、プレイヤーがエリア内に居る限り続くんじゃないかな?
一回使ったら動かせないけど、破壊すれば効果がキャンセルされるから複数持って行って近づかれ過ぎたら設置し直せばいいと思う」
そうと決まれば作戦会議である。
「出来るだけ大勢参加してほしいけど……ボスエリアが階層関係なくなってランダム出現なら、階層のアタリを付けるのも難しいしな」
最初の問題はどうやってメンバーをボスエリアまで送るかである。
「検証班のデータを確認すると、大体三階層以下では平均7,8エリアでボスエリアまで着きますね。
ケイさんサラさんのスキルを見るに、恐らく『アタリの道』があって、そっちを選ぶとボスに着くまでの必要エリア数が減るんだと思います」
「七、八エリア……準備しないと難しい距離ですね……」
「まず道敷大神はHPMP高いと通れなくなった。およそ通る人の最大HPMPの三分の一がソライロのダメージになる計算。
逆に、HPMPはそこまで高くないけど、高ダメージ出せる人、居る? 連携スキルとか」
ジオの問いかけに首をひねる人が数人。
「紫苑のスキルとか……縁さん翡翠さんの連携とか? あと何人か居そう」
「鉄人さんも無理すれば行けなくはないから俺らの連携も数に入れてもいいとは思いますけど」
「鉄人は他のチームの護衛してもらう可能性もあるし、保留の方がいいんじゃないか?」
騎士は機動力があって攻撃力、防御力も高く、盾役を担当してもらいがちである。
その間に鷹が提案する。
「では私達は五階層の黒火鳥居使おうかと思います」
「一緒に来れそうな人、居る?」
瞬も呼びかける。
「道敷大神通れない人はそっち行ってもらったら? 赤裸裸さんとか」
「でも薬師の人とか連れてくるのに盾役必要でしょ?」
「ちょっと待て? 何チーム作れる?」
「ここに居る人だけなら5チームかな」
にしろやと数えていた翡翠が答えた。
「まずケイとサラのペアで……」
「サラ来れない」
「ああ……」