55.ボスエリア脱出
VRMMOクローズドベータ版。ボス偵察中。
八岐大蛇がウロウロしている所を見ると、プレイヤーを見失ったらしい。
そして赤裸裸達は落ち合う場所を決めていた。
ケイは豪登に咥えられたまま、大岩を回り込んだところで声を掛けられた。
「何やってんの?」
「いや、バグったっぽい。ホワイトアウトして何も見えないしHP減ってくし行動制限掛かりっぱなしだし……」
そこまで聞いて赤裸裸が尋ねた。
「ケイさん、さっき私が見つけた時、蛇に噛まれてたんですけど。毒もらったんじゃないですか?」
「いや、噛まれる前からなんですけど……いや、脱出の前に噛まれましたわ。思いっきり」
謎が解けた。
八岐大蛇に呑まれて脱出する間に噛まれ、様々な状態異常を食らっていた様である。
ジオが現状を確認する。
「ケイは行動不能」
状態回復薬を誰も持っていなかった。現在、ケイはシキの上に干し布団よろしく乗っかっている。
「首の動きは速いけど胴はそこまででもない。一直線に突っ切れば相手より速く鳥居に着けると思う」
全員で手頃な鳥居に突っ込む方針である。一番安全そうなのは一階層降りる青火鳥居。自分たちと八岐大蛇とはほぼ等距離の位置であった。
「このエリアの敵はほとんど蛇みたいだ。スキルを使えば八十禍の攻撃はケイに集中するんで、俺のスキルで躱しつつほどほどに叩いて駆け抜ける方針で行けると思う。
ケイはシキの操作権を俺に貸してくれ」
「そんなんできんの?」
「私も瞬にちょくちょく操作権渡してます。口頭で伝えればいいですよ」
近くに居た鷹が答えた。
「えーと、シキ、ジオの言うこと聞いてくれる?」
「みゃっ!」
これでいいらしい。さすが騎獣AIである。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【猿田彦神 支加】
【思兼神 八意思兼】
ジオの視界、敵の攻撃の軌道がレーザーサイトの様に映る。
かろうじて手は動くケイは、シキの上に寝ころんだままスキルを使った。
明後日の方を向いていた八岐大蛇の頭の一部がケイのスキルに気付いた。
進行方向右前方からこっちに向かってくる形である。
「うお、予想よりちょっと速い……」
「大丈夫なのかよ?!」
「これぐらいならまぁ」
先頭にケイとジオ。
右に赤裸裸、縁。左に鷹、瞬のペア。真ん中後方が鉄人である。
「八十禍多数! 合図したら地上付近に大薙ぎ!
左後方に三体、近づかれる前に縁さん!」
「見えました!」
ジオが慌てて回復薬を使う。
「……MP消耗速いな……思ったより八十禍多いし……」
「ほんとに大丈夫かよ」
視界の悪い森の中である。スキルを切るわけにいかない。不意打ちで状態異常を食らったらそのまま動けなくなることもありうる。
「直線状に範囲攻撃します。味方にダメージは無いので通ってください」
言うなり鷹が拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【経津主神 布都神】
ほんのわずかな時間だが一閃縦切りする様に森と地面を薙ぎ払い、地面が線を引いたように赤熱してマグマの様に変わった。前方に居た八十禍が一掃されている。
「レーザーみてぇ……」
鉄人のコメントである。味方にダメージが無いと知ってても少し驚く。
しかし範囲外に居た敵は別である。
「八十禍左右から! 分散してます! 縁さんは見えたら術で撃って敵を減らしてください! もう少し引き付けて大薙ぎ! 右前方に罠確認! 解除します」
同時にジオがわずかに進路を逸れて右に寄り、刀を振るって罠を解除する。
ジオは前を見た。
「広範囲に分散して数が多い……!」
「あー……それは嫌なパターン……大薙ぎ、硬直はないけど連発はできないんですよね……」
「高い位置から切ると地面付近はどうしても範囲が限られますからね……」
「俺がスキルで足止めするか?」
鉄人が尋ねる。しかし鉄人のスキルは本人が動けない。捨て身の殿を意味する。
さらに横から瞬が声を掛ける。
「俺のスキルもあるけど?」
「目視できる限りでも敵の居る範囲が広すぎます。消耗考えないと力尽きますよ」
鷹の見立てでは瞬のスキルでも殲滅は厳しいらしい。
「スキル止めるか?」
ケイがジオに尋ねた。これだけ八十禍が集まってくるのは間違いなくケイのスキルによるものである。
「止めるな。森が深いしあちこちに勾配があってまっすぐ進めないんだ。ここでスキル切ると方向見失う」
「葡萄とかも使います! この距離なら全部使えばしのぎ切れます!」
言った縁が前方にアイテムを投擲する。向かってきていた敵が一斉に足止めアイテムに巻き込まれ阻まれた。その隙間を縫って走り去る。
お互いがフォローする形で森の中を疾駆する。
前方に森の切れ目が見えた。
「もうすぐ鳥居……うわ!」
やや開けたところに出て青火鳥居が見えたところで巨大な蛇の頭も見えた。
ほぼ同着、ぐずぐずしていると進路が塞がれる。
「このまま突っ込みます! 草地全体が攻撃範囲! 八岐大蛇の動きに目視でも注意を!」
一番近い頭に赤裸裸が大薙ぎで一撃加えると、嫌がるようにひるんだ。一方で別の首が真っすぐ鳥居の前に進もうとしている。
「このままだと進路をふさがれる。鷹、ロクを頼んだ!」
「はいはい、食べられても拾いませんからね」
鷹の返事が終わるか終わらないかの内に、瞬が拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【建御雷神 建御雷】
瞬が青白い電撃を纏うと、先に居たジオたちを一歩で追い抜く。
振り上げた刀も電撃を纏って大きく青く輝く。そのまま進路の頭を叩き伏せた。
巨大な頭がたまらずのけぞり、逃げるように空中に持ち上がった。
「解除っと、鷹拾って」
「はいはい」
スキルを解除した瞬は追いついた鷹の鹿型騎獣に飛び乗った。
一方、ジオはMPに限界が来てスキルを解除していた。体を起こせなくなると周囲を見るのも騎獣への指示も難しくなる。
「後ろに来てる!」
「は?」
ケイの言葉に思わずジオが後を振り返ると、首の一つが大口を開けて迫って来ていた。
「来るって分かってればいけるんだよ!」
鉄人がケイの注意に的確に反応した。真横に避けて頭部を縦に一撃する。
それを最後に、全員が青火鳥居に飛び込んだ。