49.練習用ダンジョン
VRMMOクローズドベータ版。
現在、新規実装された練習用ダンジョン攻略中である。
和風の屋内を模した今までにないダンジョンであった。
ジオは三階層の敵を倒して辺りを見回す。
「所々に御簾とか和風の小物があるのって、屋内ダンジョン実装すんのかな?」
「メタ読みやめてやれよー。つーかそれなら絶対やめてほしいのが畳を土足で歩くやつ」
「それはほんとそう。今の所そうなってないけど」
廊下といくつか部屋に別れた構造のエリアである。大きさとしては全体で体育館ほど。
ここが最上階のはずだが、ケイのスキルの赤い火が鳥居を指している。その鳥居に灯っているのはボスエリアに向かうとされる黒い火である。
「……スキル以外の黒火鳥居初めて見た」
「練習用ダンジョンなのに大禍居るんだな……」
とりあえず行ってみることにした二人である。
抜けた先は一階層に似た四角い道場のような部屋。居たのは黒っぽい毛色の巨大なぬいぐるみのような狸と狐。騎獣型式神より二回りほど大きい。
二匹のおでこにお札の様な紙が貼ってある。『大禍津日神』と書いてあった。
「……これは手抜きじゃね?」
もっふもっふもっふもっふと豊かな毛皮を波打たせ、緩やかに突進してくる狸を大回りで躱す。ボスの動きは極めて緩慢である。
ジオが躊躇なく必殺攻撃を放った。
もふん、と音がしそうなしなやかさで攻撃が吸収された。
「え!?」
ジオは慌ててもう一度必殺攻撃をしてみるが、ダメージは恐らく0。
忍者のジョブスキル、確殺攻撃である。当たれば倒せるはずだ。
「物理無効!?」
ケイが狸を式神で突いたり掴んだりひっぱったりしてみるが、反応は変わらない。シキの引っ掻き噛みつきも、毛皮がもふんもふんしている。
「物理無効なら魔法は有効ってのはド定番だが……」
「……俺ら攻撃手段無くね?」
ケイはちらっと帰還用の緑火鳥居を見た。
式神が物理に含まれてしまうと、ケイとジオの攻撃手段は物理攻撃だけである。
「あっちの狐が本体とか、そういうのかもしれない、帰るにしてもとりあえず一通り叩いてからにしよう」
ジオは狐に直接攻撃を仕掛けた。
しかし直前でぼわんと煙が上がる。
「!?」
そして煙から出てきたのは狸である。ジオの刀は狸にあたって、もふんと跳ね返された。
「ケイ。注意引いててくれ」
「あいよ。何か初心者用ダンジョンにしては異様にめんどくさいな」
「そうでもない、ボスの攻撃は躱しやすいし、頭数揃えて連携してほしいっていう設計思想を伝えるためだろ。そう考えると向こうの狐は術無効かな」
ジオが隠形で姿を隠す。ケイが狐を攻撃しようとすると狸が前に出て庇った。その瞬間、回り込んでいたジオの一撃で、あっさり狐は倒れた。
狐から煙が上がって木の葉が一枚ひらひらと舞い落ちた。
狸が( ゜Д゜)という顔をする。
そして狸は部屋の隅っこに行っていじけるように肩を落とした。狸の周りに暗さが見えるかのようだ。
「……終わり?」
「いや? どうだろ?」
狸の周りの暗さが広がっている気がする。否、広がっている。黒い毛玉が膨らんで室内を侵食している。
「え!? ちょっとこれ、え!?」
ケイが器物型式神の熊手でつついてみる。
「この黒いの、攻撃効かないっぽい」
ジオが狸と対角線の位置にある緑火鳥居に目をやった。
「部屋いっぱいになったらゲームオーバーかな? 対応策も思いつかないし、帰るか」
ジオがそう言ったところで後ろから声がした。
「お困りのようだな! って何あれ!?」
小春である。翡翠と鉄人も居る。
「……何あれ?」
鉄人もほぼ異口同音でケイとジオに聞いて来た。
「きつねたぬきのペアのボスだったんだけど、狸は物理攻撃が効かないんだ。
狐だけ倒したらああなった。段々膨らんでる」
ジオの説明を聞いた小春。「マジで狸だー」と、膨張する黒い毛玉をスキルで鑑定している。
そんな小春を置いておいて、翡翠はケイとジオを見る。
「……仮にあの狸に術しか効かないとなると……このメンバー、術師居なくない?」
ケイ、式神使い。ジオ、忍者。小春と翡翠、薬師。鉄人、騎士。
「鉄人の祓戸大神とか翡翠さんの国造が一縷の望みなんですけど」
ジオがそう言うと、小春が提案した。
「じゃあせっかくだからどのスキルが効くか確認してみよう! 狸のHPも少ないみたいだし。
とりあえず薬師の爆弾が効くか確認したい」
と言う小春に任せたら毛玉が爆破されてしまったため、早々に検証は終わった。
爆弾は術扱いの様である。
「……式神も術扱いじゃダメなのか……? 今回薬師の待遇改善しすぎてない??」
「運営に聞いてみるか?」
何だかんだ言って式神使い、ポジションが半端である。
そして誰かが強化されると誰かから不満が出る。ゲームではいつもの事である。
ボスが倒された事で皆の目の前に透明の勾玉が出てきた。
いつもボス戦で出てくる勾玉より一回り小さい。
それぞれの装備アイテムの空きに吸い込まれるようにくっつく、が。
「あれ? 装備アイテムって腰じゃなかったっけ?」
ケイが困惑している。
「胸ポケット辺りに4つ、腰に6つになったぞ」
「薬師は胸8個と、腰に6個6個着けられるようになって全部で20個持てる」
「勝手に変えないでほしい……稲妻の勾玉どこ行った……」
もたもたしてるケイは放っておいて、透明な勾玉の検証である。
「何だろ?」
「見た事ない」
また謎のアイテムが増えた。小春が拍手を打つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【崩彦神 崩彦ぞ必ず知りつらむ】
「『素材アイテム』だってさ」
「だけ?」
「素材アイテムなのに装備枠を占拠すんの?」
無駄に謎が深まった。
「じゃあもう一人のアイテムの専門家に聞いてみよう」
翡翠の提案である。
「もう一人の専門家?」
「アイテム合成に強いスキル持ちさんが来たんだ。調剤室に居ると思うから、ちょっと行ってみよ」