46.検証、連携スキル
純和風(?)VRMMOベータテスト。
ダンジョン一階層。
スキルの検証に来ている2パーティー計八名である。
ケイとサラの連携スキルを検証しに付いてきていたジオと縁の四人組。
個々人のスキルを検証に来ていた要、楓とそれに付いてきていた翡翠、ソライロの四人組が合流した形である。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【思兼神 八意思兼】
「いつでもどうぞ」
ジオが声をかける。
消耗の大きいスキルだが、幸い自動回復上昇スキル持ちのサラが居るので、MP消費は格段に抑えられている。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【高御産巣日神 神集】
「……今、最初の選択をソライロ、その後の複数選択を俺らに当てました?」
「そうですね。ただ、効果が不明で、正直なところ使い方は勘です」
現在、要のスキルの検証中である。
ジオがスキルで各データを分析する。
「各メンバーのパラメータに変化は無し……」
しかし、どんなに調べても変化はない。
とりあえずMPが消耗しきらない内に切って、もう一方の謎スキル、楓の方も見てみる事になった。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【思兼神 八意思兼】
【神産巣日神 神産巣日】
楓は最初にジオ、次にその場の全員を指定したわけである。が、しかし。
「……俺らのMP、減ってね?」
「え!?」
ケイの指摘に楓が声を上げる。
じわじわと全員のMPが減少しはじめたのである。
「味方に掛かる弱体化?? キャンセルした方がいいですか?」
「そんな馬鹿な……」
困惑する楓とジオに、サラが声をかけた。
「ジオさんのMP減少スピードが減ってます。
さっき何秒でどれくらい減るか見てたんですけど、明らかに減りが遅くなってます」
言われて全員がジオのMPに注目する。
「言われてみれば……」
「どうなってるんだ??」
首をかしげる縁とケイに、考えを巡らせていたジオが仮説を述べる。
「…………『神産巣日』は指定した人の受けたダメージを、スキルを掛けられた全員で補うとか?」
「なるほど」
特に前衛にはMP消耗の大きなスキルは敬遠されがちである。ジョブ特性で基本MPが少ない上にMPの消耗で行動制限が掛かるからだ。
しかし『神産巣日』を併用できれば使いどころが広がるかもしれない。
ジオのMP回復を待つ間に別の検証である。
「いてぇ!」
ケイがどつかれたのは牛型の八十禍、その辺の雑魚敵であった。
HPの減少を見ているジオが唸る。
「HPダメージは……これどういう分配なんだ??」
「計算難しそうですね」
「ケイ、もうちょい連続しないでダメージ受けてみて」
「無茶言う!!」
ケイの服が赤っぽいせいか闘牛を彷彿とさせる。
本当なら忍者が躱した方がいいのだが、ケイのスキルに引き寄せられているのでターゲットを取り返すのが面倒なのである。
「これ、ダメージの分散方法によってはレベルの低い人が死にますよ」
「ですよねぇ……見た感じ現在HP割合で削って被術者の消耗を抑えてるっぽく見えるんですけど、場合によっては使い方を慎重にしないと……後はレコードで確認するか」
ダメージを分散している人のダメージ計算は判然としなかったが一段落付いた。
「ふむ、当方ももう一度使ってみてもいいですか?」
そこに要が改めてスキル検証を頼んできた。
拍手が響き、スキルが使われる。
【思兼神 八意思兼】
【高御産巣日神 神集】
要は今回、ジオを指定してから複数名の指定をした。
「うおっ!?」
「ケイどうした?」
「うわ、これもしかしてジオさんのスキル使用時の視界ですか?」
「視界……?」
指定された複数人の視界には多数のデータが表示されていた。
「ああ、なるほど。つまり私のスキルを皆さんが使えてると」
各人から話を聞いたジオが手早くまとめ、スキルの使い手としてアドバイスした。
「ジェスチャーで表示をオンオフできると思いますよ。
他にも色々見れるはずです」
その時、赤い線が一本通ってケイに注がれた。
スキルの掛かっている全員が線を辿って一斉に振り向くと、その先に鳥型の八十禍が一直線にこっちに向かってきているのを認めた。
縁の術で落としたが、問題はその辺の禍津日神ではない。
「ターゲットと攻撃軌道が分かるわけですか……」
「これ、すごい便利じゃね?」
ジオの八意思兼のスキルが全員に共有されているのである。
ボスの思金神が使っていたあのスキルである。
「でもMPの消耗が大きいんですよね……」
言いながらジオがスキルを解いた。この短時間でかなり消耗している。
ジオが解いたと同時に周囲の全員も思金神のスキルが使えなくなる。
「なるほどな」
「アンさんの索敵とか、小春さんの鑑定でボスの消耗具合を全員で確認できると便利ですよね」
「ケイとの連携スキルを全員に掛けられると分担して合流できそう」
盛り上がっている所で、当の要が申し訳なさそうに呟いた。
「あー、当方、徒士のせいか維持のMP消費がきついので、あまり乱発はできないと思います」
言いながらスキルを切った。この間にも、既にMPが半分近くまで減っている。
ジオのスキルのMP消費が大きすぎる影響ではないかとケイのスキルにも試したが、要のスキルの基本消費量がそもそも大きいようである。それなりに強力なスキルなので無理も無い。
「あ、それじゃあさ……」
と、翡翠の提案でサラの自動回復上昇スキルを全員に付与できるか確認した。
「回復スピードは上がってる」
「ただ、人数が増えると要さんの消費も上がるな……」
倍々とまでは言わずとも、スキルをかける人数が増えると要のMP消費が増える。人数の増えた天宇受売命のスキルで相殺できない消耗である。
要がサラの回復スキルを全員に付与し、その要の消耗を楓のスキルで分散するという手法も考案されたのだが、今度は全員のMP回復量がほぼプラスマイナス0になった。
「そもそもおしくらまんじゅうみたいになって回復するタイミング……ある?」
「ボス戦の後とかですかね……」
上手く使えれば強いが、どちらも使い所が難しそうである。
その後、エリアを移動する内にケイの赤火の火の玉の上に金の火が燃え始めた。この金の火は味方の居るエリアを示しているというのが現在の推測である。
検証も兼ねて行ってみた二階層で合流したのがレイ、アン、影助、秀吾の四人組であった。
アンの索敵に合わせて中遠距離攻撃で敵を狩る方針だったようである。
二神連携の検証に来たケイ達にとっては意外だったが、このメンバーには二神連携は出ないらしい。
ケイがジオに確認する。
「……アンさんと秀吾の神様って兄弟だよな?」
「まぁそうだけど……この運営だからなぁ……」
ちなみに縁を入れても出なかった。神様の関係で言えば親子である。
検証を終えて、ケイ達は緑火鳥居をくぐった。
アイテムの分配を済ませ、町中の用事を済ませるために、皆それぞれの場所に散っていく。
それを見送ってケイが呟いた。
「必ずしも祖神や兄弟神と二神連携できるわけじゃないんだな、ちょっと意外」
「俺も要さんと連携スキルあるわけじゃないしな。それに大国主は自己申告で子供180柱以上いるし」
「おお……さすが元祖チーレム主人公……」
「一説によると高御産巣日神の子供は千五百超えるぞ」
「何でだよ!?」
「神様だからなぁ……そのうちの一人が少名毘古那神って説がある。古事記では少名毘古那神は神産巣日神の子供ってなってるけど」
「へー……じゃあ逆に連携がある少名毘古那と大国主はすごく仲良いって事?」
「仲良いぞ」
「もしかして何かエピソードあんの?」
「……播磨国風土記によると……ある日、二人で歩いてるときに「トイレ我慢して歩くのと重い荷物持って歩くのどっちがしんどいか競争しようぜ!」って……」
「小学生か!? 何!? この国の冥王、朗らかすぎない?」
「元祖不遇スタート他力本願型チーレム主人公、かつ、元祖スローライフ目指す系名君型魔王主人公の疑惑が出てきた」
「全部載せ過ぎるだろ。なんか小学生に人気そうな要素まで載ってるし」
全部載せしてほぼ達成してるので強い。




