44.未実装系スキルでまた頭を抱えてる
メンテナンス明け。お店の前に門松が飾ってある以外に特にお正月らしいところが無い純和風()VRMMOである。
そんな中、町の外れの巨大土俵の様な練習場にプレイヤーが何人か集まっていた。
「あ、何か出た」
「ほんと?」
「ちょい待て、まだ使うなよ? なんて書いてある? 紫苑読んで」
「食べるの食で食」
「……しょく?」
「何で天照と月読で出てくるスキルが食?」
「夜の食国だから?」
「あ、何となく分かった。でも効果は分からん」
「使ってみるかー」
【二神連携 食】
途端、全員が練習場から出されて入り口に立って居た。
そして紫苑と影助は居ない。
「何? パーティメンバーの緊急脱出用?」
「いや、本人たちは?」
「ここは任せて先に行け的に中に残ってない?」
練習場を確認したプレイヤーが呟いた。
「……部屋のデータ壊れてる?」
「え!? マジか?!」
「どういうことなの?」
「食って多分、日食だ。蝕むって書いたりする……イクリプスってやつ」
「二人は?」
「さあ?」
「探しようがないし、運営に連絡だけ入れとくか」
純和風(?)VRMMOベータテスト。
有志が集まって二神連携という新要素の検証中である。
「なんか出た」
別の練習場に移って検証再開していたところ。大方の予想通り、ケイとサラは連携スキルがあった。
「スキル名は?」
「何か長いです」
サラがスキル名を眺める一方、ケイは目をつぶっている。視線入力なので二人でスキル名にコンマ数秒注目すると発動するのである。
現在、誤入力が多いので、せめて二神連携に関しては視線入力以外の方式をとってほしいと運営に相談中である。
「えーと……御前に仕え奉らん?」
「岬?」
サラの読み上げた名前にケイが首をかしげる。
「例によってマップ用スキルっぽいな」
「そなの?」
「天孫降臨の時の猿田彦のセリフだから。
御前っていうのは偉い人の先導とかする役の人のこと。『自分が御前として歩きますね』みたいな意味のはず。
しかしそうなると練習場だとよく分かんないかもしれない」
過去の傾向から、ケイのスキルはダンジョン内でないと正確な効果が把握できないことが多い。
実際、練習場で使ってみたがケイとサラ、二人それぞれの頭上高くに火の玉が浮かび、周囲の味方を表示する金色の火の粉が出ただけである。
「ちくわっぽい」とはケイの感想である。
ケイのLv2スキル、支加。出口の位置と合わせて味方の位置も表示してくれるのだが、苦戦しているのでなければダンジョン内で合流するメリットがないので低階層で使う事は稀である。早くも正式名称がうろ覚えになっている。
結局、ケイとサラの連携スキルは後日ダンジョンで確認する事になった。
それと二神連携以外にもう一つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
要と楓である。
「……うーん……連携用じゃないっぽいですね……」
二人のレベル2スキルの効果が未だに不明なのである。
高御産巣日神のLv2スキル名が神集。
神産巣日神のLv2スキル名が神産巣日である。
「スキル選択後、味方の中から複数の対象を選べるので、味方に使う強化だろうとは思うのですが……」
「当方も同じく」
楓の説明に要が頷く。どうやらどちらも味方に掛ける何かしらのスキルの様である。
ところで、さっきスキルと同時に消えた二人が帰ってこない。
「影助と紫苑、どこ行ったんだろ?」
「帰ってこないな?」
「スキル使う一瞬、HPMPが減ったみたいに見えたからリスポーン地点に送られたんじゃね?」
「大技っぽいしありうる」
「リスポーン地点見に行ってみる?」
「復活したら自力でここまで戻って来るだろ?」
運営に連絡していたプレイヤーが戻って来た。
「影助見つかった。ゲームのバグにはまり込んだんでチャット部屋に行ってた!」
チャット部屋。アルファテスト時代からある、ご意見や不具合の報告場所である。
「バグだろうとは思ったけど、何があったんだ?」
「なんでやねんって感じだけど、ダンジョン外でHP減る事が想定されてなくて、HPも削って出す大技だったせいでバグって部屋ごと吹っ飛んだっぽい。
リスポーンできないんで影助はチャット部屋に移動して運営に相談してた。誰か紫苑の連絡先知ってる?」
「ああ、じゃあ僕、個人チャット経由で連絡とってみます」
秀吾が手を上げてログアウトしていった。
知り合いだったらしい。
ゲームプロジェクトが巨大化した現在。ベータテストがとてもとても大事なのはこういう事があるからである。
滅多にないが。
「……「三貴子の連携スキルでゲームが壊せる」ってキャッチコピー的に滅茶苦茶おいしいのでは……」
「でもバグだからなぁ……」




