42.対宇迦之御霊神戦 決着
純和風(?)VRMMOベータテスト。
ボス戦も大詰め、一時は攻略も危ぶまれたが、思いがけない大技が出たため何とかなりそうな雰囲気である。
術師のアンと秀吾も、さっきの防戦一方の時とは一転、会話する余裕すらある。
「これって嵌め殺しでは?」
アンを中心に、術師達が術を雨あられとボスに命中させる中、アンが呟いた。
「修正入るかもしれませんけど、今回は揃ってるプレイヤーのスキル相性の問題もあると思います」
通常、嵌め殺しとは採光などの為に作られた開閉できない窓である。
そこから転じて相手に動きを許さず完勝する事を指す説。格闘ゲームの確殺コンボなどが決まる『必勝パターンに嵌めて殺す』を指すなど諸説ある。転じて嵌め殺し技、嵌め技である。
水竜巻に巻き込まれて暴れ狂うボスを全員でタコ殴りである。
先ほどまではボスの突進で一撃死しかねなかったため、不用意に攻撃に参加できなかった。しかし今はスキルの効果でボスの動きが鈍っており、よほど接近されなければ余裕をもって躱せる。
斯く言う秀吾達もボスの近くまで来ていた。特に鉄人を援護するためである。
「これ使うにしても俺とソライロはほとんど動けないし。ボス戦で常時発動は厳しいと思う。俺なんて回復追いついてないし」
偶然発見されたこのスキル、維持に相当のMPを消耗するようである。特に騎士の鉄人は元のMPが低いこともあって引っ切り無しにMPを回復していたが、徐々に減っている。回復が追い付かないのである。
サラの自動回復力上昇スキルを使っても間に合っていない。
「でも、ここまで一方的となるとボス戦中に何とかして発動を狙うでしょう? 猿田彦の人に注意を引いてもらったりして」
「多分、本来なら稲妻でスキルの効果範囲外に逃げる事は出来るんです」
秀吾が言うそばから、ボスがスキルを使う。
【宇迦之御霊神 稲妻】
スキルが発動する。水竜巻を昇るように水色の雷光とともにボスの姿が消えた。そして水竜巻のすぐ近くに落雷とともに降る。落下地点の近くに居た数人が稲妻のスキルでダメージを受けた。
ボスはしばらく奮闘していたが、赤裸裸の突撃で足をとられ、水竜巻の方に転がって行った。
「多分、稲妻の移動範囲に条件があるんです。空が晴れてる」
秀吾に言われて、アンが空を見上げる。ボスエリアは黒雲に覆われていたはずである。
今は黒雲はボスの周囲の上空のみ、他は青空が広がっていた。
「そうか、天照のLv2パッシブスキル……」
当の紫苑が言われてはじめて空を見た。常時晴天にするスキルである。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
スキルを使おうとしたのは縁と翡翠。
先ほどの稲妻の着地地点でダメージを食らった人に、回復スキルを使おうとしたのである。
「ふえ?」
「これって?」
縁と翡翠が止まった。
スキル欄に見慣れない表示があったからである。
注目したせいで視線入力が成立した。
【二神連携 国造】
ボスの足元から火山噴火のように山が造山され、岩が礫のように噴き上がり、また造山される。
「あわわわわわ」
数秒であっさりボスの残りHPを平らげ、スキルは終了した。
ボスと戦っていた全員が驚いたが、一番動揺しているのは回復スキルを使おうとして超攻撃スキルを発動してしまった縁と翡翠である。今もあわあわ言っている。
誰ともなく呟いた。
「……そもそも二神連携って……何……?」
ゲームプロジェクトが巨大化した現在。ベータテストがとても大事なのはこういう事があるからである。
ボスが倒れ、白い炎となって消えると、皆の目の前、胸ぐらいの高さに赤い勾玉が浮いた。
小春の鑑定によれば稲妻のスキルらしい。
極大スキルに巻き込まれて全滅したのか、ボス戦の後も敵に遭遇することなく鳥居に着いた。町に戻って人心地である。
とはいえ、イレギュラーな事態が多かったせいか、誰とはなしにレコード、ボス戦の映像記録の確認に向かった。
今回初めて武器勾玉を使ったのはケイである。その様子をレコード、ダンジョン内の記録再生部屋で確認する。
「勾玉ってこうやって使うんだ……」
「初めて見た」
「何か既視感あると思ったらあれだ、やっぱり和物の『風雲忍者絵巻』だ。
あれはPvPタワーディフェンス系だけど、巻物を使ったこんな感じの動作がある。そのシステムの流用なんじゃないかな。
あれの巻物も一発逆転系の大技だけど、その間は他のアイテム使えないとか何か制限があったはず」
「巻物口にくわえるから回復と術と会話ができないとかだったと思う」
「あー、なるほどね」
「この二神連携ってさ、今まで気付かなかっただけとかじゃないよな?」
「過去に俺と鉄人さんが同時にスキルを使おうとしたこと普通にありますけど、あんな表示初めて見ましたからね」
サイレントアップデートである。
今回もやはりボスのスキルに苦戦した。
対処できない所を移動する高速移動技は厄介である。
前回と違うのはプレイヤーがかなり粘らないと奥の手を使ってこなかったため、軽い偵察を繰り返しただけだと分からなかったところである。
それとやはりボス部屋に突入するタイミングを一致させたいところだが、人数が少ないせいで安全にボス部屋までたどり着くスキルを持っている人が足りない。
毎回レイドボス級だが、ダンジョンの仕様上、レイドに参加するまでが一苦労というのが現状である。
しかし今回発見された二神連携。
組み合わせによってはもっと楽に戦える可能性がある。




