40.対宇迦之御霊神戦 増援
純和風(?)VRMMOベータテスト。
ボス戦である。
シキの背に揺られながら、ケイはHP回復薬を使う。
現在、ケイが挑発系スキルでボスと八十禍の注意を引いて走り回っている。
【宇迦之御霊神 稲妻】
「うわあぶねっ! ちょっと掠った!」
秀吾達、防御系スキル持ちのパーティーがダメージを受けたメンバーを救助してくれるまで持ちこたえなければいけない。が、既にケイは敵の群れに囲まれつつあった。
MP回復薬を使ってじわじわとMPのバーが回復していくのを確認し。ケイはアイテムを一つ手に取った。
以前、ボス討伐時に入手した赤い勾玉である。
勾玉の効果は小春から大雑把に教えられただけだが、これだけ敵がいればどこかに当たるのを期待する。
このアイテムの使い方は分からないが、VRゲームには便利な機能がある。
「インストラクター起動。アイテム使用」
インストラクター。VRゲームで技などを出す時にプレイヤーを自動操縦する仕組みである。
インストラクターの操作によって、ケイは手に持った勾玉を親指と人差し指の間に挟んで手を合わす。続いて自動で音声入力の言葉が口から出る。
「『掛けまくも畏き 分御霊に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
勾玉の感触が消えたと思ったら、手のひらがくっついた。
マグネットみたいな感触で、剥そうと思えば剥せるような、そんな感触である。
あ、これ手を離したら解除されるやつだ。と、ケイは思い至った。
【 大氷雨 】
周囲に野球ボールからバスケットボールぐらいの雹が降り注ぐ。
当たった八十禍があっさり消滅していく。範囲攻撃なのでボスにもダメージが入っている様だ。
同時に、ケイのHPMPも時間経過とともにすごい勢いで削れていく。
そして見る見る減っていくHPを見て慌てる。
当たり前の話だが、回復薬を手に取れないのである。
MPよりHPの減りの方が速い。式神使いは後衛型、HPの方が少ない、いわゆる魔法使いタイプなのである。
自分のHPがどこまで削れるまで粘るか、しかし敵はそれを待ってくれなかった。
雹で悪くなった視界の外から、狐の大口が突っ込んできた。ボスの突進攻撃である。
「うぎゃ!」
手が離れたせいか、それともHPが尽きたせいか、勾玉の効果が切れて砕け散るようなエフェクトが見える。
それを最後にHPが尽きて、ケイの視界が暗くなった。
みゃーみゃー近くで猫みたいな声がするが、それが自分の巨大猫型式神のシキの鳴き声だとケイが気付いたのは数秒後である。
MPが残っていてHPだけやられたので、シキが残ってるのである。
「シキ! ケイをこっちに連れて来て!」
ジオの声である。
「式神ってパーティーメンバーの言う事も聞いてくれるの?」
「分からんけど音声入力搭載してそうだなって」
ケイからはジオと恐らく鉄人の声が聞こえた。視界は真っ暗だが、声の様子からして皆集まっている様だ。
「シキ、ジオの所まで連れてって」
音にはならなかったが、音声入力を使ってみる。
HPが尽きても式神が残っているという事は、この状態でも声で操作ができる可能性が高い。
ちゃっちゃっちゃと爪が地面を掴む足音が聞こえる。
「シキ賢い」
「アイテムあります?」
「とりあえず蘇生」
ケイの視界が戻った。
回復できた様である。
既に全員合流して防御スキルで守られていたところであった。
赤裸裸がボスを引き付けてくれたおかげでシキが移動する余裕があったのである。
「ケイさん! 間に合った!」
「しかし別パーティーが来た途端に潰されるんじゃ困るぞ。対策を……」
鉄人が言い終わる暇は無かった。曇天の一部がゆっくり晴れていく。
その別パーティーがエリアに来たのである。
しかも2パーティー八人。
「あれ!? もしかして俺らが最後!?」
一つはソライロ、アン、レイ、楓のパーティーである。
スキル、道敷大神でボス部屋に直接来ることもできたのだが、ダンジョン内で味方と合流を期待して動いていた様である。
「散開して! 突進が来ますよ!」
もう一つは要、影助、紫苑、小春のパーティーである。
スキルの構成上、安全にダンジョン内を移動できる二組だが、対ボス戦の防御が無い。
【宇迦之御霊神 稲妻】
ボスは新しく来たメンバーの真ん中に降った。
見た事の無いボスの動きに、八人が硬直する。
いや、レイが反射的に爪を受け止めていた。
「安地まで走るよ!」
レイが安全地帯への移動を呼びかけ、湧きだす雷光を帯びた八十禍を目の端に捉えた。瞬間、ボスが毛を逆立てる。突進の予備動作である。
混乱状態でも瞬間的に行動したプレイヤーが何人かいた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【高御産巣日神 還矢】
要がスキルを使った相手は楓である。