39.対宇迦之御霊神戦 戦闘
暗い曇天に雷鳴が鳴った。
ボスの巨体が一瞬青白い燐光になって消える。
「来るぞ!」
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【事代主神 青柴垣】
【宇迦之御霊神 稲妻】
落雷とともに巨大な狐が目の前に現れる。
上空を経由したボスの高速移動技である。
純和風(?)VRMMOベータテスト。
ボス戦である。
九尾の狐型大禍津日神。
宇迦之御霊神荒魂。
このゲームでは荒魂とは、災害や戦争を担う神様の一面である。
力の一部を禍津日神として大暴れしてもらう事で力を解消してもらうという設定である。
「ボスがダメージによって行動パターンを変える事はあるけど……」
「スキル、今まで出してこなかったからね」
ボス撃破を目標に挑んだ今回。多少ボスを追い詰めたせいか、過去に使ってこなかったスキルを使われる事になった。
雷光に変じて一瞬で移動し、落下とともにダメージを与えてくる。今回のボスの隠し玉、稲妻である。
ボスの落雷とともに周囲に雷光をまとった八十禍の狐が出てうろつきまわる。
青柴垣の防御が無ければとっくにやられているだろう。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【伊邪那岐命 祓戸大神】
鉄人が発動したスキルは周囲の敵に微弱なダメージを蓄積させていくものである。八十禍はもちろん、ボスにも効く。
【宇迦之御霊神 稲妻】
ボスの姿が雷光となって空に上る。そして落雷とともに遠くに移動した。
「私が追いますか?」
「いや、赤裸裸さんも周りの八十禍減らしてくれ。
下手に出てやられたら困る」
そこにサラが声をかける。
「MPポーション使うよ」
「早くね?」
「次に突進されたら秀吾が落ちる」
パーティーメンバーは秀吾、鉄人、サラ、赤裸裸。
今回はソライロのスキルでボスが居るのを三階層と当たりをつけた後、複数パーティーで三階層に突入した。
運がいいのか悪いのか、数エリア行かない内にボスエリアに当たったのがこのパーティーである。
「ソライロ達はまだ来ないのか?」
ソライロのスキル、道敷大神はボス部屋に直行するものである。
「私たちの状態は知らないはずですし、他のパーティーと合流しようとしてるんじゃないでしょうか?」
「あー、そういう事か」
「来るよ! 突進!」
「祓戸大神のお陰で数は減ってますが、まだ周囲の八十禍に削られる分が大きい!
危なそうだったらもう一回MP回復お願いします!」
「了解!」
秀吾の自己申告にサラが頷いた。
このゲームの青柴垣は範囲内絶対防御である。
しかし、展開する範囲や受けたダメージに対してMPを消耗する。小ダメージで削られたところに大ダメージが入ればスキルが吹き飛ぶこともある。
秀吾達とは別の方で拍手が響いた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【少名毘古那神 国造】
秀吾達に突進しようとしたボスの顎を突き上げるように大岩が炸裂した。
睨むように九尾の狐が向き直る。
「あ、私タゲられたっぽい?」
「まだ遠い、翡翠さんシキに乗ってくれ!」
到着したのはケイ、ジオ、翡翠、縁である。
「青柴垣まで来い! 奇襲されるぞ!!」
鉄人が四人に向かって叫んだ。
ジオが何かを察し、スキルを発動する。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【思兼神 八意思兼】
【宇迦之御霊神 稲妻】
九尾の狐が雷光とともに消え。瞬間、到着したケイ達四人の前に立ちふさがる。着地と同時に翡翠が爪の攻撃を受けてHP0。縁は少し離れていたが余波を受けダメージ。ケイは避けたもののやはり攻撃の余波でダメージを受ける。
攻撃を避けられたのはスキルを使って攻撃軌道を見ていたジオだけだった。
「何これ!?」
ほぼ同時に周囲に雷光を纏った八十禍の狐が湧き上がってきた。眷族の狐たちの強化版である。
今着いた四人は高速移動のボススキル、稲妻初見である。
「シキ! 縁さんを!」
ケイがシキに指示して縁をボスから引き離させようとした。
しかし間髪入れずにボスの突進攻撃。ノックバック効果でケイ達がばらばらに吹き飛ばされる。
攻撃を受けたメンバーの現HPは10~40%ほど、明らかにHPダメージによる行動制限が発生している。
ケイ達四人はダメージで行動制限中。このままでは来た全員が落ちる。
「シキ! 戻れ!」
ケイはシキに縁を離させた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【猿田彦神 道標】
式神使いは式神が動いている限りはHPダメージで身動きが取れなくなることは無い。
バグじみたヘイト上昇効果がスキルにあるなら、自分が引き付けるべきだというケイの判断である。
周囲全ての八十禍、そしてボスの注意が一斉にケイに向いた。




