表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/132

37.九尾の狐強襲偵察

 ここはダンジョン一階層。草地に背の高い草、ちょっとした林が点在する明るい緑地である。


 パーティーメンバーはソライロ、ケイ、小春こはる赤裸裸せきらら


「まぁ偵察と、その他色々を実験をするわけですが、ケイさん、よろしくお願いしますね」

「お願いしまっす」


 赤裸裸せきららとケイがお互いに軽く頭を下げた。



 ソライロが拍手かしわでを打つ。


「『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす』」


伊邪那美命いざなみのみこと   道敷大神ちしきのおおかみ


 黒い炎を灯した鳥居が出現した。


 伊邪那美命いざなみのみことLv2スキル。

 ボスの居るエリアへの直通ワープゾーンである。


「今ボスが居るのは二階層ですね。火が脇に二つあるから」


 ソライロが現れた鳥居の横を指した。鳥居の両脇で篝火かがりびのように黒い炎の玉が燃えている。

 二階層なら極端に強い敵は居ないはずである。ボスが呼びだす八十禍やそまがつは無限湧きする黒狐だ。


「というわけで死んでくる」


 今回の決死隊はケイである。


「そこはなるべく頑張ってください。ケイさん死ぬとボス戦本番の前に合流すんの大変になるでしょ」


 ソライロの声を受けつつ、ケイはシキに乗ったまま黒い火の灯る鳥居に踏み込み、全力疾走を開始する。同時に拍手かしわでを打った。


「『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす!』」


猿田彦さるたひこのかみ   道標みちしるべ


 木の生い茂る森と草原の境目のような場所。

 ケイの数メートル頭上に浮かぶ明るい火の玉。

 そして頭のやや上の辺りに浮かぶ赤、黄、青、緑の丸い火の玉。

 エリア内の鳥居の位置を示すと同時に、目立つせいか敵にターゲッティングされるスキルである。


 地響きが聞こえてくる。どこだと探すまでもなく、右手側から土煙が向かってきていた。

 ギリギリまで引き付け、急カーブしてすれ違うように右に躱す。

 尻尾の一本がシキの真横を薙ぎ払った。


「うわこんなとこまで届くのか」


 騎獣も一飲みにできそうな大きさの巨大な九尾の狐。

 距離をとらないとあっさり潰されそうである。


 ケイは横目で緑火の位置を確認する。


「『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす!』」


 小春こはるの声が響く。


崩彦くえびこのかみ   崩彦くえびこぞ必ず知りつらむ】


 ケイの役目は鑑定が終わるまで大禍おおまがつを引き寄せる事と、なるべく大勢を撤退成功させることである。


狐型きつねがた大禍津日おおまがつひのかみ

 宇迦之御霊神うかのみたまのかみ荒魂あらみたま!」


 小春こはるの声だ。

 崩彦くえびこのかみの鑑定スキルである。


 鑑定は成功した。あとは小春こはる達が緑火鳥居まで脱出する邪魔にならないように誘導する必要がある。


 緑火の位置は最初の位置から左手側。

 ケイはボスの背後を大きく回り込んで左に向かう。

 ボスが転回して追ってきたため、逆に尻尾は遠のいて四方八方からの攻撃を警戒する必要は無くなった。


 しかし周囲の砂地と化した地面から影が現れる。

 地面からわき出した八十禍やそまがつの狐である。

 その影の一部が上空に上って、暗雲のように立ち込めた。


「くそっ!」


 黒狐達に近づかれないように護符型式神で防ぐ。

 シキには走りながら左右に跳んで避けさせるが、数が多い。


 地味にシキがダメージを受けているらしく、MPダメージが蓄積していく。

 式神のダメージは術者のMPダメージ。式神の動きが鈍ることはないが、ケイには徐々にダメージによる行動制限が掛かっていく。


 砂地の先に緑火の鳥居が現れ、そこに赤裸裸せきらら達が駆け込んだのを見て、ケイはようやく息をついた。


 不意に影が差した。

 咄嗟にシキを大きく左に跳ばすと、ボスの巨体が突っ込んできた。

 避けれたと思ったのも束の間、尻尾の一本に払われ、吹き飛ばされる。


 ノックバック、吹き飛ばしダメージで体勢が崩れた。

 ケイは体勢を立て直す間もなく八十禍やそまがつの一体に腕を噛みつかれる。


「痛って!」


 痛くはないが甘噛みの様な感触はある。HPにはダメージが入っている。

 動きが鈍っている中で振りほどいている間にシキが複数の八十禍やそまがつに噛みつかれ、消えた。

 式神にダメージが入ったことでケイのMPが尽きた。ケイ自身のHPは残っているが、MPダメージによる行動制限で起き上がれない。


 八十禍やそまがつの群れのど真ん中。どうやらここまでのようだ。

 倒れたケイの首筋が噛まれた。


伊邪那美命いざなみのみこと   瑞穂みずほ祖神おやがみ


 一陣の風が吹いた後、周囲の敵が一斉に一所に向かって移動を始めた。身動きできないケイはその様子を見守る、と、声が響いた。


「ギン! ケイさん拾って!」


 ケイの体が何かに持ち上げられて高速移動を始めた。


「『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす』」


少名毘古那神すくなびこなのかみ   薬湯くすりゆ


「え!? 何してんの!?」


 ケイを咥えているのはソライロの狼型騎獣のギンである。


 瑞穂みずほ祖神おやがみは自分も動けない代わりに敵を静止させるスキルである。スキルを解いた瞬間に、かかっていた敵が一斉にスキルの発生源に押し寄せる特質がある。

 スキル使用者がターゲットになるのではなく、発生源を察知して殺到してくるのである。その途中でプレイヤーに遭遇すると襲い掛かってくる。


 逆に言うと見つからなければスキルの発生源を囮にすることが可能。


 八十禍やそまがつはケイの周りに集中していた。つまりスキル使用者であるソライロが、敵が向かってくる直線コースから外れれば敵の集団を回避可能という非常に珍しい状況であった。


「ボスが真っ直ぐケイさんを追っかけまわしたんで、森があちこち残って目隠しになってたんですよ」


「ケイさん生きてる?! 生きてるね! HPバーちょっと戻ってるし!」

「ども、ジオさんが追加で実験したいとの事で」


 翡翠ひすいが同乗しているのは赤裸裸せきららである。


翡翠ひすいさんのスキルで突進止められるか確認したかったので」


 言う間に背後からボスが迫る。翡翠ひすい拍手かしわでを打っていた。


「『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす!』」


少名毘古那神すくなびこなのかみ   国造くにづくり


 突然目の前に現れた大岩に、ボスが激突。

 岩は砕けたが、ボスも動かない。数秒後、よろよろと歩いた。


「めっちゃ効いてる……」


 ターゲットが翡翠ひすいに移り、赤裸裸せきらら翡翠ひすいが逃げ回る。

 国造くにつくりを駆使して障害物を発生させ、突進を受けないようにうまく立ち回っている。


「ケイさん。実験してほしいんですけど、スキル今使えます?」


 ソライロに声を掛けられてケイが慌てる。さっきMPが0になったばかりである。


「え? いや、ちょっと回復したから使えるか……」


 実験、と言われるがままに、ケイはスキルを発動した。


猿田彦さるたひこのかみ   道標みちしるべ


 途端にボスと八十禍やそまがつがケイを向く。

 目の前に赤裸裸せきらら達がいるにもかかわらずである。


 その隙を赤裸裸せきらら大薙おおなぎで払うと、一瞬そっちを向いて尻尾を振るって打ち付ける。

 しかし一直線に向かって来たのはケイ達の方であった。


「おわわわ! 来た来た!」

「はいはーい、逃げまーす」

「つーかMP減ってる! いつもは何ともないのに! 何で!?」


「普段はケイさんの回復量とスキルの消費量が拮抗してるんでしょう。

 ダメージが大きいと回復速度が遅くなるから、消費速度に回復速度が追い付かなくなったんですね」


「そういえばそうか」


 言う間にケイのMPが尽き、火の玉が消えた。ボスはそのまま追ってきたが、翡翠ひすいのスキルを当てられると今度はそちらに向かった。

 それを見届け、ソライロは緑火の鳥居をくぐる。



 緑火前の広場で数人が待っていた。


「お、ケイ生きてた!」

「何? 何かあったの?」


 ソライロの狼が咥えていたケイを離した。町に戻ってHPMPが回復したのである。


「確認したいことは大体確認できた。ボスの荒魂あらみたまとか砂地からは素材採取不可とか」


 このゲームにおける荒魂あらみたまとは、戦争や災害を司る神様の力の一面である。その力の一部を禍津日神まがつひのかみへと変え、安全に発散させるという設定である。

 他方、ボスの能力が事前に分かることがあるので鑑定しておくことは非常に重要である。


「さっき行ってもらったのは翡翠ひすいさんのスキルが効くか確かめたかったんだけど、赤裸裸せきららさんも気になることがあったみたいでさ」


 ジオが説明する間に赤裸裸せきらら翡翠ひすいが戻って来た。


「多分生木AIですけど、かなり古典的なヘイトの仕様に似てます。ヘイトの上昇と蒸発が速くて、瞬間的な反応をしたら後はAIに任すタイプ。

 でもケイさんのスキルが妙な継続ヘイトを与えてるっぽく見えます」


「プレイヤーに独特な仕様のスキルが多すぎて、AIと敵愾心のシステムを混ぜるのに失敗してる印象でしたね。強いて言うならバーサーカー」


 ソライロも見ていた印象を語った。


「……それってバグじゃね……?」


 バグの洗い出しもベータテスターの役目といえばそうである。


「多分だけど前回の反省からボスの仕様をかなりいじったんじゃないかな?

 ボスAIが生存を最優先すると思兼神おもいかねのかみみたいにひたすらヒットアンドアウェイが最適解になって、プレイヤーが戦闘を継続させるのすら厄介になる」


「あー……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ