36.九尾の狐対策会議
純和風()VRMMOベータテスト。
ボスが見つかったので町の記録映像閲覧エリアで対策会議中であった。
「とにかく突進がやばい。何か封じられそうなスキルある?」
「事代主の青柴垣で数発は耐えられるのは分かったけど」
完全に一人の防御スキルに頼るとなると危なっかしい。
翡翠が手を上げた。
「あ、はいはい! 少名毘古那神に『国造り』っていう、地面から岩を出すスキルある。使えるかも」
「大国主は無いの『国造り』?」
「Lv2は『蒲の穂』で回復技です……」
縁の困り眉が更に困った。
ちなみに大国主レベル1はパッシブスキルで直毘神に気に入られるものである。効果としてはアイテムドロップ率アップとされる。
「これ、何の神様だと思う?」
レコード、ダンジョン内のリプレイ映像を確認しながら鉄人が聞く。
「普通に九尾の狐じゃないか?」
「あー、荒魂が乗ってる可能性か……」
このゲームでは、荒魂は戦争や災害といった事を担当する神様の一面である。
その力を安全に解消するために、力の一部を禍津日神にして戦ってもらう、という設定である。
大抵その神様に関係する能力を持っているので、事前に知っておくと対策が立てられるのだ。
「パワーこそパワーみたいになってるから力押し系の神様じゃない?」
「狐が関係あるなら宇迦之御霊神」
「でも前に高御産巣日神が竜で出てきましたよ」
「でも伊吹山の猪神、猪だったよな」
「多分、外観は関係ある時とない時がある」
「これ、最終的に禿山になってない?」
指摘した人が映像を出す。レイ、秀吾、楓の三人が駆け込んだ緑火鳥居の周辺は砂地である。
「……何だろ?」
「言われてみれば、瞬く間に砂漠化してるな」
改めて映像を確認してみる。戦闘中、森や草原だったところが砂になっているのだ。
鉄人達四人が緑火鳥居を一直線に目指せたのは、森が消えて見晴らしが良くなったためである。
「戦闘が長引いたら突進を避けるのが難しくなりそうだな」
騎士が唸ると、薬師が声を上げた。
「これ、もしかして採取もできないんじゃない? 特に果実」
前回はボス戦の最中に、薬師のジョブスキルでエリア内で採取し、回復アイテムを確保していたのである。
今回ボスに出くわしたのは騎士、術師二人、式神使い。薬師は居ないので採取が可能だったかは未確認である。
「……回復薬、持ち込み分で対応できそうか?」
「食料枠に圧迫されるのが痛い」
「前回も手持ちできる回復アイテムは限界まで持ってたんだけど」
「足りなかったです」
「ボスの居る階層もわからず彷徨うよりは消耗少なかったと思うんですけどね」
「ボスに行くまでに結構消費しちゃう」
「エリア内で採取できないとなると、足りないんじゃないか?」
「でも思金神の八十禍は厄介さが段違いだったからな」
誰かが映像を指して尋ねた。
「このにょきにょきしてくる狐ってアイテムドロップするのかな? それなら採取分を補えるかもしれないけど……」
「レイの攻撃に巻き込まれて消えた奴いたけど、直毘神にはなってないっぽい」
「じゃあ無理か」
「この上に上っていくやつ何だろ?」
一部の狐が煙の様に上空に上っていく。暗雲の一部になっているようにも見える。
「降ってきたりしないよね?」
横で聞いていた鉄人が嫌そうな顔をする。
「降ってくるかは分からんけど、この生えてくる狐、死ぬほど厄介だぞ」
実際死んだ鉄人の証言である。
「小柄で姿勢が低いしすばしっこいから攻撃が当てにくい」
「騎士の天敵だねぇ」
「式神なら馬上から当たるんだけどね」
「大勢いるのにまとめて吹っ飛ばしにくいっていうのはな……」
「夜の食国で止められないか?」
話題を振られた影助が考える様に首を傾げた。
「静止条件を探ろうとして色々試してた時、別の八十禍がぶつかって動き出した奴が居た。
これだけ密集して出現すると難しいと思う」
「前回やった伊邪那岐伊邪那美のスキルで八十禍止めるやつはだめなの?」
「前回ソライロがやったみたいに鹿毛坊と耐えようとしたけど吹っ飛ばされたぞ。大禍の突進力が強すぎる」
実際吹っ飛ばされた鉄人の証言である。
「秀吾さんに守ってもらうしかないね」
秀吾が頷いて言葉を続ける。
「MPを回復する余裕があればもう少しもつとは思います」
防御スキルが重要になりそうである。
「でも出しっぱなしだとガンガン削られるんだよなぁ」
「そういや範囲攻撃で雑魚一掃みたいな技無いの?」
ボスも厄介だが呼び出される八十禍も厄介である。
鉄人が控えめに手を上げる。
「一応、伊邪那岐Lv2が広範囲スリップダメージだけど」
「倒すまでに時間かかるとなるとちょっと……だから鉄人、今回使わなかったんでしょ?」
「そうなんだよなぁ……」
「天津甕星Lv2は範囲攻撃系ですけど、ちょっと癖が強いです。時間かかる上に攻撃の軌道が独特なんで」
「天照Lv1は一撃必殺だけど、範囲が狭いからなぁ……」
「防御系と範囲攻撃系のスキルが少なすぎますね」
そして、恐らく荒魂の力で起こる砂漠化による補給の困難。
「回復アイテムは素材でも持ってくしかないねぇ」
ひーふーみーと翡翠が持ち物に占める素材の割合を計算する。
回復アイテムに使うのは石2個、果物2個、竹筒、木の枝の6つ。素材枠を目一杯使って16個分。多いか少ないかで言えば多いだろう。
「……負けると半分無くなるんだよな……」
ゲームオーバー時の経験値ペナルティの一環である。
「しかし荒魂、何だろ?」
「九尾の狐って女性のイメージ強いよね」
「石巣比売じゃね? 岩と砂って説あるし」
「シンプルに日照りとかで天照かもしれない」
「曇天になってるけど、晴天の逆と考えれば可能性はあるのか?」
「豊穣神が荒れて荒廃の能力ってのはありえると思うんだ」
「豊穣神で女神って結構多いな。さっき出た宇迦之御霊神、豊受姫、大気都比売……えーと」
「別に男神が否定されたわけじゃないからとりあえず豊穣神の和久産巣日神も入れておくね」
荒魂プロファイリングは盛り上がるが、正体に関しては実際に鑑定してみないとどうにもならない。
という事でお開きになった。
「なぁなぁジオ。楓さんの全体回復スキルってあれ何なの? 話題に出そうと思っても名前が若干気まずいんだけど」
「ん? なんだっけ?」
「何とかの乳」
「ああ、大国主が猪岩で焼きつぶされた時に蘇生した薬だよ」
「あ、神産巣日神って大国主を蘇生した神様か」
「貝殻の粉末か貝汁で薬の処方があるんだとさ。
その薬が乳に似てるんだって」
「ちょっとびっくりした」
「……母の乳汁だもんな……まぁ大国主の母親が神産巣日神に縋ったって話なんで母乳もあったかもしれん、知らんけど」
楓が堂々としているから逆に気にならないが、下手したらセクハラである。