34.他のパーティー
ダンジョン内。黄色火鳥居をくぐって、別エリアに来た四人である。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【月読命 夜の食国】
狼の遠吠えが響き、空に月が輝く。
暗い森の中で八十禍の赤い目と青白い炎が燃えているのが遠目に見えた。
「へぇー……こっちの方が敵見つけやすくない?」
「八十禍に限って言えばそうだけど、暗くて歩きづらいぞ。森の中だと足元全然見えないし」
ケイは言われて周りを見渡す。
「うわほんとだ、この辺のちょっと影になってるとこ、何があるか全然見えねー」
純和風(?)VRMMOベータテスト。
スキルの検証中である。
【猿田彦神 支加】
ケイは猿田彦神のスキルを使ってみた。
普段は八十禍を引き寄せるぐらい目立つ灯りだが。
「……俺の足元は見えるけど……明暗差で影になってるとこ余計に見えづらいな」
「だろ? こういうローコスト発動系って何かしらデメリットがあるみたいなんだ。ケイのも敵を寄せ付けるし」
暗闇の中、アンと縁が狙いを定め、遠距離攻撃で一匹ずつ確実に敵を倒していく。
白い直毘神が、アンと縁に寄ってきてそれぞれにアイテムを渡した。
「俺のスキルで敵を止めて、アンさんのスキルで索敵して、縁さんのスキルでドロップ率アップするとすげーアイテム収集に効率がいい」
不意に空が明るくなった。
何もない所に黄色い炎が上がり、他の四人、ジオ、要、翡翠、紫苑が現れる。黄色火鳥居をくぐってきたのである。
「そんなわけで、俺はおまけだ」
紫苑である。会話を聞いていたらしい。
紫苑のLv2パッシブスキル。常時晴天になるスキルらしい。
地味な様で、場合によってはかなり重宝するスキルであった。
「そんなこと言うなって」
「実際、アイテム収集なら俺の代わりに薬師入れた方が効率は良いぞ」
「いやお前が居ないとマジで何も見えないんだって!
なぁー、この太陽神のスキル持ち、マジで自分の重要さが分かってないー」
実の所、パッシブスキルが効いている紫苑にリアルタイムで夜の森を見る術はない。実感がわかないのも当然と言える。
遠くから声が聞こえてきた。
「ほら、月読命のスキルですってば。
少なくとも練習用ダンジョンができるまでは一階層にはボス出現しないって決まったでしょ?」
「だってあんなん絶対ボスの登場演出かと思うじゃないですか!!」
「いや、スキル表示あったよ?」
「私以外の崩彦がボス月読を鑑定したかもしれない!」
「かもしれない行動にしてもレアケース追い過ぎでしょ」
現れたのは騎士の赤裸裸、薬師の小春。そしてあまり知らない二人である。
見た目は前衛と後衛だ。
前衛っぽい方はプレイヤー名、最上凪枯。
黒い長そで長ズボン、黒っぽい布地に金の縁取りのタバードエプロンに似た服装。腰に直剣。強いて言うなら無国籍風ファンタジー服である。
「忍者で天津甕星のスキル持ちです」
「……あまつみかぼし……」
「あ、やっぱ分かんないですよね。僕も調べて知ったし」
あまり素直に奉ろわなかった神様の一柱らしい。天津神か国津神かもよく分かって無いそうだ。
小春と軽口を交わしていた後衛の方はプレイヤー名、茶畑サラ。
暗い茶色の髪を一つ結びにして、深緑の作務衣に黒のタイツ、足元はブーツという動きやすい服装。
薬師である。
小春の知り合いで、以前、崩彦神のスキル持ちを探していた時に小春を引っ張ってきたのは彼女であった。
天宇受売命のスキル持ちである。
「あー、天岩戸の」
「踊りませんからね」
ケイが言おうとしたところに被せ気味に否定された。不機嫌そうである。
天宇受売命。
岩戸隠の際、神々の前で踊って場を盛り上げたエピソードが有名だが、その実、大盛り上がりしたのはエッチな衣装でポロリ上等とばかりに踊ったためという話である。
サラとしてはそのエピソードを出されるとセクハラを感じるのである。
「天宇受売、お前の猿田彦にも関係あるぞ」
ジオがさらっと告げた。
「そうなの!?」
「猿田彦が天孫を高天原まで迎えに行ったとき、目立つ上に所属不明の神様だから高天原の神様達はざわざわした。で、「メンチの切り合いなら負けないから」って行かされたのが天宇受売。
そして他の神様達が及び腰な中、見事に「あんた誰」って聞いて道案内しに来た国津神だと分かったわけだ」
「ガンの飛ばし合いで負けない神もやめほしいんですけど」
手弱女にあれど居対う神に面勝つ神である。
「えーと、その後もたびたび一緒に居て、名前も猿女君になったりしてるから夫婦になったって説もある」
「天宇受売の方が可愛いのに」
「俺に言われても」
まったく示し合わせることなく、ダンジョン内で偶然3パーティー十二人が集合という大所帯である。
ここからばらけるのも逆に面倒である。アイテム収集が目的ならここで一度帰ろうという事になった。
町に戻ると、広場の真ん中に白い大きな火が灯っていた。
「誰か帰ってくんのかな?」
見ていると、火が消えたところに寝ているのは鉄人である。愛馬の鹿毛坊も一緒であった。
「……あ、やられたのか」
はじめてやられて帰ってきた人を見たケイだった。
「鉄人がやられるのは珍しいな」
皆でゾロゾロ話を聞きに行く。
「……九尾の狐は日本神話じゃなくね?」
鹿毛坊に突かれて鉄人がぼやきながら起き上がると。ジオが応えた。
「純和風って言ってるし、九字とかあるから神話だけって事も無いんじゃないか?」
「ってうおびっくりした!
何でボス行った俺達より人居るんだよ!?」
「何でと言われましても」
ちょうど緑火鳥居から帰ってきた一階層メンバー。
3パーティー十二人の大所帯である。