33.神スキルLv2
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【猿田彦神 支加】
ダンジョン一階層。頭上高くに浮かぶ明るい火の玉。
そしてケイの頭のそばに浮かぶ赤、黄、緑の丸い火の玉。
赤は次の階層に行く鳥居、黄色は同じ階層の隣のエリアに行く鳥居、緑は町に帰還する鳥居の位置を示している。
「……変わってなくね?」
ケイの言葉にジオも要も翡翠も、思わず首をひねる。忍者とぱっつん大正袴と魔法少女の一団である。
「うーん?」
「確かに……違いが分かりませんね……」
「なんだろね?」
ケイのLv2スキル。全員がLv1の時のスキルと全く変わってないように見えるのである。
純和風(?)VRMMOベータテスト。
現在レベル2になったスキルを、ダンジョン内で検証中である。
「これスキル、ひらがな振ってても読めなくない? ……ちくわ?」
「支ち加え。文献によってはあかちくわえとか、くまりくわえとか振り仮名振ってあるの見たけど」
「どゆ意味??? ひらがなでも分かんないんだけど???」
「古事記の猿田彦の登場に前後して、高天原が天孫に五伴緒、つまり五人の神様をお供に付けたって描写がある。それが『五伴緒を支ち加えて』。
多分『くまり』は分かれるって意味の古語。水分は川の分かれ目、分水嶺。
つまり『(高天原から)五柱の神様を分けて(降臨の一行に)加えた』って感じの意味のはず」
ジオはケイのスキルを眺めながら、しばらく近づいたり離れたり見る角度を変えたりと周りをうろうろした後、コメントした。
「……ケイの頭の上の辺り、火の粉落ちてきてないか?」
「え? こんなだったっけ? 何だろ? 攻撃用? 火点いたりしちゃう?」
困惑するケイを放って、ジオは自分に近い位置の火の粉を見ながら動き回り、結論した。
「多分、この火の粉、他のプレイヤーの位置だ」
「ええええ」
「ははぁ」
「ああ、なるほど」
ジオの言葉に驚くケイ、感心する要と翡翠である。
「この火の粉の位置、俺の位置に連動して動いてるもん」
ジオがそう言って十数歩横に動くと、ちらちらと降る火の粉の落ちる位置が心なしか動く。要や翡翠が動かないので、位置関係の変化が辛うじてわかる。
「分かりづれーよ!!」
ジオは、ケイの周囲に降る金色の火の粉を見た。
「という事は向こうにも誰かいるな。
確認がてら行ってみようか」
相手もこちらに向かってきていたので、すぐに相手が誰だか分かった。
「縁さん」
「やっぱりジオさんとケイさん達! なんだかお久しぶりです」
ケイのスキルの火の玉が見えたので来てみたのだそうだ。
向こうのパーティーは縁、影助、アン、紫苑。
珍しい取り合わせである。
「僕のLv2スキルは『蒲の穂』です。
HPの範囲回復もできる回復技ですよ」
縁は大国主命のLv2のスキル『蒲の穂』。因幡の白兎の怪我を治した薬草である。
「私は『鹿児弓』周りの人にも使えるエンチャント系ですね。術を命中させる。要は追尾性能が付きます。燃費もいいので術師が活躍するシーンではお役に立てると思いますよ」
アンの建御名方神は術師のジョブと相性のいいスキルだったようである。
ケイ達も自分のスキルの情報を交換する。
ジオのLv2はボスが使っていたのと同じ『八意思兼』。やはりというか、敵の攻撃軌道などが表示されるスキルである。ただし強力な分、燃費はすごく悪い。
ケイが影助を伺う。Lv1の時にスキルが分からないのを気にしていたからである。
「いや、俺は今使ってるから。目立たないけど」
「どゆこと? バフ?」
「あれ」
影助が指さしたのは地平線の側の昼の白い月であった。
「……?」
「このスキル使うと、エリア内の敵が動かなくなるんだよ」
「え、瑞穂の祖神常時発動??」
「何かがぶつかったりすると動き出すけど、10秒ぐらい刺激が無ければまた静止するって事までは確認済み。ただデメリットがあってさ……」
と、影助が話を振ろうとした紫苑はジオと話していた。
「アンさんによると、そっち、だいぶ狩り残してるらしい」
アンの建御名方神の索敵のパッシブスキルである。
八人で一緒に歩きながら、アンが敵を見つけるのを見ている。
「どーりて敵に全然遭わないと思った」
八十禍がことごとく停止していた。
月読命Lv2のスキル。どうやらエリア全体の敵に行動不能の効果をかけるらしい。
ケイのスキルはマップ表示とともに周囲の敵を呼び寄せる。普段の八十禍は使うと我先にと向かってくるのだが、今回はそれが無かった。
猿田彦神Lv2のスキルの特性かと思っていたが、どうやら違うらしい。
「月読命のスキル。某ローグライクゲームの寝てる状態みたいですよね」
「八十禍、目は開いてるから寝てるわけじゃないと思うけど」
ドット絵時代のレトロゲーの話である。
「このスキル使うと敵が動かない代わりに夜になって視界が悪くなるんだ。それがデメリット」
「夜になるって何?」
「見るか?」
というわけで、まずは八人で一階層を探索する事になった。