31.ボス戦終了
ボス戦終了。三階層の森の中。
戦闘後に現れた緑の勾玉を鑑定した小春が言った。
「1エリア内限定で思兼神のスキルが使えるみたいだ。
あの躱されっぷりを見るとボス戦とかで重宝するかもね」
「はー、ボス倒すとエリア内全員がボスの勾玉もらえるのか……猪の時はもったいないことしたかな?」
「イノシシ?」
「これ」
ケイが小春に見せたのは赤い勾玉である。
嬉々として小春が鑑定スキルを使った。
「スキル名は大氷雨。範囲攻撃のスキルだ。
だけど使う時は自分もHPMP消耗する」
「マジか。でもこういう時に便利そう。八十禍一掃とか」
「なー、スキルもう解いていいか?」
声を上げたのは鉄人である。また小春に渡されたMP回復薬を口に運んでいる。
小春がケイを見た。
「どうなんだろ? 今解いたら残ってる八十禍に一斉に攻撃されたりしない?」
「んー、シキで見てくるか」
そんな会話をしていたら向こうの方から声がかかった。
「大体倒したので大丈夫ですよ」
白い巨大山羊である。赤裸裸が戻ってきた。
アンがその背後から顔を見せる。
「岩場に居たメンバーで協力して、周辺の敵は全て倒しました」
彼女のお墨付きなら大丈夫だろう。敵の居場所が分かるスキルである。
「へー……って何!? あの白いの」
ケイが森の向こうに居る白い塊を見て驚愕した。
「え? ああ、直毘神に囲まれてる縁さんですね。ボスエリアの無限湧きじゃない普通の八十禍も混じってたみたいです」
「ああ、なるほど」
縁のパッシブスキルの影響である。直毘神にとても好かれ、余分にアイテムとかがもらえるスキルである。
縁と一緒に岩山の上に居た忍者二人、ジオと紫苑も歩いてきている。
この一団でソライロと翡翠に合流する。これで今回の参加者全員である。
「お疲れー」
「がんばったなー、紫苑」
「……弱体化中にボス戦するとは思わなかった……もう一回死ぬかと思った」
げんなりしているのは幾山紫苑。
肩ぐらいの黒髪に口元が隠れるような大きな襟の真っ白な狩衣、裁付袴の様な黒のズボン。両脇に小振りの刀を二本。ジョブは忍者である。
全MPと引き換えに放つ天照大神の一撃必殺級スキルを目当てに引っ張り出された。
参戦時には、経験値ペナルティの影響で弱体化しておりレベル1。ただでさえ前衛の中では打たれ強くはない忍者。完全にガラス砲である。
当初の予定では皆でボスを囲んでMPを回復する間を与えずに削り切る方針であったが、ことごとく包囲を突破されたので紫苑が来た意味はあったと言える。
しかしLv1を連れての強行軍。しかも護衛は縁と鉄人の二人。
必然、三方向から来る攻撃に削られ、前衛の鉄人が無茶な迎撃をする。といった状況が繰り返され、辿りついたときには満身創痍だったわけである。
もう一人ぐらい徒士か騎士が居ればよかったのだが、あいにく都合がつかなかった。
「帰るかぁ」
ケイは頭上の緑の火を見上げた。
町への帰り道。緑火鳥居はすぐそこである。
町の記録映像閲覧エリアでレコード、ダンジョン内の映像を確認する。
町中に居たボス戦に関心のある人が集まってきていた。大体ジオ、鉄人、翡翠、ソライロ、赤裸裸の知り合いの様である。
個々人で手元の映像を見ているが、一方大画面も投影されている。
ケイ達がボスを見つけたところからである。
小春が町に戻り、縁、鉄人、紫苑にボスの階層を伝え、赤裸裸、アン、翡翠を連れて全員で三階層を集中的に捜索する方針である。
「なるほど、ボスの居る階層が分かれば早く合流できるかもって考えね」
「実際間に合ってるからな」
「ボスは放っておいて八十禍をスキルで停止させるのは思い切りましたね」
とにかく、今回のボス戦ではボス本体も厄介だが八十禍も同じぐらい厄介である。そのため八十禍の動きを封じた上でボスを削る事に重点が置かれている。
プランA。ソライロのスキルが効いてる範囲でボスを囲み、全員が合流するまで持久戦。
プランB。ソライロに八十禍を抑えてもらったうえでボスを追いかけまわし、鉄人達が合流するまで持久戦。
プランC。鉄人が間に合わないかソライロが落とされていた場合、残っている方のスキル内に引きこもってボスが来るのを待ち持久戦である。
次にボスのスキル表示が見えた時、反応が二手に分かれた。
「え? 何でスキル見えるの?」
「敵に鑑定使うとその同一禍にはずっと効果が乗るよ。全員ダンジョンを離脱しても残る。要はボス専用スキル」
「鑑定はアイテムにも使えるぞ。アイテム自体あまり種類ないけど」
ケイ達だけでなく、やはり鑑定の効果を知らない人も多かった様である。
次に声が上がったのはボスがジオの隠形を見抜いた場面である。
誰かがジオに話しかけている。
「ボスが使ってるスキル、どんな効果これ?」
「まだ持ってない。Lv2か3か……その辺のスキルじゃないか?」
その横で別の誰かが呟いていた。
「これ生木AIをメタAIと連携させたならかなり高等技術だぞ……中途半端な純和風よりそっちをアピールしろ……」
そして岩山から降りてきたボスの初撃をケイが止めたシーンである。
「どうやって分かったんです? これ?」
傍目から見ていたソライロにとっても謎であった。
「何か気配がしたのと、たまたま地面の影に気づいた」
「え!? 偶然なんですか?!」
「え、いや…………勘?」
感心していたソライロが複雑そうである。
「ああこれか。生木AIでは慣れててもやられるんだこれ」
「いや反応は間に合ってる」
「力負けしたのか」
ケイが吹っ飛ばされた場面である。生木AIは死角に入る。知っててもなかなか対処は難しいとのこと。
その後赤裸裸達が合流する辺りのシーンである。
「ジオ遅せーよ!」
「これは本当にすまなかった。ボスを追跡してたらスキル範囲外に誘導されて八十禍に奇襲食らったんだよ。普通に釣り出されて撒かれたんだな」
「ボスが見えなくなってから変な間があったと思ったらそんな事やってたのか……」
「これ翡翠さんとかが鉄人と一緒に行った方がよかったんじゃない?」
後発組のチーム分けについてである。たどり着けたとはいえ、鉄人達はかなり危なかった。
「いや、四人だと鹿毛坊に乗り切れないから共倒れだ。三人でも同じ。俺達も八十禍全部相手取ったわけじゃなくて基本ボスに着くまでは逃げの一手だ。逃げきれなくてああなったんだよ」
「どうメンバー入れ替えても赤裸裸さんと鉄人のポジションが入れ替わるぐらいで大勢に変化が無さそう」
一方の赤裸裸もコメントする。
「私たちはアンさんが索敵してくれるので不意打ちを食らうことが無かったんです。それで薬師さん達はこっちの方が安全かと思いまして」
では索敵の無かった鉄人達はというと。
「熊とか猪みたいな攻撃力と耐久力のある敵に三方向から挟まれて至近距離に来るまで気付けなかった時がまずかった。一方は俺が相手するとして、レベル1忍者だとどうしても接近されるまでに倒しきれなくてそこから崩されるってパターン」
「そっか、このゲーム、ボスエリアまで非戦闘員を連れていけるかどうかも重要なのか」
「俺はおまけみたいなもんだからな」
今回非戦闘員枠になっていた紫苑が不貞腐れるように言った。
「勝負決めたくせに何言ってんだ」