3.誰?ってなるやつ
エルフのプレイヤーはうなだれた。
金髪、青目、長い耳、緑のコート。
周囲の明るい森によく似合っている。紛うことなきエルフである。
強いて違和感を上げるとすればここが純和風VRMMOと銘打っている事だろうか。
「すいません。イメージ違いで……和風にしたかったんですけど……ランダムしたらこんな事に……」
「いや、それなら仕方なくない? 俺も人の事言えた恰好じゃないし、イメージと違うビジュアル用意してる運営が悪くない?」
うなだれるエルフを前に、スケボー少年ケイがわたわたと弁明する。
純和風VRMMOでランダムキャラメイクしてエルフになったならそれはそれでおかしい。
話を進めるため、サラリーマンのジオが場を仕切る。
「あんまり気にしないでいいと思いますよ。私は辰乃ジオで忍者。
こちらは渡良瀬ケイで騎獣型式神使いです。
縁さんは?」
「はい! 愛生縁です! 術師です!」
「そこまでいったら愛生絵央とか狙った方がよかったんじゃないの?」
「えうっ!? ……それが……縁っていう名前の苗字、ほとんど空いてなくて……慌ててまだ使われてなかった愛生姓を……不可抗力なんです……」
「縁さんに変に絡まないの。そういうお前はおおかた降順にして選んだんだろ? どうせ式神使いなら安倍とか土御門とかとればよかったじゃん」
苗字で能力補正が入るという都市伝説である。海外ゲームだとペンドラゴンとかが人気。
「ところで二人はどの神様の氏子さんですか?」
ジオの質問にきょとんとする二人。
「うじこってなに?」
「氏子ですか??」
当惑する二人を見て、ジオが説明を足した。
「えーと、最初に一つ、ランダムで神様の加護をもらえるんです。
公式じゃないんですけど、アルファテスターさん達が氏神氏子って呼ぶようになって半定着していまして」
「なるほど、それで氏子ですか」
「なぁなぁ、うじがみうじこってなに? はちのこの仲間?」
縁が納得の反面、ケイは混乱気味である。
「簡単に言うと、日本では生まれた場所によって担当の神様が居て、守ってくれんの。それが氏神様、守られる俺達住人が氏子。
大昔は一族のご先祖の神様と子孫って形だったけど、今は土地を加護してる神様と住人のこと。この守り神は産土神とか鎮守神って呼ばれたりするみたいだ」
「それってゲームの設定?」
「一応現代日本に実在する設定だが??」
「え!? 何それ知らない……」
ジオは縁に説明を始める。
「神様によって使えるスキルが違うんですが、キャラメイク終わった後にランダムで振られるんです」
それを聞いてケイもゲームの話に戻ってきた。
「そのまま実装したらリセットマラソン必須じゃん」
「だからそのうち神様の選択や追加などができるようになるって言われてるよ。恐らく現状ベータテスト段階では偏りを避けるために運営が振り分けてる」
ベータテスト。別名人柱版である。
「神様ってアマテラスとかスサノオとか?」
「それはもう何人か居る。どうやらアクティブなプレイヤー同士はできるだけ被らないようにしてるっぽい」
「担当の神様、どこ見ると分かんの?」
「ステータス表示の下の方」
ケイがステータス画面を開き、言われたところに視線を落とす。名前は読めるが読めない。
「……誰?」
「猿田彦神。天孫降臨の時に地上に先導をした神様だな。道しるべの神様とされる。鼻が長いって説があるんで天狗の原型とも言われてる」
「ええ~」
「文句言うなよ。しかし珍しいな」
「珍しいの?」
「今まで出た神様はもっと神話の最初の方に出てくる神様が多かった。
だから天孫降臨以降は実装されないんじゃないかと言われてた。出て来てもお助けキャラとか敵とか」
「ところで天孫って何?」
「地上に降りて天皇家の元になった神様」
「天皇家のご先祖ってアマテラスじゃなかったの?」
「瓊瓊杵尊。天照大神の孫。だから天孫。このゲームには出てこないな」
ジオはステータス画面を開いていた縁に話を振る。
「縁さんは?」
「僕は大国主命だそうです」
「誰……? ていうか縁さん僕っ娘?」
「えう!?」
「縁さんにいちいち絡まないの。大国主命は因幡の白兎を助けた神様」
「ああ分かった。鮫にかじられた兎。ちなみにジオは?」
「思金神」
「……誰……?」
「有名な所では天岩戸を開ける作戦を立てた神様だ。智恵の神様だな」
「天岩戸ってアマテラスが引きこもったとこだよな? 俺が分かるのそれぐらいだぞ」
「正直、それぐらいの知識の人が来ても楽しめるかどうか確認したかった」
生贄である。
「それなら外国の人の方がいいだろ」
「外国の人だと引っかかる原因が翻訳による誤解か、文化の違いか、知識の有無かが切り分けにくいんだよ。こういうのにアンテナ立ててる人って日本人より詳しかったりするし……。
そもそも俺も昔に古事記の解説書読んだとかちょっと日本神話調べたぐらいだし」
「俺はそれすらよく知らないんだけど……」
その辺の引っかかる部分の確認のためのベータテスターである。
「じゃあ、チュートリアルも未実装なんで、何ができるか確認するために、練習場に行ってみましょうか」
ジオの先導で三人が歩き出す。
忍者のジオと、小柄ながらスピードに振っているのか、縁は足が速い。若干遅れたケイがボードに乗る。
「ちょっと待てちょっと待てケイ速い」
式神の速さに追いつけず、途端にジオが全力疾走、縁が遅れ気味になった。
「キャラのスピードに差ありすぎじゃね?」
「確かに街中は同じ速度でいいよな。改善提案出しておくか」
「街中で戦闘システムが適用されてるって事は、防衛戦とか想定してるんでしょうか?」
「縁さん、メタな先読みは製作がかわいそうですよ」
「AIに任せたら全エリアそのままの仕様で実装しただけじゃね?」
兎にも角にも、練習場に向かう。