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29.対思兼神戦 狙い

「うわわわわ!」

小春こはるさん、もう少し下がって!」


 ボスが小春こはるに打ちかかるが、アンが術で妨害する。


 ボス包囲網の中で、薬師の小春こはると式神使いのケイ、術師のアンは後衛である。その中でも攻撃手段のない小春こはるは明確な穴であった。

 積極的に狙われるのも仕方ないと言える。


「爆弾投げちゃダメか?!」


 小春こはるがボス挟んで反対方向に居たケイに嘆く。


「今使われたらボス見失うからやめてくれ」


 味方への当たり判定はないがエフェクトで何も見えなくなる。


 一方、反対方向のケイはMPダメージで行動制限が発生して動きが鈍っているため、標的にならなかったことに少しほっとしていた。


 今も小春こはるは周囲に援護してもらいつつ、鑑定スキルを発動している。


「ボスのMP、もうすぐ50%切ります! みんな頑張れ!」


 ボスもHPかMPを一定以上消耗すれば行動制限がかかり、動きが鈍るはずである。


 息を吐いてケイが周りを見る。と、まずい事に気付いた。恐らく同じ事に気付いた小春こはるとジオとほぼ同時に声を上げる。


鉄人てつと!!」

「回復!」


 小春こはるがMP回復薬を投げようと振りかぶったのは間に合わなかった。

 その瞬間にボスが動いたのである。

 狙いはケイの隣に居た鉄人てつと、さっきまでは反応できたボスの突きがもろに入る。

 鉄人てつとのHPが大きく削れ、吹き飛ばされた。


 八十禍やそまがつの動きを封じるために使っていたスキルによってMPが消耗。鉄人てつとに行動制限が発生していたのである。

 鉄人てつとは騎士。MPが後衛ほど多くない。

 反対方向に居る小春こはるに攻撃が集中したため、皆の注意がそちらに向いていた。逆方向に居た味方のMPから注意がそがれていたのである。


 発動地点から大きくずれ、スキルがキャンセルされてしまう。これだけ味方が密集している所に周囲の八十禍やそまがつが押し寄せたら対応しきれない。


「ぐっ! 『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす!』」


伊邪那岐命いざなぎのみこと   瑞穂みずほ祖神おやがみ


 鉄人てつとが着地と同時にスキルを掛け直した。しかし包囲に穴が開く。


 ボスが鉄人てつとに追い打ちを掛けようとした時、ケイの護符型式神が割って入る。

 しかし手痛く弾かれ、MPダメージで立てなくなったケイが倒れた。

 ボスはそのまま包囲を脱出する。


「追ってくれ! あっちに行かれるとえにしさんたちと鉢合わせする!」

「了解です! アンさん! 追えますか!」

「はい!」


 赤裸裸せきららがすかさず豪登ごうとを引く。


小春こはるさん! 二人を回復してもらえますか?!」

「合点承知の助! 回復薬の数少ないからケイは後回しな!」

「お前いつの時代の人だよ!?」


 ケイがMP切れで倒れている一方、今もスキル維持でMPが削れている鉄人てつと

 鉄人てつとのMPが尽きるとスキルで止めている八十禍やそまがつが動き出してしまう。小春こはるの判断は極めて早かった。


 赤裸裸せきらら達はボスを追っていった。



「うわ、改めて見るとMP消費やべぇ」


 回復薬でどうにか立ち上がれた鉄人てつとがぼやく。


「MPが少なくなると回復量が減る。消費量に追いつけなくなって当たり前だ。これ戻すの大変だぞ。

 今のうちに回復アイテム採取してくる! スキル維持しててくれよな!」


 小春こはるが走って行った。

 薬師のスキルでダンジョン内で採取が可能である。


 鉄人てつとが少し遠くで倒れたままのケイを見た。


「すまん、ボスの動きに集中してて消耗に気付かんかった」


 VRではHPMPの表示非表示を切り替えたり、左手首や二の腕、胸ポケットの辺りに表示する設定にしている人は多い。

 常時表示形式だと眼鏡の端にシールが貼ってあるような感じと聞けば大体納得してもらえる。気になる人はすごく気になる。特に前衛は嫌う人が多い。


「……ケイは大丈夫か?」

「俺はやる事ないからのんびり時間回復するよ」


 ケイは這って少し体を起こした。アンの術攻撃の軌道を見て呟く。


「だいぶ方向がずれてるな、ボスはえにしさん達を狙ったんじゃないのか?」

「分からないぞ。他の生木AIと戦った事ないけど、知恵の神様なせいか結構思いがけない事してくる」


 向こうに居るのはソライロ、翡翠ひすいえにし紫苑しおん。いずれも後衛か経験値ペナルティ中である。接近戦を挑まれたら一気に危険になる。


「お待たせ~」


 小春こはるが採取した回復アイテムを携えて戻ってきた。


「……枝が足り無い!」


 小春がウェストポーチを探っていて愕然としていた。


「枝なら持ってるぞ……」


 ケイが立ち上がれないまま背中のウェストポーチを探った。過去にダンジョンに入った時にえにしが回収したドロップ品である。


 MP回復薬を作りながら小春こはるが軽口を叩く。


「いやぁ、案外向こうから近づいてくれた方が紫苑しおんも当てやすいんじゃない?」

「現状ガラス砲だから近づかれたら死ぬんだが」


「……大丈夫かなぁ」


 MPが自動回復してきたケイが、もそもそと座り直してえにし達が居るはずの方向を見た。


 ガラス砲。高火力紙装甲の通称である。


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