25.ボス戦 奇襲
「鬼型大禍津日神。
思兼神荒魂!」
ボスに崩彦神の鑑定スキルを発動し、小春が叫んだ。
「やっぱりか! 小春さん! 作戦通り、緑火鳥居でみんな呼んできて!」
「了解! ……あ! ここ何階層だっけ!?」
「三階! 三階!」
「緑火の数で何階か分かるようになってるから!」
現在クローズドベータテスト中。新作純和風( )VRMMO。
ボス戦である。
このゲームの荒魂とは、災害や戦争に関わる神様の力の一端である。
それを大禍津日神という形にして発散してもらうという設定である。
今回のボスはおそらくスキルを使ってプレイヤーの攻撃をことごとく躱すため、出来るだけ大勢で囲んでMPを消耗させるなりミスを待つなりする作戦である。
ボスは階層やエリアをまたいで移動するため、ボスの居場所を捕捉するために地図系のスキルのあるケイ達が走り回っていたところである。
見つけたボスはやはり鬼の姿をしていた。真っ白で四角いのっぺらぼうのような蔵面に二本の角。全体的に白っぽく、袖なしの狩衣と黒の裁付といった風な動きやすい東洋風の服装をして、身長ぐらいある白木の様にシンプルな細長い杖を持っていた。
レコードで見た姿。以前ケイ達がやられたときに、チラッと見えた姿である。
パーティーは最大四人一組。
小春が緑火鳥居で町に戻り、別のパーティーを連れて三階層に戻って来る手筈だが、どのエリアに来るかはランダムである。
そこから合流するまでケイ達は粘る必要が出てくる。
「ボス見つけるまでに、想像以上にアイテム消費しちゃいましたね……」
「これでダメだったらもう少し頭数揃えるしかないな」
今のパーティーは、ケイ、ジオ、ソライロ、小春。
小春とジオはケイ達から離れていく。小春は町に待機しているメンバーと合流。この階層に集合を掛ける。ジオは小春が緑火鳥居に着くまでの補助である。
二人が十分離れたのを見ると、ケイはスキルを発動した。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【猿田彦神 道標】
目立つ火の玉が上空に輝いた。ボスがケイの方に気付いた様子を見せる。
ケイのスキルはマップ情報の表示だが、挑発系のスキルでもある。何より目立つ。
ジオはケイのスキルで緑火の位置を確認すると、素早く小春を伴って緑火鳥居に向かって移動を始めた。
ケイとソライロがまとまって大きく移動しながら、八十禍を引き付ける。
その時、不意にスキルが表示された。
【思兼神 思兼神に思はしめ】
「ジオか?」
「囲まれないように予防ですかね」
ケイが引き付けているとはいえ、接近されれば戦闘になることもある。
軽く会話しながら、ケイとソライロは騎獣に乗って森の中を駆ける。
八十禍の張った蜘蛛の巣の妨害を防ぐため、器物型式神で前方を切る事も忘れない。
ある程度八十禍を引き付けたところで、ソライロがスキルを使う。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【伊邪那美命 瑞穂の祖神】
プレイヤーの考察によると、恐らく神生みで生まれた風木山野の四神あたりをモチーフにした能力。
敵にだけ感じる地震。草木がざわめいて尖り、強風が吹く。八十禍は飛ばされないように体を低くして耐えている、動くことはできない。
スキル使用者を中心にした広範囲の足止め効果。
ただし、このスキルを使ってる間、本人も動けない。スキル使用地点を中心に直径約1メートル、足元に円周状に現れる風のエフェクトの外に出ると効果がキャンセルされる。
そしてスキルがキャンセルされた瞬間、効果範囲内に居た八十禍が一斉にスキルの発生場所に殺到してくる。
スキル使用者が直接ターゲットにされるわけではないが、一か所に八十禍が押し寄せてくるのでかなり危険である。
ボス戦に使うには使い所を選ぶスキルであった。
「ボスはどうだ?」
「まだこっちには来ないみたいです。様子を見てるのかな?」
大禍はスキルの効果範囲に居るはずなのだが、岩の上で平然としていた。動きを止めるスキル効果が働いている様子はない。むしろケイ達が囮なのを疑ってか、緩く周囲をうかがっている。
「やっぱりボスにはこのスキルは無効ですね」
「九字も効かないんだっけ?」
「足止めアイテムもほとんど効きませんでした。一瞬の足止めはできるんですけど、振り払って解除されちゃいます」
「まぁ運営としてはボスが行動不能のまま完封されても困るからな。
じゃあ俺は周囲の敵を削ってく」
「気を付けてくださいね。瑞穂の祖神で止まってる敵は移動不能なだけで至近距離に近づいたら噛んだり引っかいたりできますよ」
「え、そうなの? まぁ気を付けるけど」
ケイと会話を交わしながら、ソライロは大禍の動きを見張っている。
ケイがスキル『道標』でターゲットをとり、囲まれた所でソライロが『瑞穂の祖神』で足止めする。
ジオが隠形スキルで奇襲をかける予定である。
【思兼神 八意思兼】
「!?」
「スキル!? ジオのじゃないぞ!」
「何で敵のスキルが?
今まで使ってなかったわけじゃないでしょうに……」
一瞬の沈黙の後、二人は結論が一致した。
「崩彦神の鑑定スキル!」
恐らく、ボスの名前が分かるだけでなく、ボスの使用スキル名が表示されるようになるのである。
動きがあった。
岩の上のボスが何もない所に杖を振ると、その先でジオが刀で杖を受け止めていた。
奇襲失敗である。
「くそ、やっぱりだめか」
思わずケイが声に出す。
今回の大禍は隠形スキルで奇襲ができる。
というのが結論だったが、問題は正体不明だった荒魂のスキルである。
荒魂の候補に入っていた思兼神は、他ならぬジオが使っているスキルである。
ジオのレベル1のスキルでは敵のターゲットや敵味方に強化、弱体化が掛かっているか、などが分かるらしい。
恐らくそれの上位版である。
傾向から言ってエリア内のデータを取得するスキルだとしたら、目視とは別に攻撃を察知するスキルを持っているのでは? という懸念があった。
嫌な方に的中したわけである。




