21.日本神話解説RTA(約20分)
「じゃあ造化三神から天孫降臨まで日本神話解説リアルタイムアタックいってみるか。
俺も専門家じゃないから、ほぼ解説書の又聞き知識だ。説明に都合のいい所だけ喋る。興味があったら調べてくれ」
というわけで、ゲームからログアウト後、自室のVRチャットで日本神話解説リアルタイムアタックである。
周辺に大量の資料を開いてある。あの神様、名前なんだっけ、とかが割とよくあるのである。
「最初に天之御仲主、高御産巣日神、神産巣日神が順に生まれたとされる。造化三神と呼ばれる三柱だ」
「いきなり知らん神様が……」
「高御産巣日神は要さんの神様だ」
「ああ、還矢の……ていうか天照が最初じゃないんだ……」
その後にも二柱の神様が出て来くる。この最初の五柱は特別らしく、別天津神と呼ばれる。
「何で特別かは知らない」
「知らないんだ……」
あまり頼りにならなそうな解説者である。
「この辺、古事記と日本書紀で神様の出てくる順とか出てくる神様の名前とか全然違うんだ」
「古事記と日本書紀って何? 何か違うの?」
「どっちも神話の時代からの歴史を書いた本らしい。
解説本で読んだ話だと、古事記は物語としてまとまってる本で、日本書紀は諸説あるやつも、「一説によると」ってまとめて載せてる。
古事記は国内向けの本で、日本書紀は国外向けの歴史書って説がある。
一方で古事記は編纂の経緯がやや不明で偽書って説もあるらしいんだけど、全面的に間違いって事も無いからとりあえずこれを中心に話す」
「登場する神様が不明とかいきなりふわふわなのか」
「実際最初は神様達が出ては消えしてるっぽい描写があるからふわふわしてるのかも。
個人的には中国の三皇五帝とかインド神話のトリムルティとかに影響されてるのかなと思うけどその辺は知らん。中国の淮南子っていう本の影響があるっていうのはよく言われてる。
この辺は諸説あるやつを紹介してもきりないんで古事記準拠で説明する」
「別天津神の後の神は大抵男女対で生まれてくる。ここも諸説あるけど古事記では男女別々に生まれた二神と男女対で五組計十神あわせて十二柱。その末っ子が伊邪那岐命と伊邪那美命とされる。
この伊邪那岐伊邪那美が大体日本を作った」
「あ、聞いたことある名前出てきた。ほかの神様は何したの?」
「ほとんど記述が無いんだなこれが。名前から推測されたりしてるけど。伊邪那岐伊弉冉に色々指示や助言をしたりはしてるっぽい描写はある。
伊邪那岐伊邪那美は地上を作って安定させる仕事を任される。日本の島や神様はこの時に二神が生んだ神様達とされる。
ドロドロだった海を矛でかき混ぜたら島ができて、島で結婚式上げる。
国生みとか神生みって呼ばれてるくだりだな」
「あー……何か聞いたような気もする……」
天浮橋、天沼矛、淤能碁呂嶋 、蛭子神などの名前が出てくるのはこの辺りである。
「蛭子神は伊邪那岐伊邪那美の第一子なんだけど、流産とも奇形児とも言われてる。その原因が結婚式でお互いを呼び合うときに伊邪那美から声をかけたからって言われてるんだ。
だから日本の恋愛ものでは告白は男からするのが様式美って外国の人に冗談飛ばした事がある」
「絶対関係ないだろ。本気にしちゃったらどうすんだよ」
「そんな感じで色々ありながらも進んでいた国生みだが、火の神を産んだ時の火傷がもとで、伊邪那美は死んでしまう。
伊邪那岐は伊邪那美を連れ戻すために黄泉の国、死者の国へ旅立つ」
「あ、その辺はなんかうっすら聞いたことある」
「伊邪那岐は黄泉の国で伊邪那美に会う事ができた。
しかし伊邪那美は死者の国の食事、黄泉戸喫を済ませてしまい、元の世界に帰れなくなったと言うんだ。
黄泉の神に相談する、けして見に来てはいけない、と言い置いて立ち去る」
「黄泉にも神様居るの?? 伊邪那美が生んだんじゃないの?? どっからきたの??」
「知らん。その辺の詳細は語られてないはず。この辺は日本書紀ではもう寝るからって去ってくとか、喧嘩になるとか、色々だったはず。
とにかく待ち切れなくなった伊邪那岐は櫛に小さな火を灯して、伊邪那美を探しに向かってしまう。
伊邪那岐は、見てはいけないと言われた伊邪那美の姿を見てしまった事で、伊邪那美を含めた黄泉軍、黄泉の軍団に追われることになる。
この時に、逃げる伊邪那岐を助けたのが、身に着けていた蔓植物の飾り、竹の飾り、そして黄泉との境目に生えている桃の実。
黄泉の軍勢に投げると食べ物になって気を逸らせたり、実がぶつかって逃げていったりしてる」
「素材兼足止めアイテムの葡萄と竹と桃はここか……っていうか黄泉の軍勢って腹減るの……」
「伊邪那岐は大岩で黄泉との境を築き、伊邪那美に別れを告げる。
この時、黄泉の国の伊邪那美は一日に千人を殺してやると宣言し、伊邪那岐は一日に千五百人生まれるようにすると宣言して別れるんだ。
そして黄泉の国から帰った伊邪那岐が水に浸かり、禊をした時に生まれたのが天照大神、月読命、須佐之男命の三貴子だ」
「その有名な神様達ってここなんだ」
「この禊の時に禍津日神と直毘神も生まれている。
他にも旅装束や水から、穢れを防ぐ神や煩いの神なども生まれている」
「禍津日神と直毘神はゲームに出てくるやつだよな?」
この神様達にも諸説あるが、とりあえずゲーム中では敵として襲撃してくる神様と戦闘後にアイテムくれる神様である。
「伊邪那岐は、天照大神に高天原。
月読命に夜の食国。
須佐之男命に海原を担当するように指示する。
資料によっては月読命と須佐之男命は担当が逆の事もある」
「夜の食国ってなに? どこ?」
「議論はあるけどほぼ完全に謎らしい、ここにしか出てこない」
「まじか、月読が海ってのは? 深海とか?」
「月読の名から月齢を司る暦の神っていう説があって、月と潮汐との関係から海の担当だという説があるらしい」
「月読命のパッシブスキル、経験値ペナルティ無効ってその暦の神って所から?」
「月読、本当にこれ以外の情報が無いんだけど、三貴子の一人で強キャラっぽいから闇系とか時間操作系とかつけられがちなんだよね」
「マジで出番これで終わりなの!?」
古事記においてはマジである。
「で、素戔嗚は根の国に居る伊邪那美に会いたいと泣き続け、辺りは災害に見舞われ、伊邪那岐に追い出される。
根の国に行く前に天照に挨拶しようと高天原に向かった素戔嗚に対し、侵略に来たと思った天照は完全武装で構える」
「なぜに」
「素戔嗚が高天原に向かうのに地震が起こったらしい描写がある。だから素戔嗚巨人説とかもあるらしい。とにかくそれが攻撃とみなされたみたいだ」
「力強すぎるのか」
「一方、日本書紀の一説では素戔嗚は悪い奴みたいな書かれ方してる。インドシナのミャンマーやラオスの辺りに『月と太陽と悪い弟』って感じの神話があるらしい、その悪い弟のせいで日食や月食が起こるとされている。その辺から影響があるのかも」
「えー、古代にそんな遠くから影響あるのか? ちょっと信じがたいんだけど……」
「素戔嗚は自分に邪心が無い事を示すために誓約を提案した。
お互いの持ち物から神を産みだして勝ち負けを決めようとしたんだ。
誓約ってのは……『神様の占いは絶対』みたいなルールがあって……すごい雑に言うと、何だろ? プログラムの条件分岐みたいな動きをする?」
強いて言うなら「1の目が出たら嘘ついてない」と言って神がサイコロを振って1の目が出ると本当に嘘ついてないという調子である。
どちらかというと量子テレポテーションなどの考え方に近いかもしれない。一方が決まるともう一方も確定してしまうやつである。
「天照の持っていた飾りから素戔嗚が生み出したのが勝利の男神五柱。
一方、素戔嗚の剣から天照が生んだ女神が3柱。
天照は男神達を自分の子、女神達を素戔嗚の子とした」
「……ちょっと待って? 素戔嗚が勝利の神作ったのに天照の子なの?」
「天照の持ち物から出てきたんだから、神様の元となる物実……材料?気?を提供したのは天照ってなるんだそうな。
天皇家が男系で続いてるのはこの考えもあるらしいんだ。産んだ人じゃなくて元を提供した方が親ってことらしい」
「…………あー……はいはいなるほどね……。
……てことは今、生殖医療とかで女性の細胞から精子を作るのも可能になりつつあるけどさ、じゃあ仮に皇族の女性の精子細胞で生まれた子はどうなんの?」
「知らん。文化や伝統と技術の折り合いつけるのは詳しい人に任せた方がいいんじゃね? 何か他にも色々ルールあるみたいだし。
そもそもこの神話のエピソードだって、資料によってルールや勝利条件とか詳細が違ってて、アイテム交換無しとか、男の子が生まれた方が勝ちねってルールで勝負したとか、そもそも勝負してないとか色々な説があるみたいだ」
「あ、別にこの神話のエピソードだけで決まってるわけじゃないんだ」
「こういう話してると女系天皇と女性天皇を混同してる人が更に混乱するんだけど」
「俺、その二つが違うって事も知らないんだけど」
「え……軽く説明しとくか、俺もあんま詳しくないけど。
まず、女性天皇は過去に普通に登場してる。
推古天皇とか、あと最近だと後桜町天皇が中継ぎで入ったけどバトンタッチするはずだった後桃園天皇の容体が悪化して光格天皇が後桃園天皇の養子に入ってって経緯だったはずだし」
「誰が誰だかわかんない」
「推古天皇は聖徳太子の時代の人で、女性だ。
光格天皇は明治天皇のひいおじいさん。小さい頃の光格天皇の面倒を見てたのが後桜町天皇っていう女性の天皇だ。
後桜町天皇は先帝が若くして亡くなっちゃって幼帝が育つまで中継ぎしてたんだけど、その幼帝である後桃園天皇も病気がちで、崩御の直前に宮家、要するに天皇家の血筋の親戚から後桃園天皇の養子をとることになった。それが光格天皇って経緯のはず。
あとは……。
天皇の名は付いてないし色々置いておくけど、古事記の中にも女性の王様は居る。
雄略天皇の大粛清のあおりで中継ぎ的に立った飯豊皇女とか。
夫である仲哀天皇の急な崩御を引き継いだ開化天皇のひ孫でもある神功皇后とかが居る。
だから大昔から女性の王様、女性天皇はちょくちょく居る。それと継承ルールを変える女系天皇の議論は全く別のもの。
まぁこの辺はちょっと聞いただけだと分かりづらいよな。海外では皇族のこと天然記念物かなんかだと思ってそうな人居るし」
「でも実際皇族って少ないよね?」
「お前もかい。源平合戦とか血筋を辿ったらどこに行きつくと思ってたんだよ。
臣籍降下っていって、部下になるとか、あとお坊さんになるとかして継承権を放棄して、なるべく後継者争いとかしないように大昔からルールがあんの。何かあった時に皇族に復帰するルールとかも色々あんの」
「源氏と平氏が何なのか今知った」
「実は平氏の血筋に関しては平家物語の冒頭に書いてあったりする。
『風の前の塵に同じ』のちょっと後、『その先祖を尋ぬれば』からざっとまとまってる」
「『祇園精舎の鐘の音』から『風の前の塵に同じ』までしか知らねぇ~」
「で、日本神話に話を戻すと、この誓約で素戔嗚は「女の子が生まれたのは自分に邪心が無かったから、実質勝利」って主張する」
「それ後から何でも言えない?」
「うん……普通は誓約って先に条件決めるんだ……」
「何か聞いてて不安になってきたぞ。天照、大丈夫? 何か言いくるめられてない?」
「そんな感じで高天原に入った素戔嗚は田んぼに穴開けたり収穫祭の祭壇にウンコまき散らしたり好き放題する。
その度に天照は庇ったけど、悪さは度を越して行った。
ある日、素戔嗚は機織りをしてる小屋に皮を剥いだ馬を放り込んだ。驚いた機織りの女性が一人、折り機の杼に刺さって死んだ。これが忌服屋の事件」
「杼って何だっけ?」
「織物する時に左右に動かしてる細長い糸巻きみたいなやつ。横糸が巻かれてて、これを縦糸の間にくぐらせることで布になるわけだ。
こうした素戔嗚の悪さに耐え切れなくなった天照が籠ったのが天岩戸。太陽神である天照が籠った事で世界から光が無くなって神々は困った。これが有名な岩戸隠れ」
「あー確かに聞いたことある。詳細は知らなかったけど」
「この解決のために宴会を開いて天照の注意を引き、岩屋戸から引っ張り出す作戦が練られた。
思金神が発案者で、鏡を作る神様達、飾りを作る神様達、祭祀を担当する神様達などが集められた。
踊って場を盛り上げて天照の注意を引くのが天宇受売命。注意を引いた後、岩戸を力づくでどうにかする役が天之手力男。
手力男と宇受売は実装されてたはず。有名だし、役割が割と明確だし」
「どんなスキル?」
「俺はまだ会った事ない。推測するに力の上昇と強化かな?
で、神々が鶏を鳴かせ、踊りを見て盛り上がると、訝しんだ天照は岩戸の外の様子を見ようと少し戸を開けた。
天照自身の光が賢木に掲げられた鏡と宝石を照らして輝いた。そして天宇受売命の立派な神が来たという言葉を聞いてそういう神様が現れたと思い込んだ天照はその神の顔を見ようと戸をもう少し開けた。
そこを狙って力づくで岩戸を押し開け、岩戸の外に引き出す事に成功した。と言われている」
「ドンチャン騒いで注意を引いたみたいな話は聞いたけど、割と最後は力技だった」
筋肉が大体全てを解決する。
「神々は協力して素戔嗚を罰し、追放した。
古事記ではこの後で素戔嗚が大気津比売という女神を殺すエピソードが入る」
「追放されたそばから、それ?」
「ハイヌウェレ型神話っていって、海外にも似た神話があるんだってさ。
ハイヌウェレはインドネシアの芋の起源とされる神様らしい」
「今度はインドネシアか」
「ウンコの代わりに宝物を排便するハイヌウェレという女神が殺される。すると死体が芋になって、現代に伝わる芋の起源になってるっていう話。
日本神話では大気津比売は食料を吐き出したり排泄したりする力を持ってる。
素戔嗚は汚した食べ物を渡してきたと誤解して殺す。するとそこから五穀が生えて来て穀物の起源となる、って話」
「ちょい待ち、素戔嗚、さっき田んぼ壊してなかった?」
「その矛盾はちょくちょく言われてる。そして日本書紀ではこのエピソードは素戔嗚が高天原に来る前の話になってる。
月読が地上を見に行ったとき、食物を吐き出す女神を気持ち悪がって殺したんだ。それで月読は天照にめっちゃ怒られる。後に女神の死体から作物が生えているのが見つかって五穀の元となる。時系列的にはそっちのが自然ではあるな」
「……月読ろくなエピソード無いのかわいそう」
「高天原を追い出された素戔嗚は八岐大蛇を退治する。
八岐大蛇に狙われていた櫛名田比売を助けて妻にし、八岐大蛇から出てきた草薙剣を天照に献上する」
「その辺はうっすら聞いた事ある。高天原のやらかし何だったの?ってぐらいに英雄してるな」
「ちなみに日本書紀にはこの高天原から落ち延びる時に素戔嗚は蓑笠を被っていて神々から家に上がるのを断られたという逸話があり、蓑笠を着けたまま家に上がるのはマナー違反ということが併記されている。
そのため日本では今でも目元を隠すのを忌避する気持ちが残っていて、サングラスはNG寄りでマスクや忍者はセーフ。と、外国の人に冗談を飛ばしたことがある」
「また嘘教えてる……確かにサングラスとマスクの違和感の違いは自分でもよく分かんないけど、多分生活習慣なんだよな」
「向こうは我が意を得たりって神妙な顔して納得してくれるんだけど」
「ぜってー関係ないから! 俺今日初めて聞いたからね素戔嗚と笠の話! 外国の人を騙すな」
「そこから時代はちょっと下って、その素戔嗚の子孫の大国主命の話が始まる。
大国主命は、不遇スタート他力本願型チーレム主人公の元祖」
「ああ、縁さんの。素戔嗚の子孫だったのか」
「大国主命は兄たちに嫉妬され、不遇な扱いを受けて殺されかけるも神産巣日神によって蘇生される」
「何かおむすびみたいな名前の神様急に出てきた?」
「神産巣日神。最初に出てきた造化三神の一柱」
「え、そうだっけ……? そうなの?」
「大国主は周囲から助言を受けて兄達から逃げ、素戔嗚の居る根の国に逃げのびる」
「根の国って死後の世界なんじゃないの?」
「そうなんだよな。根の国の設定、ちょっと固まってないっぽいよな。大国主は復活できて伊邪那美が復活できなかったの何で? みたいになるし」
「黄泉戸喫しなかったら住んでてもセーフみたいな設定なのかな?」
「そういう謎もあって「実は根の堅洲国と黄泉の国って近所だけど別物なんじゃないの?」って説もあったりするらしい」
「因幡の白兎っていつ出てくるの?」
「最初最初、不遇時代の大国主が兄たちの尻拭いしてたエピソード。
大国主の兄達が美人って名高い八上比売っていう人に求婚に行く。大国主は荷物持ちとしてついて行った。
知ってると思うけど、因幡の白兎はサメをだまして海を渡ったものの、サメに毛皮を剥がれて苦しんでいた。兄たちは意地悪して兎の怪我を悪化させる。大国主はその後に通りかかって、ちゃんとした治療をしてあげる話。
ちなみに、因幡の白兎みたいに水に住む生き物の数を数えるふりして水を越える話は世界中にあるそうだ」
類似の伝承はアジアやロシアのみならず、遠くアフリカにもあるらしい。その中には騙したワニにかじられたため兎の尻尾が短い、という話などもあるという。
「さて、根の国に逃げた大国主は根の国で素戔嗚の娘、須勢理姫に一目惚れ、二人は両思いになる。
大国主は須勢理姫の協力で素戔嗚の試練を成し遂げる」
「何で逃げて来たのに試練受けてんの? 修行パート?」
「知らん。修行パートは言いえて妙だな。その後、大国主は兄達に圧勝したっぽいし。
とにかく須佐之男命の試練をくぐり抜けた大国主は須勢理姫を連れ、強力な武器と道具を手に入れて素戔嗚の下から逃げる事に成功する」
「逃げ……え?」
「毒虫のいる部屋に泊まらされたり焼き殺されかけたりといった修行パートを終わらせて、素戔嗚が寝てる隙に逃げた。
特定の禍避けアイテム、なんちゃらの比礼はこの辺のエピソードが由来だろう。毒虫の部屋に入るときに須勢理姫がくれたアイテムなんだ」
「あー、何かお店で聞いたなその話」
「その後の大国主は兄達を退け、方々からお嫁さんを娶って素戔嗚の娘、須勢理姫の嫉妬を受ける」
「チーレム呼ばわりしてたのこの辺か。その奥さん、八岐大蛇倒した神様の娘だよね?? そこでハーレムって、大国主、勇者か?」
「このあとも大国主は少名毘古那などの他の神様達の力を借りながら国づくりを続ける」
「他力本願型チーレム言ってたけど、もしかして少名毘古那はめちゃくちゃ有能な女の子だったりすんの?」
「いや、いわゆる有能系マスコット。一説によると畑を害虫から守れるし酒造や製薬もできる。温泉を発見したり引いて来たりって話も多い」
「農業したり薬作ったり温泉引いたりって異世界でやる現代知識チートテンプレじゃん……少名毘古那、スライムか何か?」
「小人の姿の神様だ」
「小人の有能系マスコット……あ、カカシの神様が名前当てたっていう、ちっちゃい神様か」
「少名毘古那はその後急に退場しちゃうんだよな。常世国、つまりあの世に行ったって説もあるけど」
「万能キャラ居ると話が終わっちゃうから退場させられる説」
「そんなメタ的な理由の退場なのかは不明だけど、この後も色々起こりはするな。
一方その頃、高天原は大国主の葦原中つ国に支配者を派遣することにした」
「支配者って唐突な」
「高天原は何人か交渉の使者を送ったけど帰ってこない。大国主が懐柔したからだ。
その後、高天原はメッセンジャーの雉を送った。懐柔された高天原の使いの一人、天若日子はその雉を射殺する。その射上げた矢は高天原にも届いた。
高御産巣日神は天若日子に渡した矢に血が付いてるのを見ると、『天津神に害意を持って矢を撃ったなら当人に跳ね返るように』と、多分、誓約の一種なのかな?
そう宣言して矢を投げ返し、矢にあたった天若日子は死んだ。これが還矢」
「ああ、要さんのスキルってそういう……ていうか天津神って何? さっき出てきたっけ?」
「ざっくり高天原の神様が天津神、地上の神様が国津神」
「つまり大国主たちが国津神で、天照たちが天津神ってことで大丈夫?」
「合ってる。資料によって微妙なラインの神様も多いけどな」
「やっぱり?」
「色々あって、最終的に高天原の武力として建御雷、天鳥舟が派遣されて、大国主の息子の事代主と建御名方が認めた事で国譲りが成る。
この国譲りに関わる天津神と国津神は、資料によって若干異なる」
「えっと、国津神の方が建……」
「国津神の方が建御名方神」
「たけみなかた」
「天津神の方が建御雷」
「たけみかづち」
「大抵は雷だから天って覚えるな」
「……え、もしかして天津神と国津神って仲悪いの?
要するに武力を背景に占領されたんだよね?」
「知らん。軍務担当の建御名方は最後まで抵抗したらしいし、その後も奉ろわぬ神が抵抗してるから、いきなり満場一致ってわけでなかったのは確かだろうけど。
でも建御名方も諏訪まで転戦しながら抵抗してるっぽいけど殺されたりしたわけじゃないみたいだ。
そもそも大国主は自分が下りれば大戦争にならないって踏んで国譲りしたってことになってるし」
「ほんと? 神様信じていい?」
「そうして平定された高天原から降り立ったのが現在の天皇家のご先祖様。天照大神の孫。瓊瓊杵尊。
お前の猿田彦神はその先導を務めた国津神だ。おしまい。
一応この続きはあるけど、この先は地上の話になる」
「へー……ちなみにあの白い大猪は?」
「白い大猪……ゲームに出てきたやつか。
鑑定されてないから確かな事は言えないけど、伊吹山の猪って言ってる人がいたからそれかな?
瓊瓊杵尊の子孫にめっちゃ強い倭建尊っていう人がいるんだけど、その人を雨霰で打って呪い殺した山の神だな。
だから日本人は呪われないようにちょっとの雨でも傘をささないと落ち着かないって外国の人に冗談飛ばしたことがある」
「お前いい加減にしてやれよ……っていうか地上まだ全然物騒じゃん。
天照の子は? 瓊瓊杵尊のお父さんは?」
「忍穂耳尊、何か地上に行くのを辞退した(?)らしい」
「瓊瓊杵尊、何か面倒な事を押し付けられただけじゃない? 大丈夫?」
「面倒事言うな、一応俺たちの祖国だぞ」




