19.対策会議2 パッシブスキル
「荒魂ってどうやって判別できるんだっけ?」
「判別できるの?」
「絶対必要とは言わないけど、対策立てるなら分かってた方がいいな」
「思兼神あたりのスキルじゃなかったっけ?」
「崩彦神の鑑定スキルです」
純和風(?)VRMMO。
現在クローズドベータテスト中。
このゲームにおける荒魂とは、戦争や災害に関わる神様の力の一端である。それを安全に解消する、という設定であるが、要はボスの能力が何かという事である。
ボスを見つけて町に戻ってきたケイ達。何かよく分からないボスが見つかったから対策を立てようとみんなで話し合っている段階である。
しかし正体を判別するのに鑑定スキルが必要なのである。
特に今回、ボスにはっきり分かる特徴が無かったため鑑定が望まれている。
「崩彦神のスキル持ちさん居る?」
誰かの呼びかけがあったが、手を上げる人は居ない。
全てが実装されているわけではないが、八百万と言うだけあって日本の神様、数が多いのである。
ちょっと遠くに居たプレイヤーが、さらに遠くに居たプレイヤーに声をかけて引っ張ってきた。
「ちょっと待て! 私を使うと高くつくぞ!!」
連れてこられたのは女性である。
真ん中分けの前髪、耳よりやや下のショートカットの茶髪。丸眼鏡。紫がかった甚平と、ぴっちりしたタートルネックの黒の長袖。足元もぴっちりした黒タイツに草履。
「ダンジョンに連れて行くなら! 私は高いぞ!」
早速の宣言に、何だこいつ。という空気が漂う。
「連れて行くなら! 百足の比礼を持ってきてほしい!!」
むかでのひれ。
半分ぐらいが「?」という顔をし、半分ぐらいが「あー」と納得した顔をした。
かぐや姫みたいな事言っているが、当の甚平の女性。半泣きである。
「じゃあもしかして、蜘蛛とか蜂とかの比礼もあった方がいいですか?」
赤裸裸が声をかけた。紳士である。
「足の多いの苦手だから、それもあったら嬉しいけど、とにかく百足がダメなんだ、あのわしゃわしゃぐねぐねするやつがもう……」
わしゃわしゃぐねぐねの辺りで吐き気を催したように口元を覆う。
恐怖症である。
「……敵に百足とか居たっけ?」
ケイの言葉にジオがため息をついた。
「気にしない奴は気にしないんだな、今さっきお前の背中を噛み砕いたのがそれだよ」
「ふぎゃあああああ聞きたくない聞きたくない!!」
甚平の女性が耳ざとく聞きつけてふさぎ込んだ。前途多難である。
安曇小春。崩彦神のスキル持ちで薬師であった。
広場に集まっていたプレイヤー達がざわついている。
「百足の比礼って売って無いの?」
「蛇、蜘蛛、蛙だけ。恐怖症の人が多いやつ」
「百足と蜂は本家本元なんだからそこは出してあげなよとしか……」
「虫系は全部売り物にした方がいい」
「ネズミも怖い人居るんじゃない?」
「それ言ったらでっかい犬に追いかけられるの怖い人居るでしょ。狼避けもあった方がいい」
「知り合いに亀怖い人とタコ怖い人が居るのよ」
「禍避けなのはわかったけど、比礼ってなに??」
色んな人が居る様である。
「これはおそらく要望苦情窓口に持って行っていい」
小春をなだめるプレイヤー達を見ているケイ達である。
「まぁ、俺達はレベル1になっちゃってるから3日お休みか。ジオはどうすんの?
一層で消耗品でも集める?」
「そうだな―……」
とジオが考えたところで、ステータス画面でレベルを確認しようとしたケイが話しかけてきた。
「ジオ、俺のレベル、下がってなくね?」
「今いくつ?」
「レベル3」
「カッコついてない?」
「ない」
ケイの画面を確認し、ジオも自分のステータス画面を確認する。
「レベル下がってない……何で?」
移動しかけた対策チームが再び集まって来た。
意味不明である。ボスの居る層によってペナルティが発生しないのではないか、ステータス画面の表示が変わったのではないか、という意見も出て、練習場で確認してみる事になった。
練習場内で攻撃をしていると、周りから見ていたプレイヤーから声がかかる。
「分かった。式神使いは更新があったばかりで分からんけど、熊を5連撃で倒せるならLv1忍者の攻撃力じゃない」
レベルは下がっていないようである。いよいよ何で? という話になった。
縁がおずおずと手を上げた。
「影助さんの月読命のパッシブスキルなんじゃないでしょうか?」
全員の注目が影助に集まる。
「え、俺?」
突然注目が自分に移って困惑気味の影助である。
「月読命。暦の神様って説があるから検討する価値あるかな? エスペナ無効」
「パーティーメンバーに掛かるのか、エリア全体に効くのか、死ぬ前にスキル持ちが他エリアに行っちゃったときどうなるかも確認したいな」
「えええ……」
囲まれた影助を眺めていると、ケイの側に近づいてくる人が居た。
大狼に乗っている事から恐らく騎士か式神使い。
多分騎士ではない。武器が小振りの刀の二刀流。黒髪、暗い赤紫の狩衣で、顔を覆った布、いわゆる蔵面を着けている。
蔵面と言うが・△・こんな顔である。
「別ゲーの話で、間違ってたら申し訳ないんだけど……もしかして『BangRuby』の『テレキネ殺し』だったりします?」
ケイは頬を掻いた。
図星だったからである。