18.対策会議1 ボスはどこにでも来る
「三層にダンジョンボスが居たってことですか!?」
ダンジョンは全五層。四層までボスが移動してくる報告はあったが、三層での目撃は初である。
純和風(?)VRMMO荒魂鎮魂。
現在クローズドベータテスト中。
テストプレイヤーがあれこれシステムの穴の検証や調査をしているところであった。
「多分、鬼型の大禍です。人型で、お面を着けてて、こう、こめかみから角が生えてる」
赤裸裸が額の左右に角のジェスチャーをする。
町の広場。ダンジョンボス発見の報に、周囲にプレイヤーが集まって来た。
「何の荒魂が乗ってたか分かりますか?」
このゲームでは、荒魂とは神様の荒ぶる一面であり、戦争や災害に関わるとされる。
その荒魂の力の一部を戦闘で安全に解消してもらうという設定である。
「何の荒魂かはちょっと分かりませんでした。
でも、禍津日神を操ってたと思います」
赤裸裸の証言に、周囲がざわつく。聞いたことのない能力らしい。
「二人が倒れた後も蘇生されないように禍津日神が周囲を見張っていたんですよ。
普通の八十禍ならプレイヤーのHPが0になった時点で離れます」
ちょっと通常の敵では考えられない行動であるらしい。
集まった人たちが話し始めた。
「禍津日神を操れそうな神様に思い当たる人居る?」
誰とはなしに起こった問いかけに対し、銘銘が当て推量で名前を上げていく。
「部下がいっぱい居そうなので」
天照大神。
大国主命。
「神様の会議とかによく出てるから」
「神様に指示出してる事が多いので」
高御産巣日神。
思兼神。
「軍務を担当してるらしいので」
建御名方神。
それとは別に、大禍、いわゆるボスに八十禍を操る能力が実装された可能性であるが、数が多すぎる、強力過ぎるのでやはり何かの能力ではないか、という事になった。
目撃者六人が質問攻めである。
「男神? 女神?」
「ガタイ良かったりした?」
「多分、男性だったと思います。体形も普通な感じで」
質問で動けなくなりそうな中、騎士らしきプレイヤーが周囲に声をかけて移動を促す。
「詳細はレコードで確認した方がいいだろ」
レコードはゲーム中の映像記録である。
その場に居たケイたち六人の誰かが了承すれば見れる。
考察しながら全体が動き始めた。
「男性って事は天照じゃないか……」
「レーザーでも撃ってくれればほぼ天照大神なんだけどな……」
ボス戦では追い詰めたところで強力なスキルをぶつけられ、一転窮地に陥る事が多いという。その対策のための正体の推測である。
そのためボスの特徴を押さえておくのは重要であった。
見た目の特徴や能力から、荒魂の候補を絞ろうというのである。
「高御産巣日神は無いと思う。
前に高木神の荒魂の竜が出た時は鳥の禍津日神が一緒に居たから」
「あー……反射技、しんどかった」
「高所攻撃、強化してほしかったよね」
何人かのアルファ時代のプレイヤーが証言する。
大抵は荒魂に関連する禍津日神が一緒に現れるのである。
しかし今回の大禍にはそれがない、その辺に居る雑魚敵が行動強化されたものである。
「つーか、じゃあ、あの大猪はボスじゃないのか?」
「大猪、何?」
「伊吹山の猪じゃねーかって言われてるやつ居なかったっけ?」
色々な事を話しているプレイヤーを尻目に、ふと気になったことがあったので、ケイはジオに尋ねた。
「候補に思兼神出てたけど、ジオの神様だよな? 同じ神様同士が戦う事ってあるの? ゲームだから2プレイヤーカラーみたいな感じ?」
「ゲーム上で被った神様が戦えないってなったら困るってのもあるだろうけど、同じ神様が戦う事あると思うぞ。そのための分御霊だろうし」
「分御霊」
「神様は分身するの」
「クトゥルフにそんなん居なかった?」
「お前全方位に二重三重に失礼だぞ」
「失礼度合いで言ったらお前も神様をチーレム呼ばわりしてただろーが」
五十歩百歩である。