16.三階層
三層に入ってすぐ、町に戻るための緑の鳥居の位置を確認する。
辺りはうっそうとした森。四人は周囲を警戒するが、今のところ敵は見当たらない。
「緑火鳥居はあの岩山のふもと辺りっぽいな」
三人が木の上に上って、ケイのスキルに表示されている火の玉の示すおおよその位置を確認している。
「岩山、他にもいくつかありますね」
「だんだん立体的なマップになるって言ってたけど、岩山が増えてく感じかな?」
「確かに木も茂って視界悪くなってきた」
一層は草原。ある程度まばらに生える木と、丈の高い草が視界を遮り、たまにある茂みが林を作るといった風景だったが、三層は生い茂る木に視界が狭められ、そこここに崖が見えている。
下からケイが声を掛けた。
「なー、俺も見たいんだけど」
騎獣持ちジョブは垂直面を登るのが他のジョブより難しく設定されているため、木に登るのが一苦労である。
「いやお前は火の玉についていけば着くだろ」
純和風(?)VRMMO。
現在クローズドベータテスト中。
五層あるダンジョンに時々現れるボスを攻略するというダンジョン攻略ものである。
「……敵、出ませんね」
「……実は層が上がると強い敵が少数居るんじゃないよな?」
「いや、赤裸裸さんも三層までは敵の強さは変わらないって言ってたし……」
「でも一層より出てこないよな。スキルにも全然寄ってこないし」
ケイのスキルが敵を引き寄せる仕様にもかかわらず、四人が歩く三層は静まり返っている。
敵影が全く見えないため、四人は少し散開して周囲に視線を巡らせながら歩いていた。
そんな時、縁が人影に気付いた。
「あれって、プレイヤーですかね?」
「どこです?」
「あっちの、左手の岩山の上です」
「他のプレイヤーが居るなら、先に狩られちゃったんじゃないかな?」
「あーなるほど」
「今日バッティング多いな。人が増えてるならいいことだけど」
木々が邪魔で、他の三人から縁の見ている人影は見えない。
「……でも、プレイヤーってHPMP見えますよね?
表示されてないんですが」
「遠いから非表示になってるんじゃないかな?」
四人の進行方向右手側にいた影助がそう返した時、真ん中付近に居たケイが縁に少し近づいて人影を認めた。この辺りは木が少なく、少し見通しがよくなっている。
「……あれ、そこまで遠いか?」
その声に不穏を感じ、即座にスキルの拍手を打ったのはジオである。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【思兼神 思兼神に思はしめ】
思兼神のスキルは分析。
敵味方の状態や標的などを表示するスキルであった。
途端にジオの視界に、四人全員に大量のターゲットマーカーが見える。大量の敵に標的にされている。
「ケイ! 任せた!!
皆! 緑火鳥居まで、ダッシュ!!」
「おお!? 任された!」
「え?」
「はい?」
仲間が反応するより先に、周囲に隠れていた八十禍が回り込んできた。
「わぁ!」
左端に居た縁が大型の蛇の禍の突進の標的になった。
縁が戸惑った瞬間、蛇が何かにぶつかって一瞬止まる。ケイの護符型式神である。
その間に縁が懸命に避け、ジオが迎撃に成功する。蛇は一太刀食らった瞬間に退いた。
「縁さん! 木を伝って緑の鳥居まで走って!」
ケイが声をかける。
「ええ!?」
「ケイ君は!?」
「俺は最後まで走れるから!」
影助の問いにケイが返す。
騎獣はHPダメージで行動制限が発生しない。全員が動けるなら殿を引き受けるのは妥当ではある。
そして地上部はあっという間に囲まれたので、立体的な移動が苦手な騎獣持ちの脱出が厳しいのもある。
「影助さんとジオは……! あんにゃろもう居ねぇ! いいけど!
とにかく優先で緑の鳥居に向かって! 俺がそっちに向かったとき援護してくれればいいから!」
「了解!」
縁と影助は走り出す。忍者と比べると速度は低いが、その分、術師は遠距離攻撃、徒士は弾き飛ばしができる。
縁が木の間を飛び移りながら術で着地地点の敵を狙うと、枝の間から鳥型の禍津日神が突っ込んできた。
「うわ!」
そこにすかさず影助が切りかかる。
鳥型の禍津日神は攻撃を避けることを優先したようである。縁と影助の二人も今のところ無傷。
縁が弱めの敵を射撃で牽制し、影助が包囲の一画に刀を振るう。
「えーと斬離!」
しかし、吹き飛ばされるより先に八十禍は一斉に飛び退いた。
「は!?」
技のごくわずかな硬直時間。影助の左側から狼型の禍津日神が飛び込んでくる。
「左!」
ケイの援護は届かない距離である。
しかしその狼の首に、ダメージエフェクトの閃光が走る。
「ケイ! 迎えに来るからそれまで頑張れ」
急に現れたジオが言い置いて、縁達を補助して走って行った。
忍者の隠形からの一撃必殺技である。