14.白山羊さんから合流できた
現在ダンジョンの森の中を探索中の四人。
明るい森を歩く背広の男とドレッドヘアー侍である。その横を歩くでかい猫に乗った狩衣の男とエルフ少女である。
影助の相談に乗っているのはジオ。
「スキルが分かんないって結構あるみたいだよ。前回縁さんのスキルもダンジョンで敵倒すまで分かんなかったし。
そもそもパッシブスキルがあるって俺もその時に初めて知って、改めて周りに聞いてみたら素戔嗚のスキル持ちさんも分かんないっつってたし」
「いやでもしかしなぁ」
一方、式神を色々検証中なのはケイと縁である。
「騎獣型式神の操作、大体分かった。
シキ、体重移動で行きたい方向を判別してくれてる。コツさえつかめば前後逆に乗っても操縦できる。立ち乗りもできるかも」
「同乗者の位置は関係ないみたいですね」
ケイの騎獣型式神の巨大猫の名前はシキ。同じ名前の式神さんがたくさん居そうである。
純和風( )VRMMO荒魂鎮魂。
現在ほぼアルファテスト状態のクローズドベータテスト中である。
その時、草むらから、黒い影が、ポーンと飛び込んできた。ケイが悲鳴を上げる。
「ぎゃー!!?」
シキが尻尾で叩き落とす。それをジオが三連撃で切り刻む。
蛙の禍津日神であった。
「ちょっとびびった……」
「油断しすぎ」
「武器変わった直後で戸惑うんだよ!」
出てきたオタマジャクシの直毘神が縁に葡萄を渡して去って行った。
「葡萄欲しい人居ますか? HPMP空腹度大丈夫ですか?」
影助が声をかける。
「ケイ君、MPちょっと減ってない?」
「あれ? ……シキが今の攻撃にあたった判定なのかな?」
自動迎撃はありがたいが、いつの間にか行動不能になってはいただけない。
ケイの猿田彦神のスキルを見上げてジオと影助が呟く。
「これ出してる間は真っ先にケイがターゲットになってるぽいんだよなぁ……」
「やっぱ目立つからかな……?」
頭上に火の玉がふわふわ飛んでるので、プレイヤーから見てもかなり目立つのである。
不意にガサガサと音がして、茂みの間から巨大な白いヤギがぬっと現れた。
「ども」
「あ、赤裸裸さんだ」
有名な当世具足の騎士、一文字赤裸裸であった。この前までショッピングカートで走り回っていた人である。
ケイのスキルの火の玉が見えたので来てみたらしい。
「つまり……集合場所……?」
ケイが頭上を見上げて呟いた。
人を探すのが難しいダンジョンの中。割と重要そうなスキルの活用法ではある。
「HPMPダメージの行動制限で騎獣が走れなくなることは無いですよ」
赤裸裸は既に知り合いと色々検証していた。
現在の仕様では騎獣がHPダメージやMPダメージで動けなくなることは無い。
ただし当たり前だが馬上の人が動けなくなることはあるという。
「その場合、禍から逃げろ、とか、緑の火の鳥居をくぐれ、とか、簡単な指示で、ある程度自律行動してくれますよ」
式神使いの騎獣はMPがHP代わりだが、騎士の場合はHPが主人と共用。主人がやられると騎獣も倒れるが、主人が復活すると騎獣も復活する。式神使いも似た仕様で、MPを回復すれば復活する。
「式神は出したり消したりできるんで羨ましいです」
「え?! そうなんです?!」
騎士の騎獣ははぐれると合流しないといけないらしい。ただし鳥居を抜けた場合は自動で合流できる。
「回復は薬師さんにお任せするのが一番いいと思います」
赤裸裸は後ろに一人プレイヤーを乗せていた。
薬師のプレイヤー。例の魔法少女が手を振る。
プレイヤー名は小川翡翠。
ふんわりしたショートの淡い茶髪で、服は全体的に緑っぽく、フリルとリボンをあしらった魔法少女風の服装。胸に大きく鮮やかな緑の勾玉を着けていた。
ジョブは薬師。スキルは少名毘古那神である。
今、翡翠はあちこちの草むらを探っている。薬師はアイテムを探せるジョブスキルがあるらしい。
その間、赤裸裸が薬師の解説をしてくれている。
「現在の仕様では薬師は回復アイテムや一時的な能力強化、要はバフアイテムですね。それを作れるんですよ」
回復や強化アイテムの材料には器、蓋、果物、石が必要らしい。
「丁度持ってるんで、見ます?」
小さめの竹の水筒であった。
「この木の蓋をぽんっと外して使います。蓋を開けた人が使った判定になって、飲んだり体に掛けたりして使います」
短い箸の様な少し長いコルク栓の様な構造である。
「薬師が使うと回復速度が倍になる感じですね。効果時間は変わらないので単純に2倍回復する感じです。
薬師が開封するのが重要になるので、余裕がある時なら開封して渡してもらいます」
「飲むのと掛けるのって違うんですか?」
「体に掛けたり地面に当てれば範囲回復、範囲内に居た人に均等割りで回復やバフがかかるとされています。大体使用した場所から半径1.5~2メートルってところでしょうか。
単体回復は回復薬を口に当てる動作が必要です。戦闘不能状態の人には範囲回復は効かなくて、単体回復する必要があるので注意です」
「そうなんだ……」
「俺も回復薬は掛けて蘇生できると思ってた……」
ジオも回復薬での蘇生は見た事が無かったらしい。口に入れる必要があるのは素材の果物だけではなかったようだ。
「回復スキルは回復薬より効果が速いですよ」
戻って来た翡翠が付け加えた。
彼女のスキルは回復なのだそうだ。
「スキルでも単体か範囲か選ぶようになってます。蘇生するにはやっぱり単体回復じゃないとだめ。
スキルの効果範囲にも多少は制限があって、自分の周囲およそ10メートル以内。範囲回復の効果範囲は半径2メートルの円って感じかな?」
一時強化アイテムは翡翠が持っていたので見せてもらう。
「この、彫ってある丸とか四角とかは何だろ? 色とかも違うみたいだけども」
ケイが縁から回ってきた竹筒とひょうたんを見比べて聞いた。
「竹筒の赤丸がHP回復で、野球ボールみたいな模様がうにょんうにょんしてるのがMP回復ですね。ひょうたんはバフ」
翡翠の持っていた緑の四角マークの付いているひょうたんは防御力アップである。
一方のジオ達前衛組も赤裸裸に色々聞いていた。
「忍者や徒士と騎士の違いってどんなもんでしょうか?」
「んー、私も他のジョブやったこと無いんではっきりとは言えないんですけど、騎士は突撃と合わせた強攻撃が強いんです。
だけど武器が大振りで連撃が難しい。騎獣に乗ってると背の低い禍にも攻撃があたりにくいです。動きの速い敵に空振りすると、下手すると反撃を受けますね」
ショッピングカートで爆走しながら敵を殴っていたわけである。反撃を防ぐ意味合いもあったのだ。
「連撃のしやすさは忍者>徒士>騎士で、攻撃力の強さが騎士>徒士>忍者って感じのバランスかな?」
「徒士はバランス型か」
ジオが締めくくり、影助が頷いた。
赤裸裸は騎士の特性の話の続きをする。
「騎獣は最大三人乗りできます」
「え? どうやって?」
「騎獣に誰々をって伝えると、咥えて走ってくれるんです。
行動制限で動けなくなった人を移動させるには有効だと思います」
「へー。シキ、ジオを」
「何で俺?!」
気軽に巨大猫に噛ませていいのがこの中でジオだっただけである。