130.対建御雷神戦 終了
「なんだよあのでかいの……真ボスかよ……」
「死ぬかと思った……」
ケイと翡翠がげんなりしている。縁は喋る気力もないらしい。
「でっかかったねぇ。ボスエリア限定とか?」
「どうなんでしょう? お二人は知りませんか?」
秀吾に聞かれて瞬と鷹が海上を見た。
「俺らは前に一回見たことあるけど……レアだから注意してなかったな」
「出てくるまで存在を忘れてましたからね。HP多くて厄介だった記憶があります」
ジオが赤裸裸に尋ねる。
「……もしかして赤裸裸さんのスキルって、敵の大きさが大きいほど攻撃力上がるとかですか?」
「どうなんでしょうね? ここの運営の事ですから、見えないのをいい事に時々補正してるかもしれません」
「あー……」
町に戻り、シアタールームに集まってボス戦のおさらいである。
まず、海岸で戦闘開始。アンの鹿児弓のスキルで追尾性能が付いたら、折を見て紫苑が天照を撃つ。
「何で凪枯さんじゃなくて紫苑さんが先なんでしたっけ?」
「天照は発射が速くて追尾性能があればまず避けられないから、ほぼ確実に天鳥船を使わせられること。
それと早々に紫苑に後衛組に合流してMPを回復してもらって連携スキル食の準備してもらうためです」
シキが浅瀬を通って紫苑を陸に運んでいく。
一緒に飛んできて回復アイテムを渡していったサラと還矢で後衛組を守る予定の要もこの時に後衛に移動である。
その後は飛ばされた前衛組は秀吾の青柴垣と縁、翡翠の国造でひたすら防御を固めつつ瞬、鷹、赤裸裸、レイでできる限りボスのHPMPを削っていく。
「これ、アンさんの術だと思うんですけど、どうやって立氷破壊したのか分かります?」
「すいません、分かりません。ボスを狙って撃ってはいたんですが」
「ウニにクリティカルヒットとかあんのかな?」
決定打になったのはアンの術が思いがけずボスの足場を破壊したものである。
「何度か後方から立氷に術を撃ち込んで破壊してはいましたけど、一回で破壊できたことは無いですよ」
アンの自己申告にみんな一様に首をかしげる。
「……瑞穂の祖神で耐久値減ってたんじゃないでしょうか?」
赤裸裸がしばらくレコードを確認して、言った。
逆再生してみたところ、ピンポイントでアンの術が当たったそこの棘だけがしばらくプレイヤーの攻撃に巻き込まれず生存していたのである。
その間にずっと範囲攻撃である瑞穂の祖神で耐久値を削られ、ボスにを追尾していたアンの術がたまたま当たったタイミングで崩壊したと考えられる。完全な偶然であった。
「ボス、足場の耐久値把握してないんだ……」
「生木AIは基本的に疑似五感を使っていてメタAIやナビゲーションAIから情報を受け取らないので、特に範囲内継続ダメージとなると把握してないかもしれませんね。ダメージの蓄積量とか視聴覚で分かることではないので」
その後は前衛組全員の連携でボスの動きを止め、天狗を当てることに成功した。
そして恐らくボスのHPが一定以下になったのを条件として、雷獣への変身である。
「……何やってんの?」
サラが隣の小春に尋ねた。ボスの変身シーンをいろんな角度で確認していたのである。
「いや、ボスの鬼型の顔ってモデリングされてんのかなーって気になってたから見えないかと思って」
確かに雷獣に変身するところで蔵面が外れるが、鬼型ボスの顔は全く見えない。
「前衛組はボス倒せそうになかった感じです?」
「既に消耗してたし、あの岩礁であの図体で暴れられたらな……」
「手が付けられませんでしたねぇ」
初手で礁全体を立氷で覆い、電撃で暴れまわる徹底っぷりである。
ボスが岩礁を離れた時点で前衛は全滅していた。
鉄人がぼやく。
「何かの弾みで前衛が全滅するか天鳥船でボスだけ後衛の近くに移動してくるかもっていう想定はしてたけどさ……」
雷獣になって突進してくるは割と想定外であった。
「でも概ね想定通りに動けましたよね」
ボスが後衛に向かったらギリギリまで引き付けて要が還矢を後衛の誰かに掛ける。
還矢はダメージを反射するスキルである。攻撃力の高いボスには有効であるが、罠扱いの設置型スキルではボスにダメージが反射されない。
そのためボスはスキルを移動に特化した建御雷から設置型スキルである立氷に切り替えてくる。影助と紫苑はその隙に食を発動。広範囲大ダメージスキルで立氷を打消し、できればそのままボスにダメージを与える。
それで倒せなければ雨叢雲剣である。
この時使う勾玉を何にするかで全員で悩んだ。
ボスは地震無効のスキルがある。国造と悪しき神の音は除外である。
そうなると攻撃系が雷しかない。
レコードを見直して、どうやら瞬の建御雷が効いてるっぽいという話になって消去法で雨叢雲剣であった。
しかし雷神である。これが効かないともうどうしようもなかった。
「ほんと博打だったじゃんよ~」
「頑張った頑張った」
今更半泣きの小春をサラがなだめている。
ちなみにサラが使っていた思兼神の勾玉はジオのものである。この作戦に当たって渋る小春には、サラが雨叢雲剣をあげたらしい。
「もっと褒めてくれていいからな!」
「優秀! 有終の美!」
ドヤ顔をしてみせる小春に貫名が合の手を入れる。
有終の美。
これからオープンベータテストが始まる。