13.新機能
「何か式神のHPが俺のMPらしいのよ」
式神使いの仕様の大幅変更があったばかりの純和風( )VRMMOクローズドベータ版である。
町の中。ケイと縁はでっかい猫の式神に乗り、ジオは隣を歩いている。
「この前は一撃でやられたんでよく分かんなかったんだけど。
HPMPって時間経過回復だよな? 減ると何かある?」
「あの時体感したろ? HPもMPも、減ると行動制限がかかる」
「え? ああ、蘇生した後全然動けなかったやつか。MP減少で行動制限って、式神もなるの?」
「どうだろう? この前はお前のHPダメージでは式神に行動制限出なかったけど……スノボだしな……仕様変更されたなら検証してみるまで分かんない。
この三人で一回ダンジョンに行ってみる?」
「あ、その前に、練習場で一回器物型式神の射程見ていい?
俺のやってたゲームとだいぶ勝手が違うだろうし」
練習場と聞いてジオが提案する。
「それなら九字印もやってみてくれないか? 効果範囲とか見たい。
動かない八十禍にも待機モーションはあるから、足止めが効いているのかいないのかは判別がつくはず」
「くじいん?」
「式神使いに実装された新しいジョブスキルなんだけど、聞いてない?」
「相手を足止めする効果があるそうです」
「そう言えば何か言ってた気がする」
式神使いの仕様変更が大きかったため、一部の説明がケイの頭からすっぽ抜けたらしい。
「ケイに分かるように言うと、マンガとかである臨兵闘者ー……ってやつ」
「へー、あれね」
「これ結構めんどくさいな」
練習場にて。
実装された九字護身法への感想である。
マンガとかであるように格子を描くように指を動かす方法。手を複雑な形に組む方法の二つがある。
「一定以上のスピードで切ると失敗しちゃいますね……」
「格子切る間ずっと相手の全身を格子内に入れてないと無効になるの、切る位置の調整むずいんだけど」
「印を結ぶやつは視界全体に掛かるし、インストラクターでできるけど、両手ふさがるしな……」
インストラクターはVRゲームで技を出す時などにプレイヤーの体を一時的に自動操縦するシステムである。
「MPとか消耗しない代わりに技使った後の硬直時間も結構やばい。キャンセルは簡単だからいいけどさ。いつ使うのコレ?」
「前衛が敵を止めてる間に掛ける感じでしょうか?」
「巨大ボスとか相手にするための技かな? いや、全身視界に入れてないといけないから難しいか」
新要素の検証はある程度済んだが、使い所が難しい感触である。
「ケイは結局その形か」
現在、ケイの器物型式神は巨大熊手。手甲鉤の巨大なものに近い。要するに鉤爪が式神使いのジョブスキルで空を飛ぶ。
「このゲーム、装備の重さが無いし慣れてる形に近い方が楽なんだよ。ただ、当たり前っちゃ当たり前だけど、やっぱいつもと違うんだよな」
「どんなもん?」
「全体的に力が弱い感じ。地面や壁に引っ掛けて体を引き寄せて加速とかできない」
「それが出来ないとサイコキネティックハンドとして使うのはしんどいな……」
「だから俺はそこまで暴れる気ないって」
練習場を出たところで縁が人を見つけた。
「あの人、お一人ですかね? さっきも一人で居ましたけど」
ドレッドヘアーを頭頂やや後ろで結んでまとめた侍姿である。
「もしよかったらパーティー組ませてもらえないでしょうか。
見る限り前衛さんっぽいですし」
前回一緒に行った要は居ないので、ケイ達は今、前衛一人後衛二人である。
ケイ達から声をかけると少し戸惑っていた。
「え……俺ただの徒士だし、スキル分かってないんだけど……」
「いや、こっちも新しい式神使いの性能調査したいだけなんで、浅層を通り抜けたいだけなんだ。大丈夫?」
聞けば知り合いも居ないので仕方なくソロでやっているらしい。
旅は道連れである。
「安藤影助。ジョブは徒士。スキルは月読だ。
って言ってもスキル使えてないんだけど」
ダンジョン一層1エリア目。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【猿田彦神 道標】
ケイの頭上高くに浮かぶ、赤いまん丸の火の玉。
そしてケイの周囲、頭の辺りよりやや上の高さに、淡い赤、緑、黄のまん丸い火の玉。
「おお、スキル派手だな」
影助がケイのスキルを見て呟く。
縁が気付いた。
「黄色の火の玉が二つありますね」
「あれ? ほんとだ」
「黄色というと同じ階層に行く隣接エリアですけど……二つに分かれるとなると、それぞれどう違うのか……」
縁とジオの会話を聞いて、影助が当たりをつけたらしい。
「じゃあ赤いのは二階層に行くやつ?」
「多分、俺らも行った事ないけど」
緑の炎は帰還用の鳥居である。
四人はとりあえず一番近い赤の鳥居に向かおうと、ダンジョンの森の中を歩きだした。