129.対建御雷神戦 雷獣
水竜巻の起こる洋上の浅瀬が金属光沢のある棘に包まれた。
ボスの設置型スキルである。
そこで白い猫に似た巨大な姿が電撃を纏い、暴れ狂っている。
金属の棘と周囲の海中に電撃が走り、鉄人達の連携瑞穂の祖神の水竜巻と相まって雷嵐の様相である。
【建御雷神 建御雷】
ボスは礁の上でひとしきり暴れた後、巨大な曳き波と電撃を連れて海面を走って海岸に向かってきた。
防御スキルが使える秀吾は既に前衛と一緒にやられている。海岸に居る後衛の集団。鉄人が居るにしてもスキルで突撃されたら壊滅必至である。
「うおお……想定とはちょっと違ったけどそこまで外れてはいないな……」
海岸の鉄人が呟いた。
背後の後衛組に声をかける。
「楓さん! 要さん! 頼む!」
「はい」
「ぎりぎりまで引き付けます」
「紫苑! どうだ?!」
「半分まで回復してる! およそ三秒なら使える!」
楓が拍手を打つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【神産巣日神 枳佐貝蛤貝母の乳汁】
ボスが離れた時点で壊滅したであろう前衛の蘇生である。
海上を直進するボスがそのまま後衛の集団を吹き飛ばすと思われた時、別のスキルが表示される。
【高御産巣日神 還矢】
一番海の近くに居た鉄人が効果対象になっているようにぼんやりと光る。
還矢、効果は%ダメージ反射。攻撃されたプレイヤーが死ねばボスも死ぬ。
ボスが鉄人を避けるように跳躍する。
「うわそっち!?」
「問題ない」
その間に影助と紫苑が拍手を打っていた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』
二神連携!」
着地したボスの電撃が地面を走る。
【建御雷神 立氷】
【二神連携 食】
還矢の反撃効果が及ばない、罠扱いになるボスの設置型スキル。そこに影助と紫苑の範囲内大ダメージ連携スキル。
忍者のスキル攻撃で罠が破壊できるのは確認済みである。紫苑の連携スキルで立氷が吹き飛ぶ。
海岸が球状の光に飲み込まれた。
それは遠く洋上の前衛組にも見えた。
「やったか!?」
「フラグ立てんな生きてる!」
海岸。真っ白い光が砂浜を覆った瞬間、サラは緑の勾玉を構えていた。
「やるよ小春!」
「マジでやんの!?」
「やらなきゃ終わらないでしょ!」
「あああもう!」
二人の声が揃う。
「『掛けまくも畏き 分御霊に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【 八意思兼 】
【 雨叢雲剣 】
白と黒の球形の光に覆われた砂浜から、巨大な電撃が空に上る。
「ボスの位置指差すからそこに振って!」
「でええーい! 当たんなくても怒るなよ!」
小春が剣を振り下ろす。電撃が砂浜と言わず海と言わず走り回った。
「雷神に電撃って効くんだ……」
晴れた海岸、呆然とした様子で小春が呟いた。
「一応レコードで確認したでしょ」
ボスが白い炎に包まれている。
楓、紫苑、鉄人がMP切れで砂浜に倒れている。
影助、サラ、小春、ソライロも動けはするが行動制限が掛かる程度に消耗していた。
プレイヤーの目の前に勾玉が浮かぶ。ボス討伐の証である。
建御雷
サラが洋上に目をやった。
「前衛組生きてる?」
「死屍累々だけど生きてるみたいです」
「MP切れかな」
先ほどの蘇生でHPは回復しているはずだが、ほぼ全員騎獣に運ばれていた。
その前衛の背後に巨大な黒い影が浮かび上がった。
前衛が波をかぶって一瞬見えなくなる。
「何あれ!?」
「もしかして八十禍?!」
「あんなの居るの!?」
「夜の食国が効いてない?!」
「もしかして海に流れた電流で八十禍が起きた……?」
「私のせいかよ!?」
「誰もそんな事言ってないでしょ!!」
「鉄人さん! 二神連携!」
「マジか回復しとくんだった!」
「薬師さん!」
「ちょっと待って! 急いで回復薬! もう投げる!」
「楓さん! 鉄人さんの消費MP分散して……あ、無理だ」
その沖合の死屍累々の一団の中、二人の声と拍手が揃った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【二神連携 国造】
海底が隆起していく。
縁と翡翠が足場を構築した様である。
それに対抗するように浮かび上がった海坊主の様な八十禍。
大きさだけならボスより巨大かもしれない。
それが縁達の足場に手を着いた時、一撃で海面を吹き飛び、消えた。
赤裸裸の突進であった。