128.対建御雷神戦 一転
洋上に岩が転がり、小島というより岩場の様相を呈している。
そこに乱れ飛ぶ電撃、光、暴風、波。昇る水竜巻。
ボス戦である。
【建御雷神 立氷】
水底に電撃が走り。それに沿うかのように海中から棘が飛び出す。
ボスの設置型スキルである。
ボスはその上に軽く乗って疾駆する。
【建御雷神 建御雷】
【事代主神 青柴垣】
電撃を纏った突進をスキルの防壁が受け止める。
「っ!」
即死ではないものの、ダメージは大きい。
赤裸裸がボスの足元を薙ぎ払って設置型スキルを破壊する。
壊れたボスの設置スキルはバラバラになって消えた。
【建御雷神 立氷】
「またウニ増えた!!」
ケイが器物型式神を振って新しく生えてきた立氷を攻撃する。
立氷、金属製のウニみたいな見た目といえば確かに近い形をしている物もある。
「クソ、とらえきれねぇ……」
瞬がぼやく。ボスは立氷を足場にして不規則に軌道を変えてくるのである。この辺は素戔嗚戦に似ている。
上空から轟音が響いてくる。凪枯の使ったスキルである。
味方のスキルのお陰で追尾性能が付いてはいるが出足が遅く、軌道が目視可能。そのため瞬間的な加速ができる敵は回避できてしまう。他ならぬこのボスの事である。
【建御雷神 建御雷】
【事代主神 青柴垣】
電撃を纏ったボスが立氷の棘を足場に不規則に移動し、切り込んでくる。
その時、空から降ってきた術の矢がボスの足元の立氷を粉砕した。ちょうどボスが方向転換のために制止した瞬間である。踏み込みが効かず、ボスが一瞬空中で止まる。
「!?」
「なんで!?」
一発の術で破壊できる耐久力ではない。しかし絶好の機会である。
「っらぁ!!」
すかさず瞬がまだ空中に居るボスに剣を振った。
ボスは剣で受けとめたが空中。瞬の雷を帯びた斬撃が直撃し、ボスが吹き飛ぶ。
岩にぶつかって止まったボスが、追撃を回避しようと動き出す。
しかし突然飛んできた岩を切り落とすのが優先された。
レイである。護符型式神で足元の大岩を投擲していく。命中の付与効果のお陰で狙い過たずボスに飛んでいく。
飛んできた岩を弾き、ボスが移動しようと踏み込んだその時には鷹がスキルを使っていた。
【経津主神 布都神】
真っ直ぐに発されるレーザー光の様な攻撃スキル。岩が目隠しになって気付くのが遅れ、回避しようとするボスがわずかに体勢を崩した。
その間があれば十分。スキルで電撃を纏い、加速した瞬が肉薄する。
瞬が振り下ろした剣をボスが受け止める。
「まだまだぁ!」
ケイがやったのは護符型式神を使った単なる押さえ込みである。視界が遮られる程度の物であった。
しかしそのわずかの間に瞬に遅れて突進してきた赤裸裸が追撃をかける。
三人、主に二人に押さえられて身動きのとれないボスは恐らく立氷を使おうとして電撃が走らせる。が、わずかに遅かった。間近に轟音が響く。
凪枯のスキル。隕石を落下させる天狗である。
「どわっ!」
瞬が波に流された。赤裸裸が拾い上げる。
クレーターができるほどの衝撃の中心に居たにしては軽いものである。ゲーム中では味方攻撃が無効という事もある。
少し離れていたケイも足元を波にさらわれてこけた程度で立ち上がった。
ボスはクレーターの真ん中で項垂れて座り込んでいた。HPは五分の一あたりまで減っている。瞬が追撃しようと構える。
ざわりとボスの髪が逆立つように動いた。強い静電気の様な音を立てボスの剣が電撃になって消え、風がボスから吹いて水面に波紋を作る。
「何かまずい!」
瞬が飛び出したが、同時にボスが白く膨れ上がった。
形を成した途端、雷鳴の様な咆哮が轟き、瞬が吹き飛ばされる。
見ていたケイが声を上げた。
「虎……!? いや猫!?」
姿を認めたジオが呟く。
「もしかして雷獣?」
シキ達騎獣を飲み込めそうな大きさ。
宇迦之御霊神の九尾とほぼ同じサイズである。
全身に雷を纏う巨大な白い猫に似た姿。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
後方の秀吾がいち早くスキルを使った。
【事代主神 青柴垣】
【建御雷神 建御雷】
ボスが突進する。
「ぐっ!」
一番にダメージを食らったのが至近距離に居た瞬と赤裸裸、少し離れてケイである。
三人が吹き飛ばされ、ボスが纏った電撃が辺りを走り回る。
単純に巨大化しただけだが、スキルの効果範囲が格段に広がっていた。
無事なのがたまたま秀吾のスキル内に居たジオ、鷹。
ボスの攻撃範囲からやや離れていた縁、翡翠、レイは電撃の余波は食らったもののダメージは軽い。しかし楽観視できない。縁達が居たのは岩の上。今のボスの電撃は海面だけでなく地面も伝うという事である。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
縁と翡翠が瞬達の回復をしようと拍手を打つ。
鷹も攻撃スキルを使おうとほぼ同時に唱えている。
しかしボスの動きの方が速かった。
【建御雷神 立氷】
前衛組の居た礁全体が金属の棘に包まれた。