122.暫定建御雷対策会議
シアタールームでボスの対策会議である。
「とりあえず鑑定してもらわないと、スキル表示が出ないと攻撃に対応するのは無理だ」
「任せとけー。と言いたいとこだけど、これ逃げ切れるか? 死亡前提?」
小春が元気よく手を挙げたが、映像を確認して首をひねる。高速。広範囲。高火力。超攻撃型ボスである。
「集中攻撃されたら騎獣でも厳しいですかねー……」
赤裸裸が鷹と縁のレコードを見ながら言った。
相手の方が速いので騎獣でも引き離せないし攻撃力が高い。ある程度近づかれてしまうと設置型スキルで行く手を阻まれる。
「設置スキル自体は若干間があるから、出足を忍者で潰せれば何とかなる……かな?」
「間に合うかな? 瞬達のレコード見る限り結構広範囲に出てくるけど」
「このトゲトゲ、設置までが罠扱いです? 設置後も罠?
設置後も接触するとダメージ受けてるみたいですけど、罠だとすると忍者さんに範囲攻撃を使ってもらうのが速い気がしますけど」
赤裸裸に聞かれたジオが映像を出してくる。
「設置されたら罠アイコン消えてるんで多分接触ダメージありの破壊可能オブジェクトになってますね」
忍者視点のレコードなのでジョブスキルで罠のアイコン表示が見える。
「ふむ、だとすると布都御霊剣でモグラたたきを狙うよりボスのついでに殴った方が消耗が少ないでしょうか……」
鷹が顎に手を当てた。連携スキルを地雷除去に使う気だった様である。一方、瞬も自分のレコードを見ながら首を傾げる。
「でも一度オブジェクトになっちゃうとちょっと耐久力ありそう。強攻撃ばっか使ってたからちょっと分かんないけど」
瞬と鷹の戦いでは、ボスへの攻撃に巻き込まれる形で破壊されているため、トゲトゲの耐久力がいまいち不明である。
ジオが自分のレコードを確認する。
「オブジェクトになった後だと接触してもダメージになるんで距離を測るのがちょっとめんどくさいというか……連撃で踏み込んだ弾みに刺さるとかギャグみたいな事になりそう……」
「お? 珍しく式神使いの出番か?」
「それこそ式神で殴ったらMPダメージ入るんじゃないか?」
「ええ~……でもありそう」
他方ではボスの性能の方が話し合われている。
「でもボス本体が速いから」
「縁さんたちもかなりギリギリだったしな」
「案外、青柴垣か還矢が相性良いんじゃないか?」
そこに影助が入ってきた。
「おーい、ボス見つけた……ってやっぱケイ達が先か」
大画面の方の映像を見て苦笑する。
遭遇したメンバーは影助、秀吾、紫苑、要である。
見事に今話に出たメンバーが揃っていた。
秀吾が釈明する。
「七階層攻略中に見つけた鳥居の先が明らかに九階層だったんですけど、以前の癖が抜けなくて違和感を感じなくてですね……」
「ああ……ちょっと前まで山の次の階層は海だもんな……」
それを聞いて瞬が慌てる。
「つーか必ず海エリアで戦うの!? 海から上がらない時に電撃撃たれたらそれこそ一網打尽だぞ」
ボスが下の階層まで下りてきてもエリアの性質が変わらない可能性が出てきた。この時点で重要な情報である。
そして結論。トゲトゲ(※立氷(?))にボコボコにされる。
「青柴垣は設置スキルですから、周囲にトゲトゲを置かれちゃうとトゲトゲを破壊するまで防壁に継続ダメージが入るんです」
「相性最悪か」
秀吾の説明に影助が補足する。
「ずっとウニ破壊してたんだけど、全員が一所にまとまってたせいか、ボスの攻撃も集中してさ。紫苑と要さんと三人でも間に合わなかったんだよな。忍者が破壊できないと初撃はどうしても食らうし」
「要さん還矢は?」
「このウニ?が設置罠スキル扱いなせいでこちらがダメージ受けても還矢が効かないんですよ」
正式名称が出ていないため、ウニ、トゲトゲなどあだ名がついている。
瞬も自分のスキルの所感を伝える。
「建御雷のスキルはギリギリでも軌道変更可能だから還矢当てるのは難しいかもしれない」
還矢は受けたダメージを最大HP%で相手に跳ね返すスキルである。
つまり100%ダメージを受けたら相手にも100%ダメージが跳ね返って死ぬ。
以前ボスが一撃死したため、運営は還矢対策はかなり気を使っているはずである。
「そうなると範囲攻撃の方が効くかもな」
「とにかく足止めしないといけないから連携瑞穂の祖神は必須」
「また素戔嗚や少名毘古那みたいに飛びまわったりしないか?」
「鬼型素戔嗚は柱を足場に使ってたから……普通の鬼型なら飛んでったりはしないんじゃないかな……多分……」
「とにかくボスと殴り合いしたら先に死ぬのは私達の方ですね」
「MP気にしなくていいなら俺だってずっと建御雷連発してるもん」
ボスのMP量なのでほぼそういう運用ができる。
「やっぱりアンさんに鹿児弓掛けてもらって天狗や天照撃ち込む感じ?」
高火力スキルに追尾性能を付与して直撃させる。大国主、少名毘古那戦でほぼ撃破まで持って行った合わせ技である。
しかしそこで首をかしげたのが瞬であった。
「建御雷、避けるかもしんない」
そのまま隣に居る鷹に話を振る。
「なんかいい例なかったっけ?」
「追尾性能を躱したこと……あったような気がしますけどねぇ……いつでしたっけ? 大国主戦は足場をやられた上ででしたし……」
秀吾が思いついたように言った。
「黄泉津大神戦とかどうですか? 黒雷が追尾だったはず」
「流石に連携瑞穂の祖神で動きを鈍らせれば当たるんじゃないか?」
「瞬が感電した状態で黒雷躱せるなら建御雷も天照躱して来そうな気がする。ほぼ同じ速度じゃない? ちょっと天照の方が速い?」
「そういう事あった気がする。あの時すげー再戦したし」
黄泉津大神戦はとにかく試行回数が多かった。
瞬達がレコードで該当箇所を探している間、ケイがジオをつつく。
「建御名方と天津甕星のスキルで倒せる? 何かさっきからすげー国津神と相性悪いけど」
「別に運営そこまで考えてないと思うぞ。連携瑞穂の祖神を使った状態で全員で囲んで叩けば当たるとは思う」
「そっか……建御雷で他に何かやってきそうなのある?」
「いや特に…………いや、布都御霊剣は撃ってくるかもしれないな。建御雷の剣だし。……あとは……天鳥船?」
「何? それ新アイテム?」
「天鳥船は伊邪那岐伊弉冉の子供で船の神様とされる。国譲りのメンバーが資料によって違うって言ったろ。古事記では国譲りの時に建御雷と天鳥船が派遣されるんだよ」
「何する神様?」
「日本書紀で伊邪那岐伊弉冉が蛭子神を乗せて流した船って説もあるけど、古事記では国譲りの時に出てくる。国譲りを承認させるために海に出てた事代主を連れてくるんだ。どんな効果かはちょっと思いつかない」
「え、真面目にボスの隠しスキル考えるのに国譲りのメンバー関係を考えた方がよくね? 他に居ない? 何か建御雷が使ってきそうなやばそうなやつ」
「いや国譲りに関しては、確か建御雷は固定で古事記は天鳥船、日本書紀は経津主でほぼ固定のはず。
国津神側は大国主と事代主でほぼ固定。大国主だけの事もある。たまに第三勢力みたいに天津甕星」
「あれ? 建御名方は?」
「……建御名方は実は結構謎が多い。古事記にしか出てなくて日本書紀には出てこない」
「あった」
瞬達が探していた戦闘記録を見つけたらしい。
「……やっぱり感電しててもスキル出せば黒雷躱せるわ」
瞬が過去のレコードを出してきて自身のスキル性能を確認している。
「行動制限掛かっててもMPさえ残ってればスキルで移動できるっぽいんですよね建御雷は」
横から見ていた鷹が付け加えた。
「瞬の場合は大抵MPが先に切れるので分かりづらいですけど」
瞬もスキルを使えれば状態異常が掛かっていても追尾攻撃から逃げられる。
今回のボスと推測される建御雷もおそらく、スキルさえ使えれば多少不利な状態でも追尾スキルを躱してくる。
ケイは思わず聞いた。
「縁さん、急に深淵之水夜礼花神のスキル生えてきたりしない?」
前回の戦いで瞬をほぼ封殺したボスの召喚スキルである。
「えっと……」
「縁さん困らすな。多分あれはボス限定スキルだ」
一方で翡翠が作戦内容を確認している。
「作戦って連携瑞穂の祖神で動きを鈍らせて、鹿児弓で追尾性能付けた天狗や天照みたいな大ダメージスキル当てるって方針だよね?」
「時間をかけるほどこっちが不利だからな」
「そんな感じ。多分瑞穂の祖神だけだと避けられるから、周りから殴り掛かって足止めしないといけないけど」
「連携瑞穂の祖神って水出るけど周りは感電しない?」
「あ」
秀吾が引き継いだ。
「多分感電しますね……宇迦之御霊戦でも稲妻で周囲に電撃広がってたので」
「まぁ……その辺も要検証という事で……」