120.帰還
アップデートされたダンジョンの下見のはずがボスエリアに突入してしまった。
何とか脱出しようとしているが、仲間が続々と倒されている。
今ボスから逃げているのはシキに乗る縁と翡翠だけである。
「ジオさんもやられちゃった……!」
「ここから海です……追いつかれたら……」
エリアから脱出するための鳥居があるのは少し沖の洋上。
相手には電撃がある。一網打尽である。
「私のタイミングで撃つ! 縁さんはボスを攻撃して足止めして!」
言うなり翡翠は拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【少名毘古那神 国造】
浜辺の地面が持ち上がった。シキの足元である。シキはタイミングを合わせて大跳躍した。
「もう一回! 『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【少名毘古那神 国造】
翡翠のスキルにより海中から岩が現れ、シキが跳ねた先にまた足場が生まれる。
翡翠が須佐之男命戦でやっていた上下移動ショートカット兼踏み台である。
【少名毘古那神 国造】
縁は背後に迫りつつあるボスに術や足止めアイテムを向けることに専念した。
ダメージは微々たるもの。足止めは避けられる。どんどん距離が縮められていく。
ボスが電撃を帯びる。本気の跳躍である。
しかしその踏み込みの足場に山なりに投げていた葡萄が接触。足止めアイテムが爆発的に繁茂する。そのほんの一瞬だけボスの飛び出しが遅れた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【少名毘古那神 国造】
縁達の背後に岩がそびえ、次の瞬間にはボスに破壊された。
しかしそれで充分だった。縁、翡翠、シキは放物線を描いて落下しながら鳥居を潜り抜けた。
「この四人がやられるってどういう事??」
「ボス行くつもりはなかったんだよ」
「大国主戦でもやられてるんで別に珍しい事でもないんですけどねぇ」
「俺もよく分かんないで死んだんでレコード見たいんだけど」
「退場ぎりぎりまでMP残ってたんでシキは生きてたはず。縁さん達は鳥居は抜けたとは思うんだけど……」
町の広場。ジオ、鷹、瞬、ケイという非常に珍しい面々がやられて転送されてきたため、ちょっとした話題になっている。
倒される前提で一戦交えるならまだしも、撤退前提なら高確率で生還する面子であった。
「九階層に術師と薬師のペア置いてっちゃったからなぁ……」
縁達が抜けたのは黄色火鳥居、九階層の別のエリアに抜ける鳥居である。九階層で厄介なのは海中の八十禍だけだが、海中で戦闘になってしまうとなすすべもなくやられることもありうる。
と、広場の大鳥居に緑の炎が灯った。
誰かが帰ってくるのである。
「どもー」
真っ赤な当世具足が姿を現す。
赤裸裸の一行であった。
赤裸裸、鉄人、凪枯、小春。そして。
「ケイさん!」
「縁さん!? 赤裸裸さんたちと合流できたのか!」
「助かったよー、鳥居抜けた先でばったり」
翡翠も姿を現した。
「ボスと遭遇戦やったと聞きまして」
赤裸裸達を交え、シアタールームでボス戦のレコードを見ながら作戦会議である。