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12.アップデート

『えー、そんなわけで仕様変更になりまして』


 画面の中からこちらに向かって語り掛ける総面の赤の当世具足、つまりお面の様なのを付けたいかにもな和風の鎧。

 当世具足の背後に流れるリプレイ動画には、ゲームの中。ショッピングカートに正座し、爆走しながら八十禍やそまがつを次々と切り伏せる当世具足の姿があった。


― 残念だが当然

― 純和風って言われたでしょうが

― ショッピングゴートは騎獣ではないんよ

― あまり運営さんを困らせないように


 といったコメントがついている。

 一文字いちもんじ赤裸裸せきらら。ベータ段階でも運営に確認の上で動画配信を許可されている、数少ないプレイヤーの一人であった。


『それでいくつか改善がなされまして。今の騎獣はこちらです』


 出てきたのは、険しい目をした白い大山羊に乗る赤の当世具足である。

 見た目はものすごく厳つい。


― あら一気にまともになっちゃって

― ヤギ単独でトロール倒せそう

― やっぱそれヤギだったのかよ


『そんなわけで、サービス開始までにちょこちょこ調整されています。お楽しみに~』


 動画が終わった。


 ここはVR空間上にある自室である。


「てなわけだから、ログインして式神を交換してやってくれ。運営さん待ってるから」

「いや、おれ、マジでてきとーでいいんだけど。てゆーか前回ログインしてまだえーと……数日?」

「すまんな、調整が頻繁に入ってるんだわ。無理にとは言わん」


 誘った当人から連絡が来る程度に前回の初ログインから放置していた。


「……まぁ暇だから行くけどさ……」



 ゲームに入ったケイが立っていた場所は集合場所の林でもなく、真っ黒い空間でもなく、木造の部屋であった。ログハウスの様な一室である。

 埴輪はにわが土下座せんばかりに深く頭を下げていた。


「えーと、運営さんですよね?」

「この度は申し訳ない。来たばかりなのにこちらの都合で色々と変更をお願いしてしまって」

「いえ、来たばっかですからむしろ変えても問題ないです」


 特にこだわりがあったわけでもない。


 頭を上げた埴輪は解説を始める。


「まず、ここはゲーム中のプライベートエリアです。ゲーム開始時はここからスタートするようになりました」


 VRゲームによくある仕様である。見た目の変更などもできるし、全身鏡などで自分の姿を確認できる。以前は真っ暗な空間だった。


「まず式神使いの仕様が大幅に変更になりました」

「うおびっくりした!」


 埴輪はにわの横から現れたのは、馬より大きい、猫のような姿の生き物である。顔の位置がケイの背丈ほどある。

 驚かした事に平謝りした埴輪が解説を続ける。


「機械などの乗り物の騎獣は一律禁止になり、四足歩行の生物に統一になりました。サイズ差や動作の差が大きく、当たり判定の判別や自律行動の調整に難があったためです。

 こちら、攻撃特性刺突の猫という設定なんですがよろしいですか? 攻撃特性鈍器の動物も居ますが」


 ケイはそれは割とどうでもよかった。


「赤いんだ……」


 大猫の足元が赤のソックス、それ以外が黒に近い暗い赤茶色。ボードに描いてあった真っ黒の塊とは少しイメージが異なる。


「すみませんが、真っ黒や暗い青だと八十禍やそまがつと紛らわしくて」

「あ、なるほど」

「カラーリングは誤認が少ない範囲を検討し、今後も調整していきます」


「それと、式神使いが騎士や術師と比べて非常に使い勝手が悪いという事でテコ入れが入りまして。こちらです」


「これって護符型式神?」


 おふだのような模様の、大判の画用紙ぐらいの大きさの紙がケイの横に現れた。

 特定のジェスチャーで出し入れが可能である。


「騎獣型、護符型、器物型を全て統合して式神使いとなりました。

 騎獣に乗って、手元に連動する式神で敵の行動を阻害する方向の補助職です」


 式神使い、護符型と器物型は物理の中距離攻撃なのだが、連撃も出しづらいし命中率も低い。

 術師に比べても速度と攻撃力が低く、本当に良いとこなしの状態だったのだ。

 そこに騎獣をくっつけて高機動の補助職にしようという試みである。


「あーなるほど……結局こうなっちゃったか」


 ケイが試しに護符型式神を動かしてみると、体と手の位置関係に連動して、手を伸ばすと数メートル先まで届く。

 VRアクションゲームによくあるサイコキネティックハンドと呼ばれる能力に近い。

 現在も多くのゲームに使われており、遠近感を掴むのが大変だが、使いこなすとかなり中近距離戦で強い能力である。


「護符型は掴む、投げる、敵の攻撃を防ぐなどの動作が可能です。

 ただ力が弱い内は式神で何かを動かすのは難しいでしょう」


 護符型式神は攻撃力が落ちる代わりに盾にしたり何かを掴んで動かしたりという事が可能。


「器物型式神は護符型と同じ仕様です。器物型は切ったり叩いたり引っ掛けたりなどもできます。ただやはり力の強さが大きく影響します」


 徒士かちなどと同じように腰や背中に武器を着ける。器物型式神を使用するときは身に着けている武器を手に取る。

 腕と連動する対象が護符型と切り替わり、攻撃特性が変化して攻撃力が上がる。


「このスタート地点で毎回操作する器物の変更ができますが、変更しますか?」


 机の上に武器の一覧が広げられた。


「……ここまでやるなら釘バットや鉄パイプは除外した方がいいんじゃないかな……」




 林の中で待っていたジオは、ケイの姿を見て二度見した。


「あれ? 式神使いって服装制限あったっけ?」

「いや、ついでだからそれっぽく変えた。現代風珍しくない事が分かったんでネタとして弱いし」

「普通に陰陽師っぽくなっちゃって」


 今のケイの服装は、赤と白の狩衣である。唯一ヘッドホン風の耳当てが残っている。

 ちなみにジオは相変わらずの黒スーツである。


 やっぱでっかい動物は良いなーとケイとジオが巨大猫を撫でること数分。


「お待たせしました!」


 えにしの声がした。どれくらい変更を加えたか、ちょっと不安になって恐々(こわごわ)ケイが振り返る。


「勾玉万能説!?」


 まったく変わりの無いエルフに、勾玉まがたまが首から掛かっていた。

 それだけで何かそれっぽくなっているから不思議である。


「えっと……ジオさんがこうすれば大体大丈夫だと……」

「……」


 ケイがジオを見ると、目をそらしていた。


「まあ……意外なほど違和感ないけどさ……」


 違和感が働かなくなったところでゲームスタートである。


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