112.対大国主命戦 迷子
ケイは目を開けた。ボスがスキルで大岩を降らして来て、逃げる間もなく下敷きになったはずである。
「HPが全快してるって事は、楓さんの回復スキルか?」
辺りは一面、背丈よりも高い岩山である。触って確かめてみたが、混乱の状態異常というわけでもない様だ。
「……地形変わっちゃったか?」
色々混乱することはあったが、さっきの様子だとまだボスは倒せていない。ケイは拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【猿田彦神 支加】
炎で出口と味方の居る位置が表示される。
炎が目立つせいで敵に標的にされるスキルだが、壁のぼりができない式神使い、上から味方を探すという事ができない。
攻撃を受けるかもしれないが、これだけバラバラになると他に集合を掛ける手段が無かった。
「うおぅ!」
早速鳥型の八十禍が飛び込んできた。躱して器物型式神で叩き落す。
【少名毘古那神 国造】
「うわ」
少し遠く。迷路のようになっていた一部が立ち上がり壁のようになった。
「シキ! 皆と合流する!」
「みゃう!」
ケイはシキを呼び出して飛び乗った。
「ケイさん!」
後ろから声を掛けられる。
「ソライロ?!」
「すいません! 少名毘古那逃がしちゃいました!」
アン、凪枯、影助も一緒である。ロクと豪登、鹿毛坊も連れていた。
騎獣を走らせて味方の居る方に向かう。岩が多くて見通しが悪く、回り道しないといけない所もある。
アンの索敵スキルと凪枯の罠感知、二人が上から経路指示してくれるので、全速力を出せてはいる。
【大国主命 国造】
数十メートル先、向かおうとしていた方が大きく陥没したのが見えた。
「地形を自在に変えられるのか……って、ボス両方復活してんの?!」
「そうみたいです」
付いて来ているソライロが答える。
「俺今何がどうなってるのか分からないんだけど! 大国主は倒せたはずなんだけど、その後混乱する事があってさ! 少名毘古那は倒したんだよな?」
「俺達も今来たばかりですけど、ボスのスキル表示からして多分両方とも復活してます」
「やっぱ『蒲の穂』と『薬湯』で交互に復活し続けてる感じ?」
「いえ、『速見湯』が多分回復系の上位互換です」
アンが矢を撃ちながら補足する。追尾スキルと曲射でボスを狙っているらしい。
「あ! そのスキルの後で長い名前の神様のスキルで大岩が崩れたの覚えてる!
あれ? でも瞬に切られたのは大国主で……いやでも少名毘古那?? あれ?」
「どういうことですか?」
「えーと、瞬が切ったら少名毘古那に変わった?」
「……最初っから追って行きましょう」
ソライロが走りながら続ける。
「まず、俺らの方は凪枯さんのスキルで少名毘古那は倒せました。それを伝えに紫苑さんに向かってもらいました。
凪枯さんと紫苑さん、MPが残ってた方がそっちで一撃必殺に備える予定だったわけですからね。
俺とアンさん、影助さん、MP使い果たした凪枯さんは見張りです」
「ああ、それで紫苑がこっちに来て……。えーと、それで俺たちはどうしたんだっけ……?」
ケイが思い出そうとするが、色々起こりすぎて出てこない。
「遠くから見てた限りだと、ケイさん達の方では急にボスのスキルで足場の氷結と崩落が起こってました」
「え、ああ、そういえば。ジオのMPが尽きてボスの攻撃が見えなくなったんだ」
どのタイミングにしても凪枯のスキルに合わせてボスの動きを完封して当てる予定であった。それぐらい博打しないと二体同時撃破は無理である。
「そこに追い打ちで雷撃が入ったと思うんですけど、その直後すぐに八千矛のスキル撃ってましたよね?」
「ああ、確かに」
「こっちでも八千矛のスキル表示が出て、上空に注意が向いたんです。
丁度その時復活した少名毘古那に不意打ちをかけられて壊滅したんです。人手っていうか攻撃手が必要で、やむをえずギンを呼び戻したんですけど」
「ああ! あれそういう事だったのか!」
恐らく赤裸裸がギンが消えたと言っていた時である。
「その後、そっちは紫苑さんのスキルで大国主倒したんですよね?」
「いや、それは外れて最終的にジオが切った。
そういえばジオと紫苑がアンさんのスキルが切れてたって言ってたな。追尾スキルが消えてたのか」
「すいません。多分その時は少名毘古那に倒されてました」
「じゃあ秀吾が心配した通りだったんだな」
秀吾が防御スキルを使ったのは少名毘古那がアン達を倒して追っ手を振り切り、近くまで来てる可能性を考えての事だった。
「影助さんだけ辛うじて生き残ってて、回復もそこそこに豪登、ロク、鹿毛坊も連れて皆の所に向かったんです」
「それで俺らのとこに来る前に岩山が降ってくるの見た感じか」
「その直前に表示されたスキルが少名毘古那の打出小槌でしたよね。多分これがケイさんの混乱の原因じゃないかと」
「そのスキル表示は俺も見たけど……どんなスキルか見たの?」
「推測です。倒したはずの大国主が出てきたんですよね? それで倒されたら少名毘古那になった」
「うん、あれ? 上から降って来てたような……?」
「少名毘古那、鳥の八十禍に乗って飛んでったんです」
「え?」
「多分ですけど、少名毘古那が大国主そっくりの見た目になるスキルです」
「………………ああ!! ……ってええ?! そんなんあり?!」
「俺達が走ってくる間に見たスキル表示だと、多分最初に少名毘古那が速見湯で大国主を蘇生したと思います。切られたとしたらその後でしょう」
「あ、うん、そう! ボスと瞬がスキル使ったのほぼ同時! そんで切られた後に少名毘古那に変わった!」
大国主の姿をしていた少名毘古那だったとすれば辻褄はあう。
それだと少名毘古那は姿を現して捨て身で大国主を蘇生した事になるが。
「その直後に意美豆努命のスキルで大岩が崩れて来て、その後で大国主が速見湯で少名毘古那を回復したみたいなんです。
で、多分楓さんがHP勾玉割って蘇生した後に全体回復してくれたんだと思います」
「ある意味仕切り直しか……」




