110.対大国主命戦 同時撃破狙い
作戦会議中のシアタールームの一幕。
鉄人がレコードを表示している。鑑定のために皆でボスエリアに突っ込んだ時の戦闘である。
「少名毘古那、連携瑞穂の祖神に一瞬入っただけでこの減り具合なんだ」
指しているのはボスのHP。少名毘古那はこの直後にスキルを使って脱出しているが、この一瞬で目に見えるダメージを受けている。もう少し長くスキルを当てられたら倒せたかもしれない。
「なるほど、HPや防御力はそこまで高くないのか」
「だから攻撃力高めのスキル一発で倒せる可能性がある」
ボスエリア。氷結した社。一同到着したばかりである。
【天津甕星 天狗】
「来た! 凪枯の方か!」
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
打ち合わせた全員が一斉にスキルを使う。
【二神連携 布都御霊剣】
【思兼神 八意思兼】
【高御産巣日神 神集】
【神産巣日神 神産巣日】
【伊邪那岐命 瑞穂の祖神】
皆がスキルを使う間、ケイはサラから薬を受け取った。アイテムで能力を一時上昇させ、そのままボスに突進する。
ケイと並走するのはギンに乗る赤裸裸である。
式神と忍者以外まともに歩けない氷を設置するボスのスキル。深淵之水夜礼花神。
ケイがやっているのは器物型式神で地面を叩いて進む水面歩法である。今の所はケイしかできない。
「ふっ!」
ケイが器物型式神でボスに打ち込む、避けられるのは想定内。赤裸裸の打ち込みも受け止められる。
そこで白い火が辺りを薙ぎ払う。ボスにダメージが入った。突っ込んできたのはシキに乗った瞬。布都御霊剣のスキルである。
氷が変わった湯気は鉄人の瑞穂の祖神の風で吹き飛んだ。
ケイと赤裸裸がボスに攻撃を加えてボスの槌の動きを制止する。
そこに瞬の布都御霊剣が叩き込まれる。
ボスも防御に専念せざるを得ない。
ジオのスキル、八意思兼。
敵の攻撃軌道を読むスキルだが、現在全員がそのスキルを共有している。要の神集のスキルである。
どちらもMPの消費が激しいが、楓が神産巣日のスキルを切り替えて適度に消耗を分散している。
遠くから強い風の様な音が聞こえてくる。
凪枯の天狗。隕石を落とすスキルである。出足がとんでもなく遅いが、威力は非常に高い。
直撃すれば少名毘古那は恐らく倒せる。
止められるとしたら大国主の八束水臣津野命。
ボスが何とか攻撃を振り切ろうとするが、プレイヤーもそうはさせじと食らいつく。
数十秒スキルを使わせなければボスを片方倒せる。
音が轟音に変わり、爆音が響いた。
社が揺れる。
「やったか?!」
「分からん」
「フラグやめて」
「こっから100秒以内にボス倒すのって打ち合わせ通りとはいえ、なにげに無茶だな」
100秒を越えると少名毘古那が復活する。
追い詰めると隠し玉が出てくるのに定評のあるボス戦である。スキル効果が多様なだけにひっくり返される恐れがある。
決定打は無いが、ボスも何度か攻撃を食らってHPが消耗している。
何よりボスにスキルを使わせていない。
「間に合った……向こうはソライロ達が見張ってる。余裕はあるはずだ」
紫苑が後衛たちのそばに現れた。伝令に走って来たようである。
「紫苑! スキル使えそう?」
紫苑か凪枯。どちらかがこっちの一撃必殺を担当する予定であった。
「ごめんスキル止める! MPが限界……!」
ジオがスキルを停止した。回復速度が追い付かなくなったのである。
ジオ、要、楓が小春達から追加の回復薬を受け取っている。
その瞬間、ダメージと引き換えにボスが包囲を脱した。
槌の音が響き、白い靄が波紋のように広がって床や社を覆う。
【 深淵之水夜礼花神 】
「問題ない! そのために式神こっちに揃えてもらったんだから!」
と、社の土台が大きくきしむ音がして足場が歪んだ。
同時にボスが手の平を床に向ける。
【大国主命 国造】
天狗の揺れで不安定になっていた社が岩に押し上げられて大きく傾き始めた。
「げ!」
「連携スキルじゃなくても使えるのか!?」
「まぁ確かに少名毘古那が使えて大国主が使えないって事は考えづらいか」
突き出てきた岩に足場が崩され始めた所で、ボスがもう一度槌を振った。
【 大物主神 】




