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11.チャットルーム

 ― このゲームの名前ってあらみたまちんこん? あらみたまたましずめ?

 ― あらみたましずめです。PV第二弾からタイトルコール入ってます

 ― ……何か俺が下ネタ言ったみたいになった……


 ― 単語全般、せめて解説サイトに飛べるようにしてほしい

 ― ゲーム中からは指定の外部サイト、実況用とか以外には接続できないようになってると思うよ。これはこのゲームだけじゃなくて普通の仕様。でもアイテムとか神様名は解説欲しいよね



 ― スキル名と解説はステータス画面から見えるようにしてほしい


 ― キャラメイク段階でジョブの特徴が分かりづらいのダメだと思うの

 ― ランダムでいいから、せめて最初に神様決めて教えてほしい、それにあわせて能力ビルドするから


 ― アイテムの使い方が分かりづらいです


 ― ぜんぶ読み仮名振ってください



 純和風VRMMO荒魂鎮魂あらみたましずめ。アルファテストプレイ時代から連絡用として存在していたクローズドな公式チャット部屋である。

 要望や改善意見を送る場所、メンテナンス情報を表示する場所、という事になっている。


 白黒の市松模様の床に、周囲と仕切りのついたソファにテーブル。ぶっちゃけ和風ではない。

 空間のイメージとしては広いドームの中。喫茶店のようなソファとテーブルの並ぶ場所。テーブルとソファに付属している間仕切りは本棚になっている。


 中心に円柱状に浮かんでいるのは複数の会話のタイムライン。


 一定量を越えるとページネーション、文字通り本の形に格納される。それがテーブル脇の仕切り代わりの本棚に収納されるので、VRで内で本棚を検索、スクロールするジェスチャーによって取り出しやすいようになっている。

 こうする事で関連するタイムラインを遡って見直す事もしやすくなっているのである。


 よその座席に座っている人たちは薄ぼんやりとしたシルエットになってはっきり見えない。


 一応制作関係者が確認しているはずである。が、基本的に各々が好きな相手と好きな事を喋っているだけである。


 その一画。

 サラリーマンとスケボー少年とエルフと大正袴の四人の机である。


「非公開での会話もできます。今この机の会話は非公開ですね。

 ただし犯罪防止などのために、当然ログはとられてますから、そこだけはよろしくお願いします」


 ジオが他の三人に、一通り機能を紹介していた。


 ケイは視界いっぱいに広がるタイムラインをざっとチェックしていた。


「気になった事は大体言われてんな。他に何かあったっけ?」


 ケイが他の三人を見ると、えにしがちょろっと手を上げた。


「街中の移動速度の差とかでしょうか」

「ああ、そういえば」


「それと、練習場は敵が移動してくるとか攻撃してくるモードとか無いんでしょうか?」

「確かに。普通はそうなってますよね」


「そーだよそれがあれば俺猪に轢かれなくてもかなめさんのスキル内容確認できたんだよ」


 ケイが口をとがらせている。


「でもお前のスキルは結局ダンジョン行かないと分からなかったと思うぞ」

「だって還矢かえしやの性能なかったら全員死んでたじゃん。おかしいってあれ」


「確かに……還矢かえしや含めて一層2エリア目の大猪の報告はした方がいいですよね」


 かなめが神妙に頷く。


「あと不具合っぽいのは……」

「あ! 思い出した! 俺の式神の攻撃がおかしいほど当たらない件」

「おかしいのはお前のスノボ(式神)だ。って言いたいとこだけど普通に選択できる以上は報告しておいた方がいいよな……」


 ジオが代表して、掻い摘んだ報告を送る事になった。ゲーム中の出来事は立体映像として残っているため、およその日時を報告すれば足りる。


 用も済んだので机の四人は解散である。


「ジオさんありがとうございました。楽しかったです」


 えにしはそう言って帰って行った。


「今日はありがとうございました。招待してきたプレイヤーと時間が合わず難儀していた所だったんです。ケイさんも体張ってもらっちゃってすみません……」

「え? いやいやゲームだし」


 かなめは深く感謝して去っていった。


「ケイはちょっと待て、この意図してた動作と違うっていうのはレコードで確認しても分からん」


 ジオが帰ろうとするケイを引き留めた。

 レコードはダンジョン内の様子を再生できる機能である。

 ケイはジオからどういう動作に違和感があったかなどを聞き取りされることになった。熱心なベータプレイヤーである。


 会話が流れていく。


 ― 式神使いって陰陽師でよくない?

 ― 陰陽師名乗るなら十二天将が無いのでやり直し

 ― 臨兵闘者的な必殺技が欲しいです死んでしまいます

 ― 器物使いと護符使い統合して片方自動操縦とかそういうのしてほしい。射程と火力が足りなすぎる

 ― 騎獣も単発火力がややマシ程度で徒士より弱いんです……救済ください

 ― 最弱不遇職


 ― 気軽に最弱不遇職名乗らないでください。薬師さんが息してないんです

 ― 薬師「アイテムを手に入れるためのアイテムが無い(遺言)」



「しかし、何で陰陽師じゃなくて式神使いなんだろ?」

「陰陽師だと術師との区別が付き辛くなりそうだからじゃないか?」

「あー、なるほど。でも式神と言えば陰陽師だしさ」

「どうなんだろうな? 呪術師もそれっぽいの使ってたし」

「そうなの?」


「昔々、陰陽寮ができるかできないかぐらいの時代。役小角えんのおづぬという呪術師が居た。

 不思議な存在を使役して薪割りや水汲みをさせていたと伝えられる。それを伝える続日本紀しょくにほんぎという本の文がこれ」


 『小角能役使鬼神』

 ジオがテキストを打ち出した。


「『小角おづぬは、役使えきしする、つまり命令して従わせることができた、鬼神を』。

 とも読めるけど、違う切り方もできる」


 『小角おづぬは、えきする、使鬼神を』


「……しきがみ?」

「本来は使鬼神しきがみだったのが、鬼の字を忌まれて式神になったんじゃないかとかね」

「マジで!?」

「ごめん適当言った。知り合いの素人が適当に考察したやつだよ。こういう話が好きなのが多いんだ」

「なんだよ」


 ジオは報告をまとめたらしい。


「ケイはどうする? 俺もそろそろ帰るけど」

「俺もうちょっとここに居る」


 今、最も活発に表示されているのは服装関連板である。

 関係ない小スレッドや個人間会話スレッドも、時折話に参加している。

 スレッドが並列しているので、隣の話題に反応する事もあるのである。


 ― とりあえず全員勾玉を付ければ大丈夫だ。というか俺が見たい

 ― 勾玉万能説!?


 勾玉まがたまをつけると何かとりあえず古代日本っぽくなる不思議な力である。


「そういや勾玉って中国とかに原型無いの?」


「朝鮮半島でも勾玉は見つかってるけど、日本の特産品を輸入した可能性が高いらしい。

 知り合いは縄文時代の人達が玉猪竜ユーズーロンを又聞きで聞いて作り始めたんじゃないかと言っていた」


玉猪竜ユーズーロン?」


「昔の日本の勾玉は棒状とか板状とか楕円状で、きれいな石に紐を通す穴をあけたって感じのが多かったんだ。大珠たいしゅとか。

 Cの字型の勾玉が出てくるのはおよそ縄文時代中期、紀元前3000年から2000年頃らしいんだけど、朝鮮半島の北西辺りに遼河文明っていうのがあって、そこの紅山文化っていうのが紀元前4500年頃から紀元前3000年頃。

 そこに玉猪竜ユーズーロンっていう祭祀用とか身分を示す用の装身具があった。

 当時もわずかながら交易とかやってたらしいから、「うちの偉い人はこれ着けるんだぜ」って言われたら、「わー便利、うちもやろう」とか、「なめられないようにうちの偉い人にもきれいな飾り作ってやろうぜ」みたいな話になるんじゃないかって。

 ま、あくまで素人の想像だ」


 ジオの適当な話を聞いている間もチャットは動いている。


 ― 和風ゲー得意な会社に菓子折り持ってってデザイナーさん貸してもらったら? AIがどんなに発達しても最後にアリナシを決めるのは人間のセンスだよ


 ― 学芸員さんを……学芸員さんを入れるのです……専門にもよるけど大体解決します……


 ― 和風っぽくした3D衣装大量生産するならミラクルアーティスト2のタタミナイズAIを導入するといいと思う


 ― 着物警察みたいなのは気にしないでいいと思いますよ

 ― 通りすがりの他人に因縁つける奴のどこが警察だ。チンピラだよチンピラ。何にこだわるかは個人の自由だが、死ぬならてめぇらだけで死ね

 ― 子供服売り場のマジックテープ甚平見て「最近の子は紐も結べないから~」とか言ってたジジババはマジで許さん。保護者の人に変に気まわさすなボケ今時はオートメーションが溢れかえってて子供服にも安全基準があるんじゃ。脊髄反射で人を不快にしとく暇があったら服ができた当時とは事情が違うって空っぽ脳みそに叩き込んどけ。ほどけた紐がエレベーターに挟まって絞め殺されかけた子も居んねんぞ

 ― あまり強い言葉を使うなよ。規制BOTが誤作動するぞ

 ― あんなに昔にこだわりたいなら一人でお歯黒でもつけてりゃええんだわ


 ― とりあえず国産じゃない物は全部禁止でいいんじゃないかな? バイクにショッピングカートにカオスになってるみたいだし

 ― スーパーカブ「許された!」

 ― 国産でもお前はだめだ


 ケイも無関係ではない。来たばかりで知られていないだけで、ホバーボードはやり玉に挙げられる側である。



「服装はあんま気にしなくていいぞ。ここに居る人ほとんどゲームやってなかったりするし。俺もこんな(スーツ)だし。俺はもう帰るけど、もし変なのに絡まれたら言ってくれ」


 ジオが立ち去った後、ケイは本棚に手を掛けた。

 棚に浮き出る検索窓に『服 和風』と入力。本を開くと関連しそうな過去のスレッドを検索してくれる。

 それに連動して豆本の様な形で同時期の関連が深いとされるスレッドが表示された。



 ― 着物が売れないから客単価上げる、選民思想的に着方にああだこうだ文句言うやつ増える、現代に馴染まなくなる、売れない、の負のスパイラルなんだよにゃー

 ― 単に現代風に着崩したやつに着物と名乗ってほしくはないって事じゃないの?

 ― 着物っていう普段使いの物を勝手に特定の時代で固定しようとする奴が悪いと思いますけど?? 伝統名乗るならせめて元禄着物とか明治着物とか名乗るのが筋じゃありません??

 ― 大正時代には普通にベルトで袴とめるからな


 ― でもそんなん言い始めたら元号+着物で糞ダサはっぴもどきを登録するパテントトロールが目に浮かぶよ~

 ― 特許庁がしっかりしてればいい話でしょ。今どき素人がちょっと調べれば分かるような事を怠って言われるがままに金の卵産む雌鳥絞め殺すような茶番劇を演じる経済産業省なんざ要らんのよ

 ― あそこも忙しいからな。ゆっくり確認してる暇なんてないでしょ。ただ、トロールにやられるよりはアドバイスぐらいなら無償で協力するって民間団体や企業も多いと思うんだけどね。コネクションの構築は難しいんかね?

 ― どうしてもコネクションを持つその団体が優位になっちゃう可能性があるからな~。状況によっては個人や零細が更に厳しくなるよ


 ― 伝統。正確性。どーせ200年後の歴史小説ではガングロルーズソックスのコギャルがスマホ使って2ch用語でラインやってる平成が描かれてるのに

 ― 古典の授業で○○構文で文章を作りなさいみたいな問題出てそう

 ― 実際知らないと暗号だからな

 ― gkbr

 ― ふろりだ

 ― ○○なう

 ― ここはどこ 石原峠の坂の下 足痛やなう

 ― 閑吟集!?

 ― なにともなやなう(仕方ないね)


 ― まぁ伝統を保護する大切さは論を待たない。

 特に服装は動きの制限に直結するから、伝統舞踊など以外にも、日常動作や生活習慣などの再現にも重要になってくる。

 正装は正しく着付けるから意味があるわけで、楽だから着崩すというのは意味がない。

 でも、その制限を現代生活の普段使い、特にゲームにまで適用する必要は見当たんないな


 ― 袍と裃、トンビコートや大正袴を見ればわかる通り、和服も進化の途中だったわけですよ。何でその先が無いと言い切れるのかが分からない


 ― ひだ飾りなら古今東西にあらぁな

 ― 半透明な感じのひらひらはレースなんじゃないの?

 ― 羅、紗、絽って、あるやん?


 ― 鞐なんかがとっくにあったのに、ちょっと産業革命が早かっただけでボタン留めとか諸々が西洋文化の専売特許扱いされているのがマジで気にくわない

 ― いやボタンは流石に西洋よ。小鉤があれから進化する余地があったかはちょっと分かんないけど

 ― 狩衣の留め具はほぼループボタンだぞ

 ― でも日本のボタン嫌い、筋金入りなんだよな。中国の紐ボタンも廃れてるし。水引とかあるからむしろ残って発達しそうなものなんだけど。あれ、なんなん?

 ― 日本の装飾品が壊滅した理由と一致してそうな気がするけど、それが何かは分からない


 ― 高温多湿で常にカビの危険があったから、怪我に繋がりそうな装身具や洗濯に向かない装飾を極限まで排除していった説を推す

 ― 同じく高温多湿のベトナムのアオザイは紐ボタンが使われているが……現代のやつの原型は18世紀からだったか? それ以前のアオザイの詳細や詳しいベトナムの環境を知ってる人居たら資料プリーズ

 ― 一方その頃日本では、根付が服の留め具にならないまま数百年が過ぎていた


 ― カビへの警戒だったなら西洋みたいに温水の洗濯機が普及しそうなもんだけど

 ― カビは60度ぐらいで死ぬけど胞子は100度でも死なないから費用対効果が薄いんジャマイカ? 西洋の多くは硬水で一度煮沸しないと石鹸の効果が薄いっていうのもあると思う。日本は軟水だから


 ― つまり……条件さえ揃えば和服にビキニアーマーが発生した可能性はある

 ― それはない


 ― お前らは何と戦ってるんだ



 純和風VRMMOにおける服装制限。概ね何でもアリ寄りで喧喧囂囂けんけんごうごうの様相である。


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