108.召喚の仕様
シアタールームで作戦会議中。
隙の無い大国主、少名毘古那の荒魂コンビ。
多様なスキルを使ってくる。
このゲームの設定では荒魂とは、戦争や災害に関わる神様の力の一面である。
その力の一部を戦闘で発散してもらう。という設定である。
ジオのレコードを確認した秀吾が誰にともなく言った。
「……大国主の建御名方のスキル、内容分かります?」
「敵感知でしょう?」
先程の戦闘で蒸気の中から矢を命中させてきている。
「あえてスキル名じゃなくて神様名で書いてあるじゃないですか。複数って事は無いですよね?」
「例えば?」
「この大国主の八千矛の追尾性能、建御名方のスキルなんじゃないかと思ったんです」
「ん?」
「だよねぇ」
「え? どゆこと?」
「八千矛自体はただの広範囲攻撃で、索敵と追尾性能に建御名方のスキルを使ってる?」
「はい、アンさんの鹿児弓、かなり燃費いいんです。
一方で八雷神とかが分かりやすかったんですが、追尾性能のある黒雷は消費が大きくて使用数を抑えられてる印象でした。
槌での召喚スキルは使う時に音がしますけど、使わない時は止めて燃費よくしてるのでは?」
「あ、はいはい! それに関しては音の鳴ってる間だけ使える説を出す」
瞬と鷹がレコードから顔を上げて声をかけてきた。
「今ちょうどレコードで確認してたんだけど、毎回大国主が槌を使ってMPを消費してる時間がほぼ一緒で最大約30秒。その間ずっと音が鳴ってる。
青柴垣も大物主の雷も、効果時間がそれぐらい」
と、ボス戦のいくつかの映像を出す。
「水夜礼花神は? あれ30秒以上出てたよね?」
疑問に鷹が答える。
「あれは一定の効果だけ残留するタイプじゃないでしょうか。国造とかスキルを停止した後も岩が残りますし、火雷でも火が残ってダメージになりました。それと一緒でスキルが止まっても影響が残るタイプなのでは?」
そこで水夜礼花の氷結する効果時間が時間が30秒なんじゃないかとレコードで確認していたわけである。それを過ぎたらスキルで除去できるかもしれないという考えだ。
「ああ、なるほど。そう考えると、最後に連続して建御名方呼んでたのもそれか。スキルと合わせるため」
「そういえばそうか」
しかし異を唱えたのがアンである。
「でも私のスキル、他人のスキルにかかりませんよ?」
「ああ、須佐之男戦でアンさんがバフ撒いてくれてたんだけど、天照撃った時にも追尾は付いてない。凪枯が押さえてる所に当てるのに焦った記憶ある」
紫苑が証言する。
「ボスとプレイヤーで仕様が違うのかも」
同名スキルで効果が違う。道敷大神などが典型である。
「天照には適用されないのかもよ? 真っすぐ降るレーザーみたいなもんだし」
「普段の術師の時は追尾性能掛かってるとどうなるの?」
「結構手軽です。一度視界に入るとVR機器がプレイヤーの意図を汲んでロックオンが成立して、後は大きくずれても標的に向かって飛んでいってくれる感じですね」
「ああ、その辺の処理はSF系のゲームで磨かれてるから」
「標的から外れる時は?」
「途中に障害物があって射線が切れちゃうと標的から外れちゃいますね。ある程度見えていれば曲射でもあたるので、私は意図的に切らない限り標的は外れません」
アンの話を聞いて何人かが頷く。
「そういえば八岐大蛇戦のリスキルはそうやったんだった」
アンはLv1のパッシブスキルの恩恵でよほど遠くない限り敵を見失う事が無い。
そのため一度鹿児弓を発動すると、敵がどう逃げても追尾性能が消える事が無い。
途中で障害物に当たって消える可能性があるぐらいである。
その辺の認識のすり合わせが終わった後、ふと考え込んでいたソライロが声をかけた。
「……須佐之男戦の後アップデートありましたよね?」
一階層。
ケイ、紫苑、凪枯、アンのパーティーがスキルの検証に来ていた。
追尾スキルの検証をするには練習所と練習用ダンジョンは狭すぎたのである。
「普通に出たな、ターゲットアイコン。追尾性能ちゃんと動いたし……」
「須佐之男戦で欲しかったこれ」
前衛二名、MPがほぼ枯渇してシキの上で日向ぼっこ状態で運ばれている。
スキルに追尾性能が乗るのを確認できた後である。二人とも一撃必殺級スキルなのでほぼMPが枯渇している。
力尽きてる二人に横を歩くケイが声を掛けた。
「一直線に緑火鳥居向かうから我慢してくれ」
「そこは心配してない」
「お任せするよ」
一方でアンは近づいてくる八十禍に対し、片っ端からサーチ&デストロイ敢行中である。
薬師からもらった爆弾が爆発した。
「やっぱり投擲アイテムも追尾性能付きますね。これは便利かもしれません」
一階層で敵の位置が分かるパッシブスキル持ち、追尾命中スキル発動中。なのでケイがスキルで敵を引き寄せても何も問題は無かった。むしろ検証が捗っている。
緑火鳥居を通り抜け、町に戻って拠点に報告に行く。ちょうど拠点の練習用ダンジョン前にジオが居た。
「ケイ達も今検証終ったのか。どうだった?」
「例によってサイレントアップデートだわ」
「スキルにも投擲にも追尾性能が乗るようになってますね」
アップデート後に突然道敷大神の仕様が変わっていた前科のある運営である。
「ジオどうだった?」
凪枯が尋ねる。
「うん、アイテムでも行ける」
そう言って投擲武器を取り出した。
「ありがと、こっちは罠の検証できなかったんだよね」
「罠が見つからなかった」
「じゃあ後は練習用ダンジョンで、スキル攻撃で壊せるかどうか……」
「とにかくこれでボスの能力と対策にある程度当たりがついた。連携スキル持ちは紫苑だけだから、紫苑検証頼んでいいか?」
「あ、うん影助呼びにいかないと」
「さっき何人かでどっか行ったけど?」
一方、凪枯が聞いてきた。
「瞬さん鷹さんのコンビ居る?」
「鷹さんだけならシアタールームでレコード確認してるの見たけど?」
「もし連携スキルで行けるならもしかしてと思ったんだけど……」
と、そこに影助と瞬、そして縁と翡翠がやってきた。
「あれ? 珍しい組み合わせ?」
「いや、瞬が縁さん達に無茶言って」
「いえ……検証は大事ですし……」
影助の物言いに縁が庇うような言い方である。
そこにたまたま鷹がやってきた。
「何してたんですか瞬」
「ボスの社の土台、初手で崩せないかって実験して」
社の土台に攻撃を加えた所、縁達のスキルは国造で隆起を止められた上に八千矛で一方的に撃退されたそうである。
なお、影助のパッシブスキルのお陰で経験値ペナルティは受けていない。
「……大国主滅多な事じゃ降りてこなそうですね」
「……ボスのスキルとかち合うとやっぱこっちが負けるんだ……」
検証も済んだところでボス戦である。




