表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/132

107.対策会議中

大国主おおくにぬし少名毘古那すくなびこな荒魂あらみたま同時に相手しないといけないって事が確定したわけだけど……」


 このゲームにおける荒魂あらみたまとは、災害や戦争に関わる神様の力である。

 その力の一端を戦闘によって解消するという設定である。


 一通りボス戦のレコードを確認したところで、シアタールームで作戦会議中である。


八千矛やちほこ二種類ある。広範囲に降らす追尾攻撃とやや範囲の狭い高威力追尾攻撃。

 ボスの動きを見れば対処はできるけど、遠くにいる人も一瞬矢を警戒しないといけないのがしんどいな」


 矢を上空に射る動作と剣を地面に突き刺す動作である。予備動作自体は分かりやすいが、遠くに居るプレイヤーもスキルが出たらとりあえず上空を警戒しないといけないので非常に厄介である。


「上からか下からか判断しないといけないからな、罠設置から攻撃発動まで間が無いし」

「墜落中には避けられないな。まず社まで上っちゃダメなんじゃないか?」

「下からスキルで撃つ?」

「当てられるとも思えない」

 一撃必殺スキル持ちの紫苑しおんのコメントである。


「最初に社の土台壊しちゃうとか?」

天狗あまつきつね止めたのは……ド初発で社が壊れるのを避けたんじゃないかな?

 事代主ことしろぬしのスキル使えるっぽいから防ごうと思えば大抵の攻撃は防げると思う」

「やっぱりこの防壁は青柴垣あおふしがきだよな」


 そのシーンの映像を流しながら確認する。

 最初にしゅんが切り込んだのを止められた場面である。まだ鑑定されていないのでスキル表示が出る前であった。


事代主ことしろぬし建御名方たけみなかたのスキルは使って来るとして……」


 一方、もう一つは凪枯ながれのスキルが止められたシーンである。


凪枯ながれのスキル止めるのに召喚されたのは二度とも八束水臣やつかみずおみ津野命つぬのみことでいいのかね?」

「最初のはスキル名出てないけど、そうだと思う。確認する限り似たような入道型のもやが出てるし」


 ぼんやりとした靄が現れてスキル名の代わりにいずれかの神様の名前が表示されるものである。プレイヤーが勾玉使用で分御霊わけみたまのスキルを使うのと表示が似ているのと相まって、現状プレイヤーの間では召喚呼びで定着である。


 例によってケイが端っこでジオをつついていた。


「なぁなぁジオ、何か聞いたことある気がするんだけど長い名前のみことって神話に居た?」


八束水臣やつかみずおみ津野命つぬのみことか?

 出雲国風土記いずものくにふどきの国引き神話っていうのに出てくるんで有名なんだ。あちこちから陸地を引っ張って来て島根半島を作ったっていう神話」


「ああ、だから隕石叩き落せたのか。神様割と気軽に山とか島とか動かすよな」


「国引き神話は色んな地域に言及してるんだ。うちはあちこちから人が来てますとか、交流がありますとか、そういう地域があるのを知ってますみたいな、コネクションのアピールだったのかもね」


「ああなるほど」


八束水臣やつかみずおみ津野命つぬのみことは、確かに古事記と日本書紀には出て来ない。だけど古事記の須佐之男すさのおから大国主おおくにぬしまでの系譜の中に淤美豆奴神おみづぬのかみっていう神様が居る。

 意美豆努命おみづぬのみことって異名もあるのでこの神様だとされている。大国主おおくにぬしのおじいさんあたりだったかな?」


「ふーん」

八岐大蛇やまたのおろち戦で荒魂あらみたま推測したときにでかい神様って事で名前が挙がった気がする。長い名前だったからぼんやり覚えてたんじゃないか?」



 作戦会議の内容は少名毘古那すくなびこな対策に移っている。


少名毘古那すくなびこな戦では状態異常の煙玉や爆弾を大量にばら撒かれる。八十禍やそまがつも呼びだすから、前衛が厚くないと後衛が危ない」


 鉄人てつととしてはもう少し前衛が欲しかった所であった。

 ソライロが相対した感想を述べる。


「術だけじゃ多分仕留められないかもしれません。アンさんの追尾スキルでも全部止められてました」

国造くにつくり上手く使って防いでたよ」


 翡翠ひすいの見立てである。


「このボス戦に来てくれそうな術師の人、あとかえでさんぐらいだもんな……秀吾しゅうごはどっち行くにしても防御担当してもらわないといけないし」


「前衛を少名毘古那すくなびこなに投入した方がよかったんじゃないか?」

 鉄人てつとが首を振った。


「すげーちょこまかしてるから騎士の攻撃はマジで当たらないぞ。

 レコード見てもらいたいんだけど、攻撃を木槌で防いだうえで飛んでっちゃうからダメージ入ってないっぽいんだ。ビーチボール叩いてるみたいな感じ。

 俺とソライロの連携スキルも反撃されることが確定だし、役に立てそうにない。

 ようさんなら当てられる?」


「ちょっと難しいですね……」

凪枯ながれが押さえるって事は無理か?」

「これ捕まるかなぁ……」


 そんな折、ケイは端っこでジオを突いていた。


「なぁなぁ、この少名毘古那すくなびこなのスキルの手俣久岐斯子たなまたよりくきしこって何?」


 連携スキルに反撃してきた爆弾ばらまき花火である。


「古事記では少名毘古那すくなびこな神産巣日かみむすびのかみの子供で、神産巣日かみむすびのかみの手の俣、指の間をすり抜けて地上に落ちたと言われてるんだ。

 日本書紀では高御たかみ産巣日むすびのかみの子で、落ちた理由が一番やんちゃだったからって説明されてる。その辺が由来じゃないかな?」


「スーパー暴れん坊だよ。酷い目に遭ったぞ」



 一方で議題は大まかな方針決めに移っている。


「まずこれ各個撃破するべき? 同時に相手するべき?」

「相性とかあるだろうけど、俺たちの中には強力なスキル持ちは二人も居ないしな。二手に分かれて両方倒せそう?」


「今回で少名毘古那すくなびこなやしろまで移動してくることは分かったけど、少名毘古那すくなびこなに集中したら大国主おおくにぬしは出てくるのかは気になる」


大国主おおくにぬしは遠距離攻撃があるから、やしろからは動かないんじゃないか?」

少名毘古那すくなびこなやしろで奇襲してきた時どこに居たの?」

「鳥型の禍津日神まがつひのかみに乗って上空に来てた」

「マジか、気付かんわ」


 数人が思わずレコードを確認した。


思金神おもいかねのかみと同じか? 八十禍やそまがつ操るスキルある?」


「けしかけるとか乗って望みの方に行く程度の大雑把な指示はできるっぽいけど……特に大規模に連携して襲ってくるってことはないみたい。数体に簡単な指示ができる騎獣って感じかな?」


「この爆撃も結構重かったんですよね」

 足場の都合で防御スキルを破られた秀吾しゅうごが呟く。

「薬師の爆弾って何やかんや強いからな」


 遠距離からスキルを撃ちこめる大国主おおくにぬしと神出鬼没で状態異常と爆弾をばら撒く少名毘古那すくなびこなである。


少名毘古那すくなびこなを足止めして本命大国主おおくにぬしを先に撃破、かな?」

「両方とも回復スキル使える事を考えると怖いな。片方に逃げ回られたら撃破してもサクッと復活されそう」

「復活対策も考えないといけないのか……」


大物主おおものぬし対策は秀吾しゅうごに頼るしかないから秀吾しゅうご大国主おおくにぬしに行ってもらうべきだろ」


手俣久岐斯子たなまたよりくきしこもなかなか回避難しいんだけど……秀吾しゅうごさん二人も居ないからねぇ」


大物主おおものぬしはむしろ全力で階段降りれば何とかならない? 飛び降りるとか」


「スキルの予備動作から発動までがこんぐらいで範囲がボスを中心としてこんぐらい、この時間ケイ達が自由落下した距離がこんぐらいだから……ちょっと難しいな」

しゅんがスキル全開で逃げれば避けられるぐらい」


 社の階段や柱の形からおおよそのスキルの範囲とプレイヤーの移動可能距離を概算してみている。


 狭い足場での逃げ場のない巨大雷撃である。ケイと小春こはるが回避できたのは偶然であった。スキルの兆候が出る前に動かないといけない。

 赤裸裸せきららが皆に声をかける。


「それはそれとして、大物主おおものぬしの攻撃エフェクト、ちょっと光過敏性発作起こりかねないので運営に連絡入れていいですかね?」

「やっぱり?」

「あ、お願いします」


 チカチカした光で脳波異常が誘発される現象である。刺激の感受性は個人差があり、これの発見はベータテスターのかなり重要な役目である。


「エフェクトの密度とかいじっただけで、VR視点でチェックしてないのかも」

「これこそ自動化して警告出すようにすべきだよな」

「動画制作ソフトには標準でついてるんだけどねぇ、強点滅刺激の警告機能」


 VRだと様々な視点があるため完全チェックが難しいというのもある。



「えーと、話をボス戦に戻すと……どこだっけ?」

「この深淵之ふかぶちの水夜礼花みずやれはなのかみって分かんないんだけど……」



「俺だけじゃなかった」

 ケイが呟いた。

「誰か分かる人居る?」

 呼びかけに対してケイがジオを見た。


「……俺も須佐之男すさのおから大国主おおくにぬしまでの系譜の中に出てくる神様って事しか分かんない」

「この神様も大国主おおくにぬしのとこの神様なんだ?」


「名前だけしか出て来ない神様のはずだから、このゲームの運営の脳内当てで能力を推測するしかないな」

 分かんないから月読つくよみに時間系、天津甕星あまつみかぼしに重力系を当ててくる運営である。


淤迦美神おかみのかみの孫、大国主おおくにぬしの先祖にあたる神様のはずです」


 口を開いたのはようである。


龗神おかみのかみは雨雪を司る竜神という説があるので、氷系と考えれば、あのスケートリンクみたいになった能力と考えていいのでは?」


「そうなの?」

 ケイがジオに聞く。


「……一説によると火之迦具土ひのかぐつちが死んだときに生まれた神様の一柱が闇淤迦美神くらおかみのかみとか高龗神たかおかみのかみっていって水に関係する神様とされる」


「え? 火之迦具土ひのかぐつちに関係あんの?」


「それが分かんないんだ。名前だけしか出て来ないから。

 淤迦美神おかみのかみの娘が日向ひなたの日に河と書いて日河比売ひかわひめって言うんだけど、これが本来は氷の河という意味の氷河ひかわじゃないかと言われてたりする。

 そのせいなのかは不明だけど、古事記の大国主おおくにぬしの系譜は水や氷雪を連想する名前の神様が多い。淤美豆奴神おみづぬのかみだって水の意味があるとされてる。大国主おおくにぬしの親、天之冬衣あめのふゆきぬは冬服の神様って解釈が一般的だけど」


「そうなの? 天之冬衣あめのふゆきぬ雪っぽい。綿帽子って言うし。もしかして大国主おおくにぬしって水、氷属性一家?」


「その理屈で行くと大国主おおくにぬしの先祖に当たる須佐之男すさのおの子の八島士奴美神やしまじぬみのかみは地属性かな?

 布波能母遅久奴須奴ふはのもじくぬすぬのかみが不明だけど、ぬなのもち、沼持ぬまのもち国砂くにすのかみって説を言ってる奴は居たな。須佐之男すさのお周り調べてた月読つくよみ推しの事だけど。

 この世代辺りから沼のほとりに住んでて、土器の材料の泥に偶然湖沼こしょう鉄が混じって野だたら製鉄の原型になった説」


「コショウ鉄?」

「鉄バクテリアが作る鉄分を多く含んだ泥。古代から赤色の塗料に使われてたらしいんだけど、比較的低温でも製鉄できるとされてる」



「この氷ってスケートできる奴なら動けたりしねぇの?」

 貫名かんなが前衛組に聞いている。


「俺スケートで移動するぐらいならできるけど立てなかった。何か足を取られる」


 しゅんが自己申告する。どうやらただの氷ではなく、プレイヤーの行動を阻害する効果がある。


「スケートできても好転はしないか……凍ってんだからな……」

「滑ってますな貫名かんなさん」


「ケイー、ジオー、最初に入ったのお前らだっけ?

 レコードある?」


 しゅんが声を掛けてきた。

 作戦会議はまだ少し続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ