106.なかなかひどいやられ方
ベータテスト初となる二体同時出現のボス。
今回は攻略前準備として。二体のボスの鑑定を目標としていた。
ケイ達と別れたその後の前衛組の展開である。
ボスのスキルで社の周りが氷結し、プレイヤーの行動を阻害している。まともに動けるのは忍者と式神だけである。
そこで考えられたのが、ボスが別のスキルを使ったら溶けないかという事であった。
凪枯が拍手を打つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【天津甕星 天狗】
【崩彦神 崩彦ぞ必ず知りつらむ】
【二神連携 瑞穂の祖神】
【少名毘古那神 手俣久岐斯子】
「え?!」
「今めっちゃスキル被らなかったか?」
轟音が空の彼方から響いてくる。凪枯のスキル、天狗は隕石を呼び出すスキルである。
狙い通りボスが槌を振るう。
【 八束水臣津野命 】
天狗の隕石がボスのスキルで強引に軌道を変えて落とされる。高層にある社も大きく揺れた。
「当てが外れたな。氷は溶けないか」
凪枯がMPを消耗してへたり込む。もともと、ボスのスキルを解除するために使ったものである。
「いえ、分かりません」
凪枯の横で鷹が拍手を打つ。
【経津主神 布都神】
一方で鷹の布都神の熱線が氷を溶かし、辺りが蒸気に包まれた。
「溶けた?」
「恐らく」
しかしほぼ間髪を入れずに蒸気の中から槌の低音が聞こえる。
【 建御名方神 】
「いっ!?」
「うわ!」
煙の向こうから矢が飛んできた。
「蒸気が目隠しになって撃たれてる!
『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【建御雷神 建御雷】
【思兼神 八意思兼】
瞬の電撃が蒸気の中を切りつける。やはり一部の氷が溶けて湯気が上がる。が、手ごたえがない。
「どこ行った?」
「屋根!」
ジオの声が響いた。ボスが社の屋根に立っている。
瞬が剣を振りかぶった。
同時に、ジオの目にはプレイヤー達の居る全域がまだらに攻撃範囲に入ったのが見えた。
「上! 攻撃が来る!」
突然の事でジオがまともな警告を発する暇が無かった。間を置かずに空から小石ぐらいの何かが降ってきた。
あちこちで爆発が起こる。
「~っ! 視界毒と麻痺毒か……!」
片足に力が入らないらしく、瞬が倒れている。身に着けた道具から状態異常回復薬を探していた。
少名毘古那の乱入。ピンポイント爆撃であった。
ただでさえ多様なスキルに翻弄されていたところでボスへの対応が完全に止まる。
何より度肝を抜かれたのは。
「傾いてる??!!」
はっきり分かる速度で足場が傾いていく。
「……古代出雲大社、よく倒壊してたとはいえ流石にネタにするには黒過ぎませんかね……」
ジオは蔵面で表情の分からないボスに思わず呟いた。
「まずい! 氷溶け切ってないから……!」
ジョブによっては90度の壁でも走って上れるゲームだが、ボスのスキルで張られたこの氷は話が別である。ボスが手を下にかざした。
【二神連携 国造】
「うわっ」
ボスのスキルで揺れに足をとられる。山のような岩が隆起してきて、社の不安定さが増していく。
ボススキルの氷は先ほどの攻撃でも完全に溶かし切れておらず、むしろ罠のようにあちこちに点在している。足を取られてまともに動けない、というより状態異常と相まって滑落しているメンバーが居る。矢継ぎ早に異変が起こりすぎて混乱が起きている。
【大国主命 八千矛】
ボスが矢を頭上に射上げると、空一杯に罠アイコンが点灯した。
そのアイコンから無数の矢が降ってくる。
前回の脱出時にケイ達が受けたものである。
ボスのスキルには追尾性能。プレイヤー達は状態異常か自由落下の真っ最中。この悪条件で避け切れた人は居なかった。
矢の雨の直撃を食らい、なすすべもなくダメージを受ける。
秀吾の防御スキルが使えない。場所に設置するという性質の為、崩れる足場の上で使えなかったのである。
「影助さん! みんな生きてたら連れて帰ったげて!」
レイが騎獣のシューティングスターごと影助を遠くに放り投げた。
結果的にこの判断は正しかったと言える。
再び槌の音が響いた。
【 建御名方神 】
そしてボスが隆起した岩の上で剣を地面に突き刺すような動作をする。
【大国主命 八千矛】
地面に大量に現れた罠アイコンから光の刃の様なエフェクトが飛び出し、狙い過たず手近なプレイヤーに向かってくる。
複数のレコードから検証するに、恐らく矢と違って範囲が狭い代わりの高威力範囲攻撃。この一撃で前衛チームは全滅した。
「古代の出雲大社、倒壊エピソードが多いとはいえ大丈夫なブラックジョークなのか? 大黒天なだけに」
シアタールームで一部始終見た貫名がコメントする。
ブラックジョークと大黒天を掛けるのはちらっと頭の隅で思っていた人も居たが、スルーである。
「……大国主の対策ある?」
「少名毘古那も結構大変だったんですけど……」
ベータテスト初、連携するボスである。