104.無事帰還
「落ち着いて! 罠のアイコンついてるから見て回避できる!」
「落ち着けって言っても……!!」
上空のボスから繭玉の様なものが空一面にばらまかれ降ってくる。
小春のスキルで罠アイコンとして表示が浮かんでいた。
避けようとそれを凝視していたプレイヤーは、瞬間、目の前で炸裂し何も見えなくなった。
「目くらまし!?」
視界が奪われた所に光や煙とともに何かがバラバラと地面に落ちる音。
そして炸裂音。
ボスの罠ばら撒きスキルである。
「やべ麻痺毒かこれ?!」
「はっくしゅん!」
「八十禍混じってる!」
「それ爆弾です気をつけて!」
「うわっ」
目くらましと煙幕と状態異常の煙玉と爆弾と八十禍の弾幕爆撃である。
ボス戦。本腰を入れた攻略の前準備として目標であった二体のボスの鑑定が済んだ。
撤退のためにボスを止めようとしたら、対抗して使って来たスキルでこの惨状である。
ソライロも鉄人も爆発で吹き飛ばされ、とっくに瑞穂の祖神の効果は切れている。
「アンさん! ボスどこ?!」
「すみません。混乱を食らった様です。少し待ってください」
「死んでる人生き返らせないと!!」
後衛が多かったため、爆発によりHPが尽きた人もいる。
粗方立て直しが終わって全員で辺りを見回す。
「ボスどこ行った?」
「追撃されなかったのは不幸中の幸いだけど……」
その時、例の地鳴りの様な音が響いた。
【 建御名方神 】
「さっきから色んな神様の名前が出てるんですが……まさかボス三体以上居るんじゃないですよね?」
聞かれたケイが首を振る。
「何か大国主のスキルっぽいんだけど、俺らも途中でこっち来ちゃったから」
【二神連携 国造】
「え?!」
全員が縁と翡翠を見るが、二人はもちろん何もしていない。首を振る
「じゃあこれ、ボスの連携!?」
【大国主命 八千矛】
「え?! ちょっと!」
頭上に無数の罠アイコンが点灯する。
おそらく前回ケイ達が受けた追尾攻撃である。
「上から追尾弾が来る! 出来るだけ避けて!」
「無茶な……!」
ケイとソライロが護符型式神を展開したが、とても守り切れずに何人かに当たる。
慌てて回復をしようとしたその間にもスキルが表示される。
【 建御名方神 】
「まさか……」
【大国主命 八千矛】
「追い打ち!?」
全員が身構えた。しかし何も起こらない。
何だったのかと顔を見合わせた所でケイのスキル表示が変わった。向こうに居た全員の表示が一気に白い火に変わったのである。
「え?!」
前衛組全滅ということになる。
「どうする?! 助けられそう?!」
「楓さん居ないんだっけ」
「影助が落ちたならその時点で撤退した方がいい」
【少名毘古那神 薬湯】
これもボスのスキルである。やはり回復は使えるらしい。
「とにかくこっちも回復回復!」
「あの、社無くなってません?」
「へ?」
社があったはずの場所に土煙が舞っている。
呆然としている所に白馬が一騎、駆けて来た。
「シューティングスター?!」
「レイさん? じゃないね、服が黒っぽいもん」
乗っていたのはHPダメージでほとんど動けない影助である。
「前衛の救助は無理。俺が生きてる内に撤退しろって」
つまり影助のパッシブスキル、やられた時のペナルティ無効の事である。
「っと」
影助が地面に落ちた。レイが退場してシューティングスターが消えたのである。
「えーと、俺、鉄人、ソライロ、ケイ、翡翠さん、アンさん、サラさん、小春さんで八人か。
……ケイ、悪いんだが」
「そりゃ一番目立つ奴が殿やるのが一番だけどさ!」
絶賛、樹上から爆撃を受けているケイ達である。
ケイのスキルのせいでどう逃げても追って来られる。
「悪かったって。本当は回復役も連れて来たかったんだが」
「それだと俺か影助がシキに咥えて運ばれないといけないだろ。っふ!」
森の向こうから飛んできた矢を器物型式神で弾く。影助も同じように追いすがってくる八十禍を切り捨てた。
「ケイすごいな」
「影助こそ、いつも殿こんな事になってんの?」
「こんだけ修羅場はあんまりないな……と、そろそろ皆脱出する。スキル消して鳥居に向かってもいい頃だ」
影助がケイのスキルを見て判断する。
「了解」
ケイは急速にシキのコースを変えた。
先ほどまでは脱出する皆にボスを近づかせないようにルートが限られていた。
騎獣が全力で走れば少名毘古那を引き離せる事は前回で実証済み。このまま撒いて脱出である。
ただしスキルはまだ消していない、ケイが脱出経路を把握していないからである。
この状態で気をつけないといけないのはボスのスキルであった。
例の遠雷の様な音が鳴った。
【 建御名方神 】
「げ!」
【大国主命 八千矛】
上空から降る閃光を何とか躱し、防ごうとする。しかし、これに被弾して全回復できていなかったHPの影助が力尽きた。
「影助!? ちょ、まだ緑火鳥居遠いんだけど!?」
見る限りは味方は全員鳥居を通れたようである。
一方、ケイに回復薬は残っていない。森の中を駆ける間に1分経ち、影助が退場した。
再び響く低音が鳴った。緑火鳥居まであと少しという直線である。
【 建御名方神 】
【大国主命 八千矛】
ケイは神経を集中させる。
次の瞬間、気配を感じたケイは諦めた。
「あ、これ死んだ」
四方八方の地面から閃光に貫かれ、視界が暗転する。
「ケイ!?」
「うわー絶対ダメかと思ったのに!」
次の瞬間聞こえたのは他の皆の声である。
目を開けるといつもの広場であった。