103.一当て
ボスエリア。今回の目標は本腰を入れて攻略する前準備。二体のボスの鑑定である。
騎士のジョブを先頭に長い階段を駆け上っていた。
徒士・忍者のジョブは柱を上れるため分散する事も考えたが、ボスにはケイ達が食らった例の追尾弾が降ってくるスキルがある。少なくとも初見では防御スキルの使える秀吾の側に居た方がいいという判断である。
頂上から矢が飛んでくるが、先頭の赤裸裸が払い落す。同時に一団の後ろの方、シキに乗ってついて来ているであろう小春に声を掛けた。
「小春さん、ここから鑑定できますか?」
「試してみる!」
小春の前に乗っているケイが邪魔にならないように心もち頭を下げる。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【崩彦神 崩彦ぞ必ず知りつらむ】
「いや違うから! 調べたいの大社じゃないから!!」
「社鑑定されちゃいましたか」
「もうちょっと近づかないとダメだこれ~」
珍しい鑑定失敗である。
「先に切り込んで矢を止める」
鷹の後ろに乗っていた瞬が声を掛ける。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【建御雷神 建御雷】
その時、例の地響きの様な音が響く。
音に構わず突っ込んだ瞬の攻撃が頂上付近で何かに阻まれた。
「……青柴垣?」
薄く光る緑の枝の様な防壁。秀吾のスキルによく似ていた。
その先に人影が立っている。
こめかみの辺りから生えた角。顔は真っ白の蔵面で隠れていた。
艶やかな黒髪に、細く引き締まった若い男性の様な体格。服は黒の狩衣様の服。
手に弓、腰に太刀。背後にも何か黒い棒状の武器を背負っているように見える。
「前回のボス戦ですげー見たことある弓と剣……」
そこで追いついた一行の小春が拍手を打つ。
このゲームにおける荒魂は、災害や戦争を担当する神様の一面である。その力を安全に発散させるために戦うという設定だが、鑑定せずとも見て分かることも多い。
しかし鑑定で分かるのはボスの名前だけではない。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【崩彦神 崩彦ぞ必ず知りつらむ】
「鬼型大禍津日神!
大国主命荒魂!
そしてもういっちょ!」
小春が再び拍手を打つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【崩彦神 尽に天の下の事を知る】
ボスのHPMPが出た。ケイと小春は折り返す。
「あと頼むぞ皆!」
「マジでこっから降りんの?!」
「私だって怖いわ! できるなら階段で降りてほしい!」
スキルを表示させるには少名毘古那の方も鑑定しないといけないので大急ぎでそっちに向かわないといけないのである。落下ダメージが無いとはいえ、結構怖い。
ケイの少しの躊躇の後、シキが階段を踏み切って飛び降りる。
風圧がかかる最中、例の遠雷の様な音が響いて来た。
「え?」
【 大物主神 】
同時に頭上の社を取り巻くように巨大な雷が走る。
「ええええええ!?」
ジオ達は秀吾の防御スキルに守られて無事だった。しかし雷光が辺りを包み、ほとんど何も見えない。
「ケイ達、タイミング的に今のに巻き込まれたんじゃ……」
「んー……あれケイの支加のスキルじゃないですか?」
雷嵐の先、赤々と浮かぶ火の玉が見えた。ケイのスキルである。どうやら無事らしい。
ケイ達は間一髪で攻撃範囲から逃れたのであった。落下の衝撃は巨大雷球のショックで消えた。
「赤裸裸さん達大丈夫かな?」
「秀吾も居るし、感電食らっても状態異常対策はしてたから大丈夫だろ。ほら、死んでる人居ないし」
と、ケイはスキルに表示されている味方の位置を指して示す。確かに金色の火の粉のままである。HP0の白い火の表示に変わっている人はない。
ケイ達は少名毘古那と戦っているであろう後衛組の方に向かう。
途中で前衛組のスキルがいくつも表示されたので、無事なようである。
森の中。身長30センチほどの鬼型ボスに向かって飛んでいく術。それはボスの振り回した木槌に阻まれた。
「当たりませんね。標的に対して盾が大きすぎます」
「曲射も混ぜてみましょう。アンさんのスキルで当たりますから」
追尾スキル鹿児弓はとっくに使っているのだが、ことごとく防がれている。
術師二人が曲射も織り交ぜ、複数方向から術が向かうと、ボスは当たる直前で後ろに跳ぶ。ボスの居た所に岩が突き出てきて全ての術を止めた。
ボスの足元の地面も浮き上がり高台になる。そこからボスが木槌を振りまわすと、大小複数の影が飛び出す。
木槌から現れて地面を向かって来る狼型八十禍達。
そして乱れ飛んでくる小石のような物がある。いくつかは真っすぐ、そしていくつかは山なりに何かが飛んできた。
「大薙!!」
鉄人が斬撃で狼と正面に飛んできた物体を落す。地面に落ちて爆発したが、正面から飛んできた物体は恐らく状態異常を起こす煙玉であった。
山なりに飛んできた方はソライロが護符型式神で受け止めるが、それが爆発した。ソライロに大きなMPダメージが入る。
「うわっ!」
「下がって回復してくれ! 俺が受けるから!」
「八十禍は術師が引き受けます!」
アンと縁も声をかける。
「いっそ忍者の方が相性がいいかもしんない」
「待たせたな!!」
「……忍者じゃなかったな」
鉄人のぼやきに応えたのは小春である。
「何だい? 随分苦戦してるな」
「鑑定待ちだったからな」
ケイ達がいつ来るか分からなかったため、MP温存しておいたのである。ボスをずっと止めて置けるほど大量の回復薬は持ってきていない。
「ただ正直危ない。鑑定したらすぐに連携で動きを止める。このままだと撤退も危うい。ケイ、悪いがソライロの代わりに盾役頼む」
「そんなに?」
ケイが驚いた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
小春に合わせてソライロと鉄人もスキルを準備する。
【天津甕星 天狗】
「!?」
全員がスキルを使おうとする直前、別のスキル表示があった。
大国主と戦っているはずの凪枯の大ダメージスキル。本日二回目である。
向こうもかなり派手にやっているらしい。
【崩彦神 崩彦ぞ必ず知りつらむ】
「鬼型大禍津日神!
少名毘古那神荒魂!」
「二神連携!」
【二神連携 瑞穂の祖神】
「え?! ボス飛ぶの!?」
連携スキルの風に巻かれ、超小柄な鬼型大禍があっという間に上空に吹き飛んだ。
普通ボスは動きが鈍ることはあっても吹き飛びはしない。
「あ、いやまずいかもしんない!」
声を上げたソライロの脳裏に浮かんだのは。素戔嗚が風を利用して立体的な攻撃を仕掛けてきたことである。
【少名毘古那神 手俣久岐斯子】
スキル表示と同時に何かが高速で空に撒かれ、風に負けずに降ってきた。