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100.小さい

「……でかくね? さっきから歩いてるのに全然着かないんだけど」


 建物を見上げたケイが呟いた。


 新しいボスエリア。辺りの様子は二階層相当、いくらかの草地と多少高低差のある、見通しの良い明るい森である。

 そこに立つ複数の巨大な柱で支えられた上に建つ建造物。そこに向かってやはり柱に支えられた階段が伸びている。


「てゆーかさっきの話からすると、これ実在するの? こんな神社あったっけ? 清水寺並に画面映えしそうだけど見た事ないんだけど」


「この古代出雲大社は現存しない。あとVRだからか明らかに規模大きくなってるな」

「何の神様?」

「ほぼ確定で大国主命おおくにぬしのみこと


 ケイがえにしを見ると、そちらはサラと地面の何かを見ていた。素材を採取している様である。


「……こんなん古代に建ってたの?」


「古事記で大国主おおくにぬしが国譲りする条件に建てさせたとされる社だよ。

 上古出雲大社は高さ100メートル近い巨大建築って伝説だけど詳細不明。

 あそこに建っているのは平安時代頃のものとされる出雲大社を大きくしたもの。伝承によれば高さ約50メートル。図面や伝承からシミュレートした結果、大木を三本、金属で括って一本の巨大な柱にしてたって説が出た。

 それを裏付けるように巨木を三本束ねた土台が発掘されたんで、そういった束ね柱を使った建築が実在した事はほぼ確実。ただし実際の高さや大きさは不明だそうだ」


「へー…………でも大丈夫なのあれ? 古代も地震あったんだよね?」


「言いたいことは分かる。実際に何度も倒壊して建てなおしてる。というか前後に災害の記録が無いんで自壊したという説があったはず。記録に残ってるだけで200年に7回とかだったかな?」


「大体30年に一回? 何でまたそんな厄介なのを……」


「それ聞いて、征服してきた王朝にこの条件を課す事で倒壊するたびに出血を強いて、征服王朝一強にならないようにしたんじゃないかって考察した奴いたな。

 約束守んなくなったら弱ってるか戦争の準備してるかだろうし。土木技術は砦を作る戦闘力に直結するからそれも観察できるだろうし」


「それだと意外とえげつない条件だな!?」


「その説で行くと想像以上に色々考えてたんじゃないかな。

 大国主おおくにぬしのナンパエピソードに出てくるの、賢女さかしめ麗女くわしめ、賢い美女なんだ。

 そういう人たちを押さえられちゃったなら、古代だと割と深刻な頭脳流出だったんじゃないかとか」


「へー」



 一方、少し離れていたえにしである。


「?」


 気配を感じてえにしが上を見上げた。

 木の枝の上に居たのは顔の隠れる白い蔵面、角。

 30センチほどの子供の様な姿であった。


「え……」


 その子供が肩に担いでいた木槌を軽く振る。体と同じぐらいの大きさがありながら、張りぼての様に軽々としていて飾りがついた木槌である。そこから何かが落ちてきた。

 えにしは反応する暇もなく、ただ落ちる物を目で追う。繭玉の様なものが地面に転がり、瞬間、爆発した。


えにしさん?!」


 全員が爆発で異常に気付いた。


「大丈ふぇっぷし!」


 煙の中からえにしが声を出した。

 えにしは同時に、頭上に術を連射する。


「ちょ……えにしさん大丈夫??」

「くしゃみで術暴発とかあるの??」

「うく、ふっくし! うくしゅん! うぇくしゅ!」


 えにしが煙から出てきた。サラが目を見張る。


「状態異常、沈黙?!」

「沈黙どころかめっちゃくしゃみしてるけど!!?」

「しゃべっくしゅん! 喋れくしゅん!」


「なるほど、意思の疎通も、多分スキルも使えない。

 結構凶悪な状態異常だ」


「とにかく回復薬をどうぞ」


 サラが用意していた状態異常回復薬を差し出した。


 喋れるようになってすぐさま、えにしが訴えた。


「ボスっぽい人が居たんです! 木の上!」

「え?!」


 全員が周囲を見回す。

 頭上も見てみたが、えにしの術の乱射を避けて一時引いたらしい。


「居た!」


 ちょっとした崖の上に居るのは鬼型大禍おおまがつでよく見る真っ白な蔵面と角。

 しかしその体は精々30センチほど。狩衣のような白っぽい服、そして体に比べて大きな小槌。


「……大国主おおくにぬし? 小さくね?」

「多分、少名毘古那神すくなびこなのかみ

「そっちか」


 相手が槌をバットの素振りの様に振るうと、何かが飛んできた。


「この!」


 ケイが護符型式神で受け止める。途端に炸裂し、ケイのMPが大きく削れる。


「っこれ爆弾かよ!」


 と、その爆発で押され、護符型式神の隙間から何かが落ちてきた。


「い?!」


 ケイの目の前で何かが炸裂する。


「ケイ!?」



「……ここどこ?」


 ケイの眼前にはさっきとは別の森が広がっていた。


「ケイ?」

「ジオ?」


 と、向いた方には誰も居ない。


「え?」


 と周囲を見渡すと、数メートル先に骸骨型の八十禍やそまがつが立っていた。

 即死攻撃を使ってくる敵である。思わず飛び退く。


「おい、ケイどうした?」

「え? ちょっと待って、皆どこ??」


 骸骨型の八十禍やそまがつはふらふらと動いているが、こっちに来る様子はない。

 よく見れば樹上に蜂が飛び、木の幹にトカゲ、根元に兎、草むらに蛇、ちょっとありえないぐらい八十禍やそまがつが密集している。

 そして兎の八十禍やそまがつがぴょんと跳んで木の幹をすり抜けた。現在のゲームの仕様だとなかなか起こらない現象である。

 よくよく見ると、どの八十禍やそまがつも地形を無視して動いている。回り灯籠の影の様にうろうろしているだけであった。


「……何かバグったかも……」

「落ち着いて、状態異常、混乱だってさ」


 サラが薬師のジョブスキルで診断を下す。


「ええ? それどーなんの??」


「ケイ、シキ出してくれ。シキが混乱してない様なら緑火鳥居まで逃げる。

 状態異常に対抗する方法が無い。

 スキルは使えるか?」


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