1.純和風VRMMOへの招待
彼はVR空間の自室で、招待状を見ながら悩んでいた。
「純和風VRMMOねぇ……正直、あんまり興味ないんだよな……」
知人にクローズドベータテストに誘われて、はや10日。既にゲームは6日前に稼働している。
招待の期限は一か月有効なのでいつ入ってもいい。
しかしクローズドなだけあって情報がほとんどない。
たまに運営が動画を出しているのだが、まだイメージPVといったものが多い。
― 純和風VRMMO 荒魂鎮魂 ―
「タイトルの読み方がまず分かんねぇもん。
あらみたましずめって動画のタイトルコールで知ったからね?」
現状、ほぼアルファテスト並のクローズドベータ段階。
アルファテスト、要するにほぼ身内しかいない状態という事である。
日本神話モチーフ強めのゲーム。なんやかんやして日本神話の神様の加護を受けて日本神話の神様とか伝説の妖怪とかを相手にバトルする。
典型的なハック&スラッシュのダンジョン攻略もの。
自動生成するダンジョンをパーティーを組んで探索し、ボスを倒す。
つまり物語はほとんど無く、敵を倒してダンジョンを攻略するというシンプルなもの。
以上、ベータテストに誘ってきた知人の説明である。
「俺、マジで日本神話アマテラスぐらいしか知らないんだけど……」
詳細は教えてもらえなかったが、尖った需要を狙うゲームは開発者が部外者の意見を聞きたがっていることも多い。
また、最近はAIにプログラミング部分を任せる都合上、実装の速度に人間の為の解説・説明が追い付かない事がたびたびあり、その点でもテストプレイの重要性が上がっている。
「まぁ、行くだけ行って義理は果たすか」
感想でも送って辞めればいいだろうという考えで、彼は招待状のアドレスを開いた。
真っ暗な世界に大きな八角形の鏡。
「ここでキャラメイクしろって事ね」
他のゲームでよくある通り、鏡に触れてジョブを選択し、自身の能力値が見えるようになる仕様だろう。現在は何も振ってないので0だ。
徒士
騎士
忍者
術師
式神使い
薬師
「分かんねぇよ!」
彼は膝をついた。orzの構えである。
「ジョブ6つだけど、いきなり分かんねぇよ……一番上、何? とし?」
徒士である。
「えーと……騎獣? え? こんなのも選べんの? 忍者とトシの違いが分からん……術師は……大体攻撃魔法使いって事でいいのか? じゃあ式神使いは? ……え? 三つもあんの? 薬師は生産職だよな??」
困惑しながらも探り探りジョブを確認していく。
「ビジュアルは……基本人型か」
VRの都合上、極端に人型から離れたキャラは操作性が悪くなりがちで敬遠される傾向にある。
ビジュアルを確認していた彼は思わずつぶやいた。
「……なんじゃこりゃ。自由過ぎだろ」
彼は少し考える。
「せっかくだし、ネタに振ってみるか」
どうせほぼ捨てアカウントのつもりである。
数分後、彼は一通りの入力を終えていた。
「最後にゲーム内の名前の入力か、使われてる苗字見るに、意外と人は来てるんだな、まぁケイって名前が使いやすいのかもしれないけど」
短くて変な意味もない名前は、アバターに使いたがる人が多い。
そのため、最近のMMOでは苗字システムが増えている。同じ名前を付けても区別できるようにするためである。
「苗字は適当でいいや」
鏡が輝き、世界が光に包まれた。