9話
ネットで買った商品は夜には間に合わなかったみたいだ。まあ夜に届いていたとしても俺たちはその頃にはハッスルしていたので届いたことさえ気づかなかっただろうけど。
結局、買った商品は明朝一〇時過ぎくらいに置き配で玄関前に置かれた。
ドサって音がしたので気づいた。
玄関横に置いてあった段ボール箱はかなりデカかったのでちょいビビった。あれだけの量を買うとこれくらいになるんだな。狭い玄関をなんとか通してリビングで開封の儀に望むこととする。
「ほら、エレン。お前の服が届いたぞ?」
「え? 昨日頼んだと言っていたやつなのか? こっちの裁縫屋は仕事が早いな!」
「裁縫屋って。昨日今日で作ったわけじゃねえよ。まあ、いいや。開けるぞ」
早速箱を開封してエレンに着させてやることにする。
洋服だけは一度全て袖を通すことにする。着られなかったら直ぐに返品して交換してもらわないとだからな。金額が金額だけに『ま、仕方ないな』では済まないのでね。
一着ずつ着てもらってちょっとしたファッションショーを楽しむ。モデルはエレンだけだけど、それがいい。寧ろ、それがいい。
下着は同じものを色違いで買ったので一つ付けてみれば問題ないだろう。
ただ別の問題があることに気づいた。何しろエレンも俺も女性の下着、ブラジャーの付け方なんて知らなかった。ただ被せて後ろのホックを止めるだけでは駄目だったんだ。
仕方がないので最初のブラジャーは、『正しいブラの付け方』っていう動画をYontubeっていう動画サイトで見ながら俺が付けてやった。取る方の動画にはだいぶ世話になっているが付ける方は初めて見た。
エレンの胸にはFカップで丁度良かったようだ。マジでFなんだな。すばらしい。
道端で倒れていたとき以来、初の外出になるのだからおしゃれっぽいワンピースでも着させようと思ったが、そのワンピースに合う靴がない。おしゃれワンピースにサンダルのようなクロッ○ス履きじゃ流石に見てくれがよろしくない。
泣く泣くワンピースは諦めることにした。とは言えワンピースに合う靴を買いに行く靴がない。ミスリルアーマーを装着していたときに履いていたブーツがかろうじて合うような気もしなくもないが、相当ボロかったし、たぶん匂いもすると思う……。
しょうがない。取り敢えずはクロッ○スで茶を濁して直ぐに靴を買いにいこう。
今はまだ春季も中盤の方だ。今日などまだ肌寒い気もするので、エレンには青色のパーカーに七分の黒スキニーパンツ穿かせてクロッ○スのサンダル履き(すごく不本意)で初めての外出をした。
俺たちは玄関を出る前からずっと手を繋いだままだけど、なにか? なんだかそういう気分だったんだよな。いわゆる恋人つなぎってやつだけど、もうさ、自分の気持ちに嘘がつけないのよ。
こっちの世界に飛ばされて初めて見るこの世界の景色にエレンは心躍っているのが傍からでもよく分かる。
自宅から出て、街なかに向かうのに近くの土手沿いまで来た。
俺も気づかなかったけど今年の桜って今が満開だったんだな。桜の花びらがそよ風に舞ってきれいだ。
長い冬が終わって春の目覚めに誰も彼も喜びが溢れているようだ。俺に似合わないって? 分かっているさ。
「エレンはあの時、夜中にこっちの世界に飛ばされて来てそのまんま俺んちに軟禁していたようなものだからな。エレンのことをずっと家の中に閉じ込めていて申し訳なかった」
「なんで洋一が謝るの? わたしのことを案じてくれて、お家の中に匿ってくれていたんだし、こんなにも可愛くて着心地のいい高級そうな服も買ってくれたじゃない。それに戦争も殺し合いもない世界なんてわたし生まれて初めてよ! 花がキレイなんて今まで考えたこともなかったわ」
「いや、それほどいい服じゃないよ。カジュアルなやつだし。あと、この世界のどこかでは戦争も殺し合いもしていると思うよ?」
「もう! そういうことじゃないの! 洋一と敵や魔獣の存在にビクビクしないで一緒に楽しく出かけられるのが嬉しいんだよ! わたしは洋一と一緒が嬉しいの!」
なんだよ。チクショウ……可愛いじゃないかよ! ああああ! ものすっごく可愛い!
我慢できなくなって天下の往来のど真ん中でエレンを抱きしめてしまったじゃないか!
「好きだよ、エレン」
「うん、わたしも洋一のことが大好き!」
恋に落ちるってよく聞くけど、これって本当なんだな。確かにエレンは道端に落ちていたわけだし……。
かく言う俺もあっという間に落とされちまったよ。チクショウ。悔しいけど悔しくない! 何だ、この多幸感は!
これから二人分の生活費を稼がないとな……うぉし! 転職しよう! 頑張ろう!
ホワイトで給料がそこそこに貰える仕事に就こう。
桜吹雪の下を嬉しそうに走り回るエレンの笑顔がずっと見られるように!
ありがとうございました。
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