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2話

「本当に申しわけない……」

 エレンは勇者の格好の見た目とは真反対のしょぼんとして小さくなった態度で俺の後をトボトボついてきていた。


 さすがの俺もなんかちょっとエレンのことが可哀想になってきてしまった。

 真夜中近くの住宅街にコスプレ姿で寝転がっている女。そう考えてみると可哀想とか言っている場合じゃないような気もしなくもないが……。


「ま、気にすんなよ。これも何かの縁だし……」

 エレンにだけでなく自分にもそう言い聞かせてみた。そうとでも思わないと今のこの状況に俺自体混乱しそうだったしね。



「ここの二階の端っこが俺んち」


 築四五年の三階建てボロマンションで一応俺の部屋は2LDKの角部屋。内装はリフォーム済みなので、思いの外住心地は良い。


「この全てが向井殿の邸なのか?」

「ちげーよ。人の話を良く聞けよ。二階の角っこだけだよ。なんで無駄に部屋借りる必要があるんだよ」



 階段を上がって二階の端まで歩く。エレンの着ている鎧と腰に携えた剣がガチャガチャと音を立てているのが気になる。ご近所さんから苦情が出たらどうしてくれるんだよ?


 自宅に着いたらドアを開けて玄関ホールの灯りをつける。


 はあ、やっと帰ってきた。長い一日もやっと終わりに……ならないわな~。

 俺の後ろでワナワナしている女のこと一時的に忘れていたわ。あまりにも帰宅できたことにホッとして忘れたかったんですぅ~。


「炎が無いのに灯りが? もしや向井殿は魔導士……」

「ねえ、まだその設定止めないの?」


 いい加減普通に会話してもらいたいんだけどさ。


「……」

「あ、履物はここで脱いでね。ここ日本だからそういう風習なんだ。分かる?」


 明るいところでエレンを見て初めて気づいた。彼女は根っからの日本人ではなく、ラテン系っぽい見た目をしていた。切れ長の目に青黒い瞳。日に焼けたような褐色の肌、天パのような軽くウェーブの掛かった、くすんだ金の混じった長い黒髪。ついでに言えばすごーく美人さん。鼻筋は通っているし、少し大きめな口もバランス的に最適と思われるサイズ。


 だから日本の習慣は知らないのかもしれない、って思った。彼女の話す言葉はむっちゃくっちゃ流暢だけどさ。


「……分かった」

「ん、よろしく」


 俺はリビングの灯りもつけてからエレンに振り返る。


「それとさ……」

「何であろう?」

「へ?」


 ついさっきまでエレンが身につけていたのはボコボコになったへんてこ鎧とヘルメットだった。それらを彼女は今身につけておらずノースリーブの茶色い小汚いTシャツ崩れと膝の擦り切れたステテコみたいなパンツの姿に変わっていた。ガチャガチャうるさかった剣も跡形もなく消えている。


「えっと、エレン、いつ着替えたのかな? 俺がリビング行って振り返るまでほんの数秒間だった筈だよな?」

「ああ、ミスリルメイルと剣はマジックボックスに片付けた。ここでは必要なさそうだからな」


「ミスリルメイル? マジックボックス?」

 ナニソレ?


「ミスリルメイルと剣はエンデルバ王に戴いた勇者の装備だ。見ての通りボロボロだったがな。マジックボックスは魔力不要の勇者専用のスキルの一つなのだよ」


 ほら、といってエレンは何もない空間からこれまたあまりキレイとは言えない黄土色した貫頭衣を出して見せた。マジックボックスっていうのは時の止まった異空間に大量の物を仕舞っておける便利アイテムなんだとか。ナニソレ欲しい。


「えっ? もしかしてエレンて本当に異世界の勇者なのか?」

「わたしは最初から向井殿にそう伝えていた筈だが? 伝わっていなかったのか? それは申し訳ない事をしてしまった」


 なにもない空間から取り出した貫頭衣を着ながら謝ってくるがそんなのは今関係ない。それより……。


「じゃあ、エレンは魔法とかも使えたりするのか???」

「ああ。しかし、わたしは魔法があまり得意ではないし、今は魔王との戦いの直後なので、そもそも魔力がほぼ枯渇していて使えないが……」


 マジかよ⁉ まさかの本物なのか?


 詳しく聞いてみるとエレンの使える魔法は所謂バフ系とデバフ系が主だという。その他には体力回復系と解毒系は使えるが、怪我や病気を治す治癒魔法は使えない。そういうのは聖女とか司祭とかの神聖魔法なんだってさ。聖女ってマジで居るんだね!


 つか、魔法って本当にあるんだ! エレンも使えるってすげ〜な! 見てみたいけど残念なことにいまエレンの魔力はほぼゼロなんだと。

 寝ている間に空間中の魔素を取り込んで回復するらしいが、こっちの世界じゃ魔素なんてものは聞いたことがない。多少はあるのかもしれないけど確実性はかなり低いはず。なんだ、せっかくの魔法なのに見ること出来ないのか。もったいない。




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