第二章 the unknown 未知なるもの
「ねえ、そのサンドイッチの作り方だけど」
「ええ、簡単よ。だたスライスして挟むだけ」
「そう、それなら戦場への携帯食にもできるな。今度作ってみよう」
リーエはクリスの差し出すサンドイッチに興味を持った。トマトケチャップ以外は、スライスされたサラダだけの簡素なサンドイッチだ。
「うーん、私は缶詰の方がいいわね。戦場だとどうしても型が崩れてしまうわよ」
「あらそう?」
クリスは微笑んだ。
リーエの顔も今は平和だ。
昨日の資源貯蔵庫の緊急ミッションも無事終わり。今はSFTSも襲来しない貴重な休日だった。
「ニャー」
猫がリーエたちの座るベンチに寄って来た。
ここはアベンジャーズ・ザ・ウィメンズの端にあるせせこましい庭だった。常緑樹が数本植えてあり、他はベンチが二つしかなかった。
中央に申し分程度の噴水がある。
「ニャー」
「にゃー」
リーエも猫撫で声で猫をあやしていると、次第に愛着が湧いて来た。様々な戦場を駆け抜けて来たリーエにとって、今の時間はなによりも貴重だった。
「飼い主はいないようだ」
「そうね。みんな忙しいから……」
「よし、飼ってみよう。今日からお前の名はおひるねこだ」
「さすがに、可愛いわね」
と、その時。
猫の総毛が逆立った。
「え?! な、なんだ!! この感覚は?!」
「う! これは! ……まずいわね……」
突然のとてつもない悪寒が二人を包み込んでしまった。
クリスは勢いよく立ち上がり、叫んだ。
「エデルが前に言っていたの!! アベンジャーズ・ザ・ウィメンズ本部に時々入り込む知的生命体がいるって!!」
「SFTSか?!」
「いえ、別の生き物よ!!」
「何故今まで言わなかった!!」
「確証がまったくつかめてないの! それに、誰も姿を見た人はいないの!」
「それでは、どうしてその存在に気が付いたんだ!」
リーエの怒声にクリスは俯き加減にこう言った。
「確実に死亡しているの。一週間前から本部で謎の変死体がでてるわ……」
「な、なんだと……」
「迂闊だったわ……私も他の皆も今までエデルの言ったことを信じていなかったの……」
「そうだな……今まで信じられないことなのだろうな……」
リーエはおひるねこを連れ立ち上がる。
「だが、フフフフフ、こいつが……見つけてくれるだろうな」
おひるねこがシャーっとクリスの横に牙を剥いた。
リーエが電光石火の勢いでソードエネルギーの一刀でその空間を切り刻んだ。
「UWWWW!!」
「ほら、そこか!!」
突然、何者かの絶叫が上がる。
リーエがまたもソードエネルギーを空間に振り被り切断する。
血液も出ない。
だが、おひるねこは別の方向を向いていた。
「チッ!」
リーエは舌打ちをし、おひるねこを抱き込み本部内へと走る。
おひるねこが向いたのは、休憩所からの本部への入り口だった。
「リーエ……大勢侵入しているみたい! これでは暗殺よ! 万が一のこともあるわ! フラングレー司令官のところへ行って!!」
異変に気付いた者がでた本部内は大混乱だった。
通路を武装した女性軍人がひっきりなしに駆けていた。
フラングレー司令官の無線から本部内全体へ緊急ミッションが発令している。スピーカーから聞こえるフラングレー司令官の声はそれらをTU「the unknown(未知なるもの)」と名付けていた。
「撃て! 撃つんだ! そっちの壁にもいる! ほら! 貴様の真後ろにもいるぞ! 周囲で少しでも嫌な感じがしたら構わず撃てー!」
リーエは通路で銃を構えた一人の女性軍人たちに向かって、叫んだ。
一人の女性軍人が銃を抜くが、一足遅かった。
女性軍人の胸から血が吹きあげ倒れた。
ものの数分で通路にいる女性軍人の数が減って来ていた。
「チッ! 上等だーーー!」
リーエはおひるねこの向く方向へソードエネルギーで空間を切断していく。
「UWWWW! UW!」
「AWWWWWW!」
「UA」
「これで四体目だ! ほら、次へ行くぞ!」
「ニャー」
おひるねこは首をかしげる。
リーエは司令部へと急いだ。
途中、数体のTUを斬り捨てやっと、たどり着いた司令部は銃撃戦の真っ只中だった。
「よく来てくれた! リーエ! 緊急司令です! 最後の最後までここ司令部を守り切りなさい! こちらは援護に回る。私たちには構わず全て斬り伏せろ! そして、共に生き延びましょう!!」
フラングレー司令官の言葉で、リーエは不敵な微笑を浮かべ。司令部の唯一の通路への出入り口で猫を抱えて仁王立ちした。
「了解!! さあ、ここは私の狩り場だ……フフフフ、オープンコンバットだ!!」」
フラングレー司令官は大型コルトを捨てマシンピストルを取り出し、女性士官たちと共に種々雑多な端末の後ろに隠れた。
リーエは一刀のソードエネルギーの出力を最大にした。
放射型電流が唸り声を発し、放電する。
「ニャー」
「そこ!」
リーエは通路の傍の壁面の空を斬った。