第三十一話 『結局、俺は勇者の宿命からは逃れられないらしい (下)』
アンリ達の冒険はまだまだ続きますが、準備の為に一旦、完結とさせてもらいます。出来るだけ早く第三章をお届けしたいと思っていますので楽しみにして頂ければ幸いです。
――随分と集中しているようだ。
たどり着いた先には例の魔法陣とその前で熱心に儀式をしている魔族がいた。
どうやら、こいつは外の喧騒も、館で俺が起こした音も気が付いていないようだった。
「あー、ミスター。 お取込みの所済まないが相手をしてくれないか?」
そのまま叩き斬ってやっても良かったがそれでは俺の気が済まない。俺にはこいつの計画が失敗に終わった事を悟らせてやる必要があった。
「あー、これは失敬。 冒険者のお嬢さん、何か用ですか?」
話しかけても気が付かなかったので俺は小石を投げつける。
「お前に尋ねたい事がある。 よそにある三つのそれもお前の仕業か?」
「ええ、もちろんそうですよ。 どれ位の成果がありましたか?」
そう言ってニチャァと笑うこいつに、あの冒険者の泣き顔を思い出しながら、俺は心の奥でどす黒い感情が芽生えるのを感じていた。
「さあね」
「まあ……良いです。 準備も整いましたのでお嬢さんにもご覧になっていただきましょうか」
彼がそう言うと魔法陣が一層輝き出すのだ。
「これはですねぇ、唯の召喚陣ではないのです。 四つが同時に起動する事によって『アビス』の魔物を呼び出す。 私が発明した新型の召喚陣なのですよ」
「成程ね」
悦に入ってベラベラと喋り出した魔族に対して俺は覚めていた。
「ええ、素晴らしいでしょ、お嬢さん。 ふふふ、それが後数秒で発動するのです。 ああ、どれだけの町が壊滅するかと思うと……絶頂を向かえそうですよ!」
「すごーい♪」
「そうでしょう。 そうでしょう」
俺が褒めると、こいつは調子に乗って鼻高々で何度も頷いた。
「……何故、起動しない!」
「それはぁ、アンリちゃんがぁ、ぶっ壊してやっちゃったからぁ……だよ?」
「馬鹿な! 貴様如き冒険者風情にそんな力があるはずがない!」
「でもでもぉ、アンリちゃんってばお転婆だからぁ」
今度は俺がニヤニヤする番だった。焦るコイツに俺は容赦なく煽り倒す。
「こんな弱っちい魔法陣とかぁ、壊すの簡単だったよ?」
「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿なぁぁあ!」
「はい、消えた!」
俺は自分の腿を平手で叩くと破邪の魔法を発動する。
「貴様ぁ! ぶっ殺す!」
「おいおい、さっきまでの余裕はどうした?」
「糞がぁ! 切り刻んでブタの餌にしてやる!」
激昂した魔族の腕が四本に増える。その手にはサーベルが握られていた。
そして、四本の腕から繰り出される激しい連撃が俺を襲う。
「おせえよ!」
俺もそれに連撃で合わせる。
十四合。そこで打ち勝った俺はこいつの体をバラバラに切り裂いた。
――その強さ……、まるで噂に聞く勇者そのもの……。 そうか貴様は勇者だったんだな!
本体が切り刻まれると、そこから黒い靄が溢れ出す。
「しつこいぞ。 さっさと死ね」
――クックック……、我が最後の力を見せてやろう。 自らの命を使った最後の召喚をな! 絶望しろ、勇者!
そう言い残すと霧は天井に溶けて消えた。
そして、辺りが強力な魔力と共に振動を始めた。
「アンリちゃん!」
俺が外に転移すると村人たちは皆倒れていた。そこから黒い霧が一斉に吹き出して集まり出していた。
これが奴の言った最後の召喚って奴なんだろう。
「私がやろうか?」
「馬鹿なこと言っていると嫌いになりますよ? お兄ちゃん」
ユリ……もとい、アンリ・ナイトの申し出を俺は満面の笑みで拒絶した。
その霧はやがて形を作り黒い巨人となる。
「むう……、了解した。 では、私はサポートに回ろう」
巨人が巨大な岩を投げつける。彼はそう言うと光の盾を生成してそれを防いだ。
「ううん、そこに立っているだけでいいです」
「何、余裕ぶっこいちゃっているんですかぁ」
オロオロし出すシルを見て俺とナイトは苦笑する。
「『オーラ・セイバー』」
魔法を発動すると俺は跳んだ。アンリ・ナイトを踏み台にして更に高く跳ぶ。
そして……。
「『無限斬』!」
神速の連撃が巨人を切り裂いた。
「アンリちゃん、今回の件は冒険者ギルド総本部に直接、報告をするように上から言伝を頼まれている」
「えー! お兄ちゃん、やっといてくださいよ」
そう俺が瞳をウルウルさせながら訴えると、彼は困ったような仕草をして「いや、こればっかりは君がやってくれないと困る」と言い残して転移していった。
「うーん、泣き落とし作戦失敗……」
「行きたくないのでござるか?」
「うー、だって遠いですよ? それに……折角こっちの方にいるのだからエルフの里を訪れてみたかったりするんですが……」
「終わったら、また来ればいいじゃないですか。 だって、私たちは冒険者なのだから」
こうして俺たちの進路は皇都と決まったのだ。
「『ノルン』の諸君、この度はご苦労だった。 その功績によって君たちを『アイドル』級冒険者に任命する」
「『アイドル』級ですか?」
俺は初めて耳にするその言葉に思わず聞き返してしまう。
「うむ、君たちを『プラチナ』級に推す声もあったのだが、前回の講演が実に好評でね。 そこで冒険者と広報官を兼ねる等級を新設したのだよ」
「はぁ……」
「まあ、新設したばかりなので公演予定とかはまだないよ。 それまでは、いつも通り過ごしてくれていい」
「アイドルですか!」
「拙者に務まり申すかな?」
嬉しそうにソワソワし出した二人を見て『二人が嫌じゃないなら、まあいいか』
俺はこんな事を考えていた。
――執務室にて。
「どうやら陛下の思惑通り事が進んだようですな」
「当たり前だ。 俺を誰だと思っているのだ? さて、これから忙しくなるぞ。 まずは曲の発注だ。 んー、そうだな、取りあえずは十曲くらいでいこうか。 よし、爺やよ。 めぼしい音楽家全てに声を掛けるのだ!」
「しかし、陛下。 どうしてそこまでアンリ嬢に入れ込むのですか?」
これがセバスチャンには不思議でならないのだ。
「俺はな、物心ついた頃から父上に『勇者に報いる様に』と言われて育ったのだよ。 無限に戦い。 無限に傷つき。 そして、名誉を掴む事もなく人知れず死んでゆく。 そんな勇者に報いたいのだよ。 彼らに栄光を――キラキラと輝く道を歩ませてやりたいのだよ!」
皇帝の熱弁を聞いて彼は目頭が熱くなるのと同時に自らの不在を恥じた。
「ああ、アンリちゃん。 お兄ちゃんがキラキラにしてあげるからね。 ああ、そうだ衣装の発注も忘れるなよ。 俺の資産を幾らつぎ込んでも構わん。 可愛いアンリちゃんを更に、更に可愛くさせる為なら例え国を売ってでも価値があるというものだ! ああ、でもダメだよ。 俺と君は兄弟の様なもの。 惚れてもいいけど、添い遂げられないよ。 どうしてもと言うのなら考えるけど、お兄ちゃん、困っちゃうな……」
完全にイった目で尚も呟き続ける主を見てセバスチャンは思った。
――やっぱり、唯のロリコンじゃねえかよ!
登場人物
アンリ……本編主人公の十一歳の幼女。一人称視点では前世の男のまんまなのだがしゃべる時は猫を被る。全盛期の時の五分の一程度の強さらしいが、それでも規格外に強い。
シル……金髪サラサラロングの巨乳のエルフ。見た目は十六歳程度。頭が少し弱い。メインの仕事は解説役。
カスミ……黒髪ポニテの美乳。刀を使い。最強を目指しているらしい。戦闘狂で『狂犬』の二つ名を持つ。
ミュウ……龍族の少女。結局、合流できなかった。




