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第十六話 『そして伝説へ・・・。 それが自分だとなると気恥ずかしいものだ(下)』

 何とも情けないことに俺が完調したのは、二日後の事だった。

 まあ、数時間もすれば歩くくらいは出来る様になっていたのだが、それでも眩暈が止まらなかったのも事実であった。

 シルはその事にプリプリと怒り、神速で宿屋に連れて戻ると、この二日間付きっきりで看病をしてくれた。

 館からの使いの者が『領主に会ってくれ』と慌てながら来たのは、正に俺たちが出発の準備をしている時だった。


「先日、強力な魔法の行使があったようだ。 見えはしなかったが、非才な私にもビリビリとそれが伝わってくる程の強力なものの様だった。 冒険者に依頼をして調査をさせてみたが、どうやらそれは君たちが関係している、との事。 間違いはあるかね?」

「はい、間違いはありません。 それはわたしがやりました」

 ユピテルに問われると俺は素直にそれを認めた。

「なるほど、()()とは凄いものなのだね」

 彼は俺の言葉に関心をすると続けた。

「それともう一つ。 どうやら、その魔法の直後からこの付近の強力な魔物の気配が軒並み消えた、と報告があったのだよ。 君の行為とそれは何か関係があるのかね?」

「はい、その魔法である程度以上の魔物は消し去りました」

 俺がこれまた素直にそう答えるとユピテルは「やはりね」と頷いた。

「それでは礼をしないといけないね」

「えーと、話が見えないのですか?」

 それまで黙っていたシルが恐る恐る手を上げると、ユピテルが解説をしてくれた。

「仲間である君がアンリさんの行為の意味が分かっていないってのは不思議な話なのだが……」


 まあ、こんな感じだ。魔界との境界に近いこの町は他と比べて当然の様に魔物の被害が多い。それに人間界にはいないような危険な魔物だって生息しているのだ。

 だから、こういう言い方ができる。『この町は常に危険にさらされている』と。

 上位の魔物を、それも経った一撃で全滅させた、となるとどうなるだろう?答えは簡単だ。『強い魔物がいなくなり、また辺りの魔物はその誰とも知らない彼を警戒する』だ。

 まあ、やがて別の強い魔物がやってくるだろうし、人間に仇なすのがライフワークの魔物の事なので、精々が数年の話だろう。だが、その数年は確実に今までより安全になる。

 俺がやった事はそういう事だ。


「はえー、拙者はてっきりアンリ師匠は『俺Tueeee』が趣味で、ついでに拙者たちの鍛錬をしようとしていたのだと思っていたでござる」

 そう言って仕切りに感心するアホの子カスミを見て思わず俺は苦笑してしまう。

 でも、同時に『こんなんでもいいか』なんて思った。

 今の俺は英雄でも勇者でもない、唯の冒険者アンリだ。だから、こんなお気楽な仲間たちと旅をするのが心地よい。


「そこで君達に報酬を支払いたいと思うのだ」

「えとえと、わたし達は依頼を受けたわけではないですし、わたしとしてはピクニックをしていただけですから……」

 ぶっちゃけ俺のやった事は唯の自己満足にすぎないし、家族に対する最後の孝行のつもりだったので報酬を貰うのは、気が引けると言うか、格好が付かなかったのだ。

「ふふっ、そう言うと思っていたよ。 だが、これは受け取ってもらう必要があるんだ」

 ユピテルはそう言うと手を叩く。すると三人の男がとても重たそうににしながらそれを運び込むと慎重にテーブルの上に置いた。

 美しい装飾をされた青色の鞘に納められた長剣。俺にとって、それは忘れられるはずもない物だった。

「これはね。 私の兄の遺品なんだ。 何とか苦労して最深部より回収ができたそうだ。 当初、陛下は別の勇者に持たせるつもりだったようだが、誰も使えるものがいなかったので私の元に返されたのだ」

「大事な物なのでは? その様な物は受け取れません」

 圧倒的なジレンマが俺に襲い掛かった。喉から手が出るほどそれが欲しかったが、こいつにとっては兄の形見だ。おいそれと貰うわけにもいかない。

 必要な時が来るなら、場所は分っているんだ、その時は借りに来ればいい。こう考え俺は自分を強引に納得させる。

「いや、この剣は使い手を選ぶそうだ。 手に取るだけでもして貰いたい。 もし、君が扱えるようであれば兄も喜んでくれると信じているよ」


――ああ、俺の剣……。

 ドワーフの神匠たちがその命すら触媒として鍛え上げた俺だけの剣。

 俺は愛おしそうにそれに触れる。

 すると剣が鞘ごと変化をしたのだ。俺の胸元よりやや長かったそれは、両刃の長剣だったそれは、今の俺が振るうのに丁度よい長さのサーベルへと変化をしたのだ。

 俺はそれを手に取ると抜刀する。その柄は、まるで何年も使い込んだかのように俺の小さな手に馴染んでいて、俺は思わず涙を流した。

「ふむ、やはり剣は君を選んだようだね。 お二方、こちらから招いておきながら済まないが、アンリさんと二人きりで話したい。 客間で待っていて貰ってもいいかな?」

 ユピテルは満足そうに頷くとそう二人に退室を促した。


「やはり、その剣は兄さんが使ってくれ」

「いつから、それに気が付いていた?」

「まずね、兄さんに初めて会った時、何故か他人の気がしなかったんだ。 だから、最初、君は兄さんの娘じゃないか、と思ったんだ。 でも、よく見るとそれは間違いだと気が付いた」

「それはどうしてだ? どちらかと言えばそう考える方が自然だろ?」

「おいおい、兄さん。 私の能力は知っているだろ? 何よりも――まあ、単に母親似ってだけの可能性もあったけど、君には兄さんの面影がまるでないんだよ」

「なるほどな」

「そんな子が父の墓参りをしたいなんて言うのだから、どんな理由があるのかに興味が沸くってものだよ。 色々、考えてみたよ。 その可能性の一つに、もしかして兄さん本人じゃないかなんてのがあったんだ」

 俺が「荒唐無稽だな」と答えると「昔から兄さんはでたらめだったからね。 あり得ない話ではないと思ったよ」と笑いながらユピテルは返した。

「まあ、確信したのは、その剣さ。 なんでも、その剣は兄さん以外は使う事ができないそうじゃないか……、お帰りなさい、兄さん」

 そう言ってユピテルは涙を流した。そんな彼に俺は「ただいま」とだけ言った。

「行ってしまうのだね?」

「ああ、すぐに発とうと思っている」

 彼は俺が名乗らなかった理由が分かっているようだ。

「できれば兄さんに残って貰えればこの町は安泰なのだけれどもね」

「済まないな。 今の俺はユリシーズではなくてアンリなんだ。 じゃあな、達者でな」

 そう言って俺は部屋を出る。否、一度だけ振り返り。


「俺の力が必要な時は呼んでくれ。 何故なら俺は冒険者なのだから!」

 そう言って故郷を後にした。



「セバスチャン、例の件について報告をしろ」

 皇帝がそう言うと彼は恭しく頭を垂れると報告書を提出した。

「目下、調査中ですが、ある程度絞れてきました。 今しばらくのご猶予を」

「ふむ。 忌々しい事に唯の愉快犯か……」

 ユリアノスは報告書に目を通しながら、そう毒づいた。

「その様にございますな」

「まあ良い。 アンリちゃんをさり気なく――いや、露骨でも構わんから誘導しろ」

「はっ! 仰せのままに」

 主が別の報告書に目を通し始めたのを確認すると彼は一礼をし退出していった。


 皇帝がまともだと何か物足りない。そう思うセバスチャンであった。

 

 

 

登場人物

アンリ……本編主人公の十一歳の幼女。一人称視点では前世の男のまんまなのだがしゃべる時は猫を被る。全盛期の時の五分の一程度の強さらしいが、それでも規格外に強い。


シル……金髪サラサラロングの巨乳のエルフ。見た目は十六歳程度。頭が少し弱い。メインの仕事は解説役。


カスミ……黒髪ポニテの美乳。刀を使い。最強を目指しているらしい。戦闘狂で『狂犬』の二つ名を持つ。

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